瀬高に清水寺と言う古刹がある。
随分昔、子供らが小さい頃に行ったっきりで、とんとご無沙汰である。
「雨も上がってるし、久しぶりに行ってみるか。」
中腹の駐車場に車を停める。

参道の脇には、石仏がびっしり。
五百羅漢とある。
「あー、これは何となく覚えとる。」

山門。
何しろ、20数年ぶりである。
「いつ来たんやったっけ?正月の初詣?」(私)
「違う!夏やった。暑かった記憶があるもん。」(家内)
「・・・・・」(私)
季節のイメージがまるで逆である。
年々、記憶力がおぼつかなくなっている私。
ヤツの言葉の前に、沈黙するしかない。

本堂。

本坊庭園。
拝観料300円らしい。
「せっかくやから、見学するか。」
撮影禁止となっているので、ここからの画像は無い。
お座敷から庭を眺めていると、庭を掃いているご婦人がいた。
止せばいいのに家内、
「この庭は、どの季節がお勧めですか?」
「それは受け止め方次第です。昨日と今日でも既に違います。季節の移ろいをどう感じるかは、その方次第・・・(中略)。例えばあの借景・・・」
あーあ、止まんなく無くなっちゃった。
「俺、先に駐車場に行っとくけんな。」
ご婦人の切れ目ない話に、言葉を差し込めないで困り果てているヤツなど見捨て、私だけ庭園を後にする。
何たる冷酷非情さであろうか。
数分後、辛くも脱出に成功した家内に、
「腹減った。昼飯食いに行くぞ。確かこの近くに・・・」
さて、ここから本題である。

とんかつ紅の豚。
アニメ映画のタイトルそのものである。
『本気で おいしいとんかつを食べたい方だけ ご来店ください 店主』
ふーん。
この店を絶賛する友人の言葉を借りれば、
「あそこの豚カツが、一番美味しか!」
らしい。

店頭の看板と言い、これと言い・・・
こんな高飛車な物言い、私は好きではない。
もしもこの私に、下らないこだわりを押し付けでもしたら、
「お門違いだ。」
と一言だけ言って、即刻店を出てやるつもりである。
昼飯を食いに来たのに、何故か食べる前から戦闘モードとなる。

注文したのは極上ロースカツ定食 2500円。
長時間熟成させた六白黒豚というものらしい。
家内の注文は、どう違うか試すために、普通のロースカツ定食 1800円である。
テーブルの上には、ソースと岩塩と醤油が置いてある。
「最初は醤油を2~3滴かけてお召し上がりください。」
そら来た。
早速の押し付けか?

でもまあ、醤油ってのは試してみる価値はあるかな。
2~3滴かけて、
パクリ
あ、醤油大正解!
口の中がサッパリするし、肉の旨さが良く分かる。
熟成された黒豚ロース肉は、とろける様に柔らかく、脂がこれまたベラボウに旨い。
これは断然醤油だね。

「生姜の甘酢漬けもご一緒に。とても合いますよ。どうぞ試してください。」
はい、そうします。
あれだけ戦闘モードだったのに、すっかり言いなりである。
この店で食べるならば、少々お高いが極上ロースカツをお勧めしたい。
家内の頼んだ普通のロースカツと比べてさえ、全く別物と言って良い。
とろけるの美味しさに、何でも言いなりになる事請け合いである。