彼女は、彼の部屋(へや)へ始めて入った。彼女はざっと中を見回(みまわ)して、「弟(おとうと)の部屋よりは片(かた)づいてるじゃない」と思った。彼女は、ちょっとほっとしたようだ。
「適当(てきとう)に座(すわ)っててよ」と彼に言われて、彼女はカーペットに腰(こし)を下ろした。ふと、何か柔(やわ)らかいものが手に触(ふ)れた。何気(なにげ)なしにそれを見ると、雑誌(ざっし)の重(かさ)なっている間(あいだ)から女性の下着(したぎ)が!? 彼女は目が点(てん)になった。彼の方を見ると、彼はコーヒーを淹(い)れている。彼女は気づかれないように、雑誌でそれを隠(かく)した。
彼が戻(もど)って来ると、彼女は何事(なにごと)もなかったようにコーヒーを飲(の)み始めた。しばらくして、玄関(げんかん)のチャイムが鳴(な)った。彼は、「誰(だれ)だこんな時間に…」と呟(つぶや)きながら立ち上がった。すると外(そと)から女性の声がした。しかも、彼の名前(なまえ)を連呼(れんこ)している。彼は、なぜかあせっているようだ。あたふたと部屋の中をうろうろしはじめた。
玄関の鍵(かぎ)が開(あ)く音が聞こえて、すぐに綺麗(きれい)な女性が顔を出した。彼を見つけると、
「もう、何ですぐに開けないのよ。ちょっと忘(わす)れ物しちゃって、取りにきた……」
そこで、彼女がいるのに気づいたようだ。女性は語気(ごき)を和(やわ)らげて、「ああ、ごめんなさい。お邪魔(じゃま)するつもりはなかったのよ。そう…。そうなんだぁ…」
女性は彼女のそばに座ると頭を下げて、「いつも弟がお世話(せわ)になっております。もう、こいつ、いい加減(かげん)でがさつなヤツですけど、見捨(みす)てないでくださいね。もし、こいつが迷惑(めいわく)をかけるようなことがあったら、いつでも連絡(れんらく)して。すぐに対処(たいしょ)するから」
<つぶやき>これはとんでもない展開(てんかい)に…。でも、こんなお姉(ねえ)さんがいれば安心(あんしん)かもね。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。
私の誕生日(たんじょうび)でもないのに、夫(おっと)がプレゼントを買ってきた。何かもらうのは、結婚(けっこん)して以来(いらい)始めてかもしれない。これは、どういうことなのか? 今日は、何かの記念日(きねんび)だったのか…。いや、私の記憶(きおく)にはそんなものはない。
夫に訊(き)いてみても、「いや、別に…」と誤魔化(ごまか)すような感じではぐらかされた。これは、何かあるわね。私に隠(かく)しごとでも? それで、私の機嫌(きげん)をとるために…。でも、夫からは何の発言(はつげん)もなかった。プレゼントを渡(わた)しただけで――。
プレゼントを開けてみると、中にあったのはペンダントだ。しかも、そこにはキラキラ光ったものが…。こ、これは、まさか…ダイヤ? ダイヤモンドなの! 私は心臓(しんぞう)がバクバクして、目が眩(くら)みそうになった。
私は冷静(れいせい)さを取り戻(もど)すと考えた。ちょっと待ってよ。どうして、こんなものが…。お金はどうしたのよ。こんなものが買えるほど、持ってないはずなのに――。
私は、夫を問(と)い詰(つ)めた。これを買ったお金は、どこから出てきたものなのか?
夫は、私が期待(きたい)したほど喜(よろこ)んでないのを見て不機嫌(ふきげん)になっていた。それで私に、
「何だよ。お前に似合(にあ)うと思って買ってきたのに…。そんなに気に入らないんなら――」
私は、夫に笑顔(えがお)を見せて、「そんなこと言ってないわよ。すごく気に入ってるわよ。でもね、これを買う前に相談(そうだん)してほしかったわ」
<つぶやき>結局(けっきょく)、何でプレゼントをしたんでしょう? 日頃(ひごろ)の感謝(かんしゃ)なのかもしれません。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。
ここは、まるでゲームの世界(せかい)のようだった。何かを決(き)めるとき、必(かなら)ずサイコロが現(あらわ)れる。そのサイコロの目(め)で次の行動(こうどう)が決まるのだ。
――朝。彼は目覚(めざ)めると、サイコロを振(ふ)った。出た目は〈休日(きゅうじつ)〉。彼は会社(かいしゃ)を休(やす)まなくてはいけなくなった。しかし、今日は大事(だいじ)なプレゼンの日…。彼は同僚(どうりょう)に電話(でんわ)をかけた。
「わるい、今日は行けなくなった。プレゼン、頼(たの)んだぞ」
同僚は、「俺(おれ)に任(まか)せとけ。まあ…、結果(けっか)はサイコロ次第(しだい)だけどな。幸運(こううん)を祈(いの)っててくれ」
彼は、突然(とつぜん)の休日をどう過(す)ごせばいいのか考えてしまった。その時、サイコロが現れた。これは、何を決めろというのか? 彼は首(くび)をかしげた。しかし、サイコロが現れたら、必ず振らなくてはいけない。拒否(きょひ)したら、どんなペナルティーが科(か)せられるか分からない。彼はサイコロを振った。出た目は〈出会(であ)う〉。――彼には付き合っている彼女がいる。もし、これが恋愛(れんあい)がらみだと…、どうなってしまうんだ?
彼は指定(してい)された場所(ばしょ)へ向かった。そこには、年配(ねんぱい)の男性が待っていた。彼はほっと胸(むね)をなで下ろした。年配の男性は、彼に近づくと言った。「今すぐ、娘(むすめ)と別(わか)れてくれ」
その男性は、付き合っている彼女の父親のようだ。彼はあたふたして答(こた)えた。
「待ってください。僕(ぼく)たち、真剣(しんけん)に付き合ってるんです。結婚(けっこん)のことだって…」
「これは、サイコロで決まったことなんだ。もう二度と娘と会わないでくれ」
<つぶやき>こんな理不尽(りふじん)なことがあってもいいのでしょうか。こんな世界は拒否したい。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。
川相初音(かわいはつね)にはどうすることもできなかった。琴音(ことね)の相手(あいて)をするだけで手一杯(ていっぱい)なのだ。エリスは日野(ひの)あまりの首(くび)を後から締(し)め上げると、琴音に叫(さけ)んだ。
「もういい。引き揚(あ)げるよ」
エリスはあまりとともに消(き)えてしまった。琴音は、初音に一撃(いちげき)をくわえると、
「姉(ねえ)さん、次は決着(けっちゃく)をつけましょ。楽しみにしてるわ」
琴音が飛(と)ぼうとしたとき、目の前に突然(とつぜん)、神崎(かんざき)つくねが姿(すがた)を現した。そして、琴音のみぞおちに拳(こぶし)を打ち込んだ。琴音は身体(からだ)を崩(くず)して、つくねに寄(よ)りかかった。初音がよろけながら駆(か)け寄ってきて、琴音を抱(だ)き起こす。
つくねは、「大丈夫(だいじょうぶ)よ。気を失(うしな)ってるだけだから…」
その時、屋上(おくじょう)へ出る扉(とびら)が勢(いきお)いよく開いて、水木涼(みずきりょう)が息(いき)を切(き)らしながら駆け込んで来た。そして辺(あた)りを見回して、悔(くや)しそうに声をあげた。
「くそっ。もう終(お)わっちゃったの? 何でよ。もう、ずるい。私だけ飛べないなんて」
初音は二人に謝(あやま)って、「あまりちゃんが、あの女に連(つ)れて行かれた」
涼が駆け寄ってきて、「日野が…? 何でだよ。何で、日野を連れて行くんだ?」
つくねは琴音を見て、「それは、この娘(こ)に教えてもらいましょ」
初音は、琴音の髪(かみ)を直(なお)してあげながら、何か愛(いと)おしそうに見つめていた。
<つぶやき>あまりはどこへ連れて行かれたの? 初音は琴音を説得(せっとく)できるのでしょうか。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。
わたしは恋(こい)をした。それは、突然(とつぜん)やって来た。もう何年も恋なんかしたことなかったのに。わたしは戸惑(とまど)った。こんなわたしが、あの人に恋をしていいのだろうか? だってあの人は、みんなから慕(した)われていて、わたしなんかが――。
同僚(どうりょう)の女子社員(じょししゃいん)たちが、あの人のこと噂(うわさ)していた。
「あの人、誰(だれ)とも付き合ってないみたいよ」
「じゃあ…。あたし、告白(こくはく)してみようかなぁ」
「あなたじゃムリよ。だって、受付(うけつけ)のマドンナが告白しても相手(あいて)にしなかったのよ」
「分かった。あの人、美人(びじん)は好(この)みじゃないのよ。ほどほどのあたしだったら――」
わたしは、そんな会話(かいわ)に加(くわ)わることなく仕事(しごと)に戻(もど)った。途中(とちゅう)であの人が立っていた。なぜ、こんなところに? わたしは軽(かる)く会釈(えしゃく)して通り過(す)ぎる。あの人は、わたしを呼(よ)び止めた。わたしは驚(おどろ)いて振(ふ)り返る。あの人と目が合った。わたしは、思わず見とれてしまった。
あの人が何か言っているのだが、わたしの耳(みみ)に入るはずもなく――。あの人が、わたしの名前(なまえ)を呼んで、やっとわたしは我(われ)に返った。
あの人は、「――いいかなぁ? 帰りに外で待(ま)ってるから」
あの人は行ってしまった。いま、なんて? 何て言ったの!? わたしはあたふたしてしまって、あの人を追(お)いかけることもできなかった。
<つぶやき>これは期待(きたい)してもいいのでしょうか? それとも、何か別(べつ)の用件(ようけん)だったのか。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。