未練の呪縛
佐由子は
そっとドアを後ろ手に閉める
振り返ることはしない
思い出に流される気持ちはない
部屋のすみに置かれた本棚と洋服箪笥
すべてが空っぽである
押し入れの中も……
すべてを袋に詰めて捨て去ってしまった
北向の薄暗い部屋には使っていたベッドとテレビ……
まるで佐由子自体が空になってしまったようである
捨ててしまうのは簡単なことだ
佐由子の暗い過去をそれらと一緒に捨て去るのだから
もっと早くそうしていれば苦しむこともなったろう
その場から去るということに未練を持ちすぎたのかも知れない
もうその部屋には佐由子はいない
だから
そっと後ろ手にドアを閉めたのである
佐由子の心のドアが鈍い音を立てて閉まってしまった