彼には思いを寄(よ)せている女性(じょせい)がいた。だが、その彼女は彼のことを何とも思っていないようだ。友(とも)だち…いや、知(し)り合いのひとり、としか認識(にんしき)していなかった。それが、どういうわけか、最近(さいきん)になって彼に話しかけてくることが多(おお)くなった。
これはどういうことなのか? 彼はずっと彼女と話がしたいと思い続(つづ)けていたので、その願(ねが)いがかなっているのか…。彼は妄想(もうそう)を膨(ふく)らませた。もしかしたら、自分(じぶん)には人を操(あやつ)る能力(のうりょく)が芽生(めば)えたのかもしれない。もしそうなら、彼女ともっと親密(しんみつ)に――。
こうなると、自分の能力を確(たし)かめてみたい、という欲求(よっきゅう)が抑(おさ)えられなくなってきた。でも、いきなり彼女を相手(あいて)に実験(じっけん)するのは…。そこで、彼の身近(みぢか)にいて一番(いちばん)恋愛対象(れんあいたいしょう)にならない女性を選(えら)んだ。それは幼(おさな)なじみで本性(ほんしょう)を知り尽(つ)くしたヤツだ。
彼は、その幼なじみを呼(よ)び出して、頭の中であることを念(ねん)じ続けた。
幼なじみの女性は彼を前にして言った。「どうしたのよ。こんなとこに呼び出して…」
彼はさりげない感(かん)じで、「たまには一緒(いっしょ)に飲(の)みたいなって…。で、仕事(しごと)はどうなんだ?」
「仕事?」女性は彼を見つめた。彼と目が合うと動揺(どうよう)したようにグラスを飲み干(ほ)して、
「まぁ、実家(じっか)の店(みせ)を手伝(てつだ)ってるだけだけど…。それが…」
また彼と目が合った。頬(ほお)にほんのりと赤味(あかみ)がさした。女性は酔(よ)ってしまったのか、彼にしなだれかかる。彼はしてやったりとほくそ笑(え)んだ。
<つぶやき>こんな能力ありませんよ。女の子をもてあそぶようなことはダメですからね。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます