これは地底(ちてい)の世界(せかい)から生還(せいかん)した男の証言記録(しょうげんきろく)である。彼は、地表(ちひょう)の陥没(かんぼつ)により出現(しゅつげん)した洞窟(どうくつ)を調査(ちょうさ)するために集められた探検隊(たんけんたい)のメンバーの一人だった。
「他の隊員(たいいん)はどうしたかって…。あいつらは…、残(のこ)ると言ったんだ。まったくバカな奴(やつ)らだよ。俺(おれ)はまっぴらごめんだ。あんなとこ…、一秒でもいたくなかった」
「何があったか…。それは…、あんたたちには信じられないだろうが…。別の世界さ。この地面(じめん)の下には別の世界があるんだよ。そこには、俺たちには想像(そうぞう)もできないことが…」
「はははは…。俺が、おかしくなってるって…。いいさ、誰(だれ)も信じてくれなくても…。でも、俺は知ってるんだ。この地面のずっと下に、俺たちと同じ人間が住んでるんだよ」
「どんな奴らかって…。俺たちと同じさ。まったく区別(くべつ)なんかできない。でもな、そいつらは俺たちよりもずっと進(すす)んでるぜ。俺たちとは違(ちが)う能力(のうりょく)を持ってる」
「侵略(しんりゃく)? まったく地上(ちじょう)の人間はそんなことしか考えられないのか? あいつらは、俺たちを観察(かんさつ)してるんだ。まるで野生生物(やせいせいぶつ)を見ているようにな。俺たちを保護(ほご)してるんだ」
「会いに行く? それはムリだ。もう、あの洞窟は埋(う)められてしまってる。あいつらにとっては、そんなこと簡単(かんたん)なことなんだ。あいつらが地上に出て来ることはない」
「どうやって観察してるのかって…。あいつらの目は、この地上のいたる所にあるんだよ。こうしてる間も、あいつらは、俺たちをずっと見てるんだ。何が面白(おもしろ)いのか知らないが…」
<つぶやき>この後、彼は忽然(こつぜん)と姿(すがた)を消した。もしかしたら、彼は地底人(ちていじん)だったのかも…。
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時は戦国(せんごく)の世(よ)。刀(かたな)を携(たずさ)えた武士(ぶし)たちが群雄割拠(ぐんゆうかっきょ)していた。この男たちも刀や槍(やり)をかかえて集まってきて、戦(いくさ)を始めようとしているようだ。
「…で、俺(おれ)、考えたんだけど、あのうつけ者が当主(とうしゅ)の織田家(おだけ)だったらやれると思うんだ」
「バカいうんじゃねぇよ。あの信長(のぶなが)を相手(あいて)に戦(いくさ)なんかできるわけないしょ」
「それがな、今川(いまがわ)が来てるんだって。桶狭間(おけはざま)ってとこへ向かったそうだ」
「なら、清洲城(きよすじょう)はがら空(あ)きってことか? これ、いけるんじゃねぇ?」
「君(きみ)たち、死(し)にたいのか? 信長がそんなヘマをするわけないでしょ。私が聞いたところでは、美濃(みの)のマムシの軍勢(ぐんぜい)が入ったって話だ。私は犬死(いぬじ)にはごめんだ」
「じゃあ、どうすんだよ。せっかく刀を集めてきたのに。いまさら野良仕事(のらしごと)なんか…」
「あっ、いまいいこと考えた。それだったら、稲葉山城(いなばやまじょう)を攻(せ)めるってのは?」
「おめぇ、戦(いくさ)したことないのか? この人数で落(お)とせるわけないだろが」
「あのさ、もっと現実的(げんじつてき)に考えた方がいいんじゃねぇ。こうなったら、俺たちで城(しろ)を造(つく)るってのはどうだ? 土木作業(どぼくさぎょう)なら俺たちの得意分野(とくいぶんや)だ」
「そりゃいいなぁ。だったら、どこに造るんだ? あんまり遠くない方がいいけど…」
「いいとこあるだろ。小牧山(こまきやま)だ。あそこなら見晴(みは)らしもいいし、すぐ近くだ」
<つぶやき>こんなことがあったのか…、なかったのか…。今となっては分かんないです。
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「じゃあ、ちょっとその辺(へん)まで見てくるよ」父親(ちちおや)は玄関(げんかん)で靴(くつ)をはくと言った。
母親(ははおや)は心配(しんぱい)そうに、「お願(ねが)いしますね。あの娘(こ)、このところ帰りが遅(おそ)い日が多くて。もう、どうしちゃったのかしら?」
父親が玄関の扉(とびら)を開けると、ちょうど外(そと)に水木涼(みずきりょう)が立っていた。父親と目が合うと、涼はばつが悪(わる)そうに微笑(ほほえ)んで、
「ただいま…。お父(とう)さん、どうしたの…。出かけるの?」
母親が咎(とが)めるように、「なに言ってるの? あなたの帰りが遅いからでしょ…」
「あっ…、私なら大丈夫(だいじょうぶ)よ。心配なんかしないで。もう子供(こども)じゃないんだから」
「子供じゃないから心配してるの」母親は涼の手を取って言った。
この二人は、涼の育(そだ)ての親だ。自分(じぶん)が養子(ようし)だと知ったのは中学の頃(ころ)。涼にとってそれは、それほど驚(おどろ)くことではなかった。小さい頃から何となく、自分はこの二人とは違(ちが)う人間だと感じていた。その感覚(かんかく)がどこから来るのか、やっと腑(ふ)に落ちたのだ。だけど、両親(りょうしん)にそのことを話すことはしなかった。実(じつ)の親でなくても、自分をここまで育ててくれたのだ。それはもう家族(かぞく)以外の何ものでもない。
「お腹(なか)すいたでしょ? ずく温(あたた)め直(なお)すからね」母親は優(やさ)しく微笑(ほほえ)んだ。
「あっ、お母(かあ)さん、ごめんなさい。友だちと食べてきちゃった。連絡(れんらく)するの、忘(わす)れてたわ」
涼は、学校(がっこう)では見せたことのない素直(すなお)さで言った。その時、玄関のチャイムが鳴(な)った。
<つぶやき>親にとっては、子供はいつまでも子供なのです。子供にとって、親って…。
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彼女はまだ、恋(こい)とかそういうのに不慣(ふな)れな女性だった。そんな彼女が恋をした。でも、恋の駆(か)け引きなどできるはずもなく、彼女は彼に直球(ちょっきゅう)を投(な)げつけた。
「あの、結婚(けっこん)されてますか? それとも独身(どくしん)……」
そんなことを突然(とつぜん)ふられても――。でも、彼は手慣(てな)れた感じで答えた。
「もちろん、独身だよ。僕(ぼく)と付き合いたいの? いいよ、君(きみ)みたいな――」
彼女はおどおどしながら、「でも…、でも、好きな人とかいるんじゃ…」
「好きかどうか分かんないけど、たまに会ってる娘(こ)はいるかなぁ。でも、かまわないよ。僕のこと好きなら、付き合っても。これから、どっか行くかい?」
「いや、わたしは…。そういうのは…。ふ、不倫(ふりん)とか、そういうのダメなんで…」
「別にこんなの不倫じゃないでしょ。それに、男はみんな不倫をするもんだと思うけど」
「そ、そんなこと…。わたしは……」
「まさか、一人の人と死(し)ぬまでって思ってる? 今どき、そんなこと流行(はや)らないよ」
彼女はうつむいてしまった。何をどう答えればいいのか分からなくなっていた。
彼は、そんな彼女の顔を覗(のぞ)き込んで、「いや、いいねぇ。何か新鮮(しんせん)だよ。ねぇ、僕、もっと君のこと知りたくなっちゃった。どうかなぁ、これから一緒(いっしょ)に――」
「ごめんなさい。やっぱりムリです」彼女は逃(に)げ出してしまった。
<つぶやき>人は見た目では分からない。付き合ってみなければ本心(ほんしん)は見えないのかもね。
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久(ひさ)しぶりに友人(ゆうじん)のアパートを訪(たず)ねた彼。けど、扉(とびら)を開けたのは美しい女性だった。彼は、部屋を間違(まちが)えてしまったのかと戸惑(とまど)った。どぎまぎしていると、部屋の奥(おく)から友人が顔を出した。友人は彼女を紹介(しょうかい)して、「俺(おれ)、こいつと一緒(いっしょ)に暮(く)らしてて――」
彼は、目を丸(まる)くした。なぜだ? なぜ、こんなヤツに女が!
彼は友人を表(おもて)に連(つ)れ出した。そして、会っていなかった間に何があったのか問い詰(つ)めた。友人は鼻(はな)の下を伸(の)ばしながら、さも自慢気(じまんげ)に言った。
「実(じつ)は…、彼女とは運命的(うんめいてき)な出会(であ)いだったんだよ。来月さ、俺たち結婚(けっこん)するんだ」
「まじか? そ、そんな…。お前、欺(だま)されてんじゃないのか? 本当(ほんとう)に…」
「彼女がそんなことするわけないだろ。彼女から告白(こくはく)されたんだ。とうとう、俺にもその時がきたってことさ。どうだ? うらやましいだろ?」
「そ、そんなことは…。でもな、なぜあんな娘(こ)が、お前なんかに…。あり得(え)ないだろ?」
「ひがむなよ。そうだ、結婚式には招待(しょうたい)してやるよ。絶対(ぜったい)、来いよ」
「えっ…。まあ…、考えとくよ。行けるかどうかは――」
「来るんだ。俺が、お前にチャンスをやるよ。彼女の友だち、美人(びじん)ばっかりだぞ。俺も、びっくりしたよ。みんな決まった相手(あいて)はいないんだって――」
「えっ、まじか? でも……。分かった。結婚式はいつなんだ?」
<つぶやき>いやいやいやいや…。これはどうなんでしょ? 欺されてる気がしないでも。
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