「ねえ、未来(みらい)のこと考えたことある?」
「何よ、いきなり難(むずか)しいこと聞いてくるわね。うーん、そうねぇ…。なくはないけど、先(さき)のことなんてどうなるか分かんないわ。それより、明日、美味(おい)しいものが食べられるかどうかが問題(もんだい)よ。あ~ぁ、誰(だれ)がおごってくれないかなぁ」
「もう、あなたって食(く)い気ばっかりね。少しは真剣(しんけん)に考えた方がいいよ」
「あんただって、人のこと言えないじゃない。疑似恋愛(ぎじれんあい)にはまってるくせに」
「まあ、そうなんだけど…。実(じつ)はね、おばあちゃんに言われちゃったんだ。あなたには未来があるんだから、大切(たいせつ)に使わないとダメよって…」
「未来か…。何か、今のあたし達じゃ想像(そうぞう)つかないよね。あたし達より何倍(なんばい)も生きてきてるんでしょ。きっと、大変(たいへん)なこといっぱいあったんだろうなぁ」
「そうよね。……わたし、うまくやっていけるかしら?」
「もう、なに落ち込んでんのよ。長く生きてきたってことは、それだけ美味しいものを食べられたってことでしょ。あたし、何だかワクワクしてきたわ」
「あなたって、どこまでもポジティブなのね。うらやましいわ」
「だって、今この瞬間(しゅんかん)は、今しかないのよ。やりたいことは、今やらなきゃ」
<つぶやき>未来の自分を想像(そうぞう)してみて。そこにたどり着くには、いま何ををすれば…。
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柊(ひいらぎ)あずみはうなずいて言った。「そうね。彼女の戸籍(こせき)を調(しら)べてみたけど、今の両親(りょうしん)の養女(ようじょ)ってことになってたわ。本当(ほんとう)の親のことは分からなかったけど、私たちと同じかもね。でも、彼女は自分(じぶん)が能力者(のうりょくしゃ)だって気づいてないと思うわ。他の能力者に操(あやつ)られたことで、覚醒(かくせい)が始まったのかもしれない」
「これから、どうするんです?」神崎(かんざき)つくねは心配(しんぱい)そうに言った。「あたしたちの仲間(なかま)に…」
「それは、水木(みずき)さんが決(き)めることよ。でも…、能力者だってあいつらに知られたら、彼女の命(いのち)が狙(ねら)われるかもしれないわね。まず、彼女に能力者だって自覚(じかく)させないと」
「あたしにも手伝(てつだ)わせて下さい。あたし、どんなことでもやりますから」
――その日の夜、つくねは涼(りょう)を学校に呼(よ)び出した。夜の方が誰(だれ)にも気づかれないですむからだ。回りを気にしながら、つくねは涼を校舎(こうしゃ)の屋上(おくじょう)まで連れて行く。涼はブツブツと文句(もんく)を言いながらついて来た。屋上(おくじょう)へ出る扉(とびら)の前まで来ると涼が言った。
「なあ、屋上に出たらダメだろ。もし、先生たちにばれたらどうするんだよ」
つくねは振(ふ)り返ると、「あら、あなたって校則(こうそく)とか気にするタイプだった?」
「いや…、そりゃ、やっぱりまずいだろ? それに、そこは鍵(かぎ)がかかってるから…」
つくねは扉を開けてニッコリと微笑(ほほえ)んで、「ほら、開いてるわよ」
「うそだろ…? どうして…」涼は唖然(あぜん)とするばかりだった。
<つぶやき>校則違反(こうそくいはん)はダメでしょ。ちゃんと守(まも)って…、危険(きけん)なことはしないようにね。
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大学の学食(がくしょく)で、一人でお茶(ちゃ)をしていると、親友(しんゆう)の柚希(ゆずき)がやって来た。彼女はわたしの横に座ると、怒(おこ)った顔をわたしに近づけてきて、
「ねえ、どうして? 昨日(きのう)約束(やくそく)したじゃない。あたし、ずっと待ってたんだからね」
「約束…? えっ…、何のこと? わたし、何か…」
「はぁ? 忘(わす)れちゃったの? 信じられない。昨日、約束したじゃない。一緒(いっしょ)に――」
「ちょっと待って。昨日、わたしたち会ってないよね。わたし、ずっと家にいたのよ」
「なに言ってるのよ。昨日、あそこの花屋(はなや)の前で会ったじゃない。あたしのこと、からかってるの? もう、やめてよ。その時、スマホを変えたからって番号(ばんごう)教えてくれたじゃない」
「いやいや、それ、わたしじゃないよ。人違(ひとちが)いしたんじゃないの?」
「そんなことないわよ。だって…、あなただったし、あたしのことちゃんと知ってて…。いいわ、確(たし)かめてあげる」
柚希は自分のスマホで電話をかけた。すると、わたしの鞄(かばん)の中のスマホが鳴(な)り出した。わたしは、鞄の中からスマホを出して…。でも、それは――、
「これ、わたしのじゃ…。こんなの知らないわ。どうして、わたしの鞄に…」
これが、もう一人のわたしの存在(そんざい)を知った最初(さいしょ)の出来事(できごと)でした。それ以来(いらい)、わたしの持ち物がいつの間にか変わっていたり、知らない人から声をかけられたりしています。
<つぶやき>同じ人間がもう一人いるなんて…。もしそんなことになったら、どうします?
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「これのどこが上品(じょうひん)なんですか? こんなの全くの駄作(ださく)じゃないですか。死体(したい)はグロすぎるし、出て来る探偵(たんてい)はヘボですよ。それに、何ですかこのトリック。こんなの小学生でも思いつきますよ」
「き、君(きみ)は…。私がどんな思いでこれを書いたか…」
作家(さっか)は立ち上がると、背(せ)を向けて部屋の隅(すみ)にうずくまった。一緒(いっしょ)にいた上司(じょうし)らしき男は、ハラハラしながら彼女にささやいた。「神崎(かんざき)君、それはちょっと言い過(す)ぎだろう。我々(われわれ)は編集者(へんしゅうしゃ)なんだから、もう少し穏(おだ)やかに話さないと…」
彼女は目をつり上げて、「なに言ってるんですか。駄作を世(よ)に出していいんですか?」
作家は突然(とつぜん)立ち上がると苦悶(くもん)の表情(ひょうじょう)を浮(う)かべて言った。「もう、辞(や)める。辞めてやる!」
彼女は立ち上がると作家を睨(にら)みつけて、「はぁ? ミステリーを書きたいって言ったのは先生でしょ。それを、ちょっとけなされただけで放(ほう)り出すんですか? それでもプロかよ」
作家は思わず口にしてしまった。「分かったよ! 書いてやるよ。書けばいいんだろ。お前が腰(こし)を抜(ぬ)かすような最高傑作(さいこうけっさく)をな。一週間で書き上げてやる!」
作家は書斎(しょさい)へ飛(と)び込んで行った。上司の男は、ほっとしたように彼女に言った。
「もう、無茶(むちゃ)はしないでくれよ。もし先生に辞められたらどうするんだ?」
彼女はけろりとして、「大丈夫(だいじょうぶ)ですよ。先生のことは全部把握(はあく)してるんで。これなら、十日もあれば良い作品が出来上がるはずです。期待(きたい)してて下さい」
<つぶやき>怖(こわ)い、怖すぎます。でも、最高傑作はこうして身を削(けず)って生まれるのかも…。
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学校からの帰り道、彼女は同じクラスの吉岡(よしおか)君に呼(よ)び止められた。
彼は唐突(とうとつ)に言った。「君(きみ)は、僕(ぼく)のことが好(す)きなの?」
彼女は一瞬(いっしゅん)かたまった。どうして、そういうことを言うんだろう?
彼はさらに続けて、「だって、僕のこと、いつも見てるじゃないか」
彼女は首(くび)を振って、「いやいやいや、そういうんじゃなくて…。ただあたしは、朋香(ともか)から、吉岡君があたしのこと好きなんじゃないのかって聞いたから、気になっちゃっただけで…」
彼はちょっと驚(おどろ)いたような顔をして、「えっ、何でそうなるんだよ。君は高橋(たかはし)が好きなんじゃないのか? 僕はそう聞いたけど…」
「誰(だれ)がそんなこと…。あたしは、高橋君のことなんか何とも思ってないわよ」
「えええっ、そうなんだ。ああ、なるほど…、分かった。じゃあ…」
彼はそのまま行こうとした。彼女は、彼を引き止めて、「ちょっと、待ちなさいよ。吉岡君はどうなのよ。あたしのこと好きなの? 好きじゃないの?」
彼はちょっと困(こま)った顔をして、「ええっと、僕は…、そういうのは…」
「はっきり言ってもいいのよ。吉岡君だって、あたしのこと見てるじゃない」
「あれ…、そうだったかな…。たぶん、それは、気のせいだと思うんだけど…」
「そんなことないわよ。いつも目が合うじゃない。もう、男でしょ。好きなら好きって言いなさいよ。そしたら、あたしだって考えてあげてもいいのよ」
<つぶやき>好きかどうかを確(たし)かめるのは難(むずか)しいよね。吉岡君は、どう思ってるのかな?
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