みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

1447「とりこになる」

2024-02-20 18:15:44 | ブログ短編

 僕(ぼく)はひとりで喫茶店(きっさてん)にいた。仕事(しごと)が思いのほか早く片(かた)づいて、次(つぎ)の約束(やくそく)まで時間(じかん)が空(あ)いてしまったからだ。僕はコーヒーを飲みながら思索(しさく)にふけっていた。
 その時だ。見知(みし)らぬ娘(むすめ)が声をかけてきた。「あなた、あたしに恋(こい)をしましたね」
 僕は思わず答(こた)えた。「何を言ってるんだ? 君(きみ)は――」
 娘は僕の言葉(ことば)をさえぎって、「さっきから、あたしのことチラチラ見てたでしょ」
「いや…。見てないよ。君のことなんか…」
 娘は僕の顔をまじまじ眺(なが)め、「もう、そんなに恥(は)ずかしがることないよ」
「だから、そういうことじゃなくて…」
 僕は思わず次の言葉を呑(の)み込んだ。おかしい。さっきまで店(みせ)にいた客(きゃく)が一人もいない。ウエイトレスの女の子も…。いったいどこへ行ったんだ?
 娘は僕の顔の前で可愛(かわい)く手を振(ふ)ってみせて、「どうしちゃったんですか?」
「いや…。他(ほか)の客はどこへ行ったんだ。さっきまで座(すわ)ってたじゃないか…」
 娘はにっこり微笑(ほほえ)むと、「いやだ。それは、あたしに恋をしたからですよ」
「いや、違(ちが)う。そんなこと…あるはずないんだ。僕には、付き合ってる彼女が…」
「大丈夫(だいじょうぶ)ですよ。みなさん、ちゃんとそこにいますから。ただ…、あなたがあたしに夢中(むちゅう)になってしまったから、目に入らなくなっちゃったんだよ」
<つぶやき>この娘は、もしかしたら妖怪(ようかい)のたぐいかもしれません。くれぐれもご用心(ようじん)を。
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