
梨木香歩さんの児童文学「ヤービ(TALES OF MADGUIDE WATER)」シリーズ
第二作『ヤービの深い秋』(福音館書店)を読み終えました。
去年の八月、発売と同時に買ってあったのですが、
なんだか余裕がなくて、最近の「ステイホーム」で
ようやく読むことができました。
読了後、しばし放心・・・素晴らしい・・・
物語の世界から戻ってくることが出来ませんでした。
『ヤービの深い秋』には、今まで読んできた梨木さんのエッセンス全てが
詰まっているような気がしているのですが、うまくまとめられず・・・・・・
こちらで記事にすることができずにおります・・・

で、読み始めたのが、梨木香歩『<秘密の花園>ノート』(岩波書店)。
梨木さんがバーネットの古典的名作「秘密の花園」を
ガイドしてくれます・・・
これこそ、長らく読まずにいた、一冊。
まさに「積読」本でしたが、この機会に読んでみた次第・・・
フランシス・ホジソン・バーネットといえば・・・
「小公子」「小公女」でおなじみ、どちらもアニメ化されています。
「秘密の花園」は、発表当時(1911)は、さほどではなかったものの
今では、作家の代表作として高い評価を得ているので、
ご存じの方も多いのでは・・・?

ざっくりと、あらすじを申しますと・・・
インドで孤児になったメアリは、英国・ヨークシャーの叔父に引き取られる。
叔父は留守がちで姪に関心も持たず、
メアリは、広大な屋敷で孤独な毎日を過ごす。
やがて、庭で、ずっと閉じられていた、秘密の花園を見つけ、
屋敷内では、メアリに秘密とされていた、病弱な従兄弟・コリンとも巡り会う・・・
子ども達が、庭の手入れをするうちに・・・・やがて・・・というお話。

小学校二年生で出会って以来、大好きな小説です。
フランシス・コッポラ監督の映画も大好きで、
DVDを何度も繰り返し観ていました。
その「秘密の花園」を梨木さんがガイドしてくださる・・・と
大喜びで買ったものの、私がイメージしていた、いわゆるガイド本ではなく
そこは「岩波ブックレット」、作品論というべき硬派な一冊で・・・
当時の私は、読む気が失せたんでしょうね~~w
けれども、今のような時間のの余裕がときに、
じっくりと考えながら読むには、ぴったりでした。

ご興味のある方は、ぜひこの一冊を読んでいただきたいので
ここではモロモロ省略しますが・・・
私は、梨木さんの「ガイド」にふん、ふん・・なるほど・・・と頷きながらも、
一方で疑問符が飛びかっていました。
梨木さん、ちょっと深読みし過ぎでは・・・?と。
以前、バーネットの評伝を読んだとき
当時としては、なかなかぶっ飛んだ人だなぁと言う印象を抱きました。
そもそも、緻密に作品構成を考えるタイプではないような・・・
(「小公女」のロッティやラビニアの設定からも、うかがえます)

(「秘密の花園」ガイドブックとして、こういうものを想像していましたw
エイミー・コトラー『秘密の花園クックブック』<東洋書林>は「秘密の花園」に関するエッセイとレシピ集です)
梨木さん・ご自身も、「おわりに」で書かれています。
「バーネットがこの作品を書いた当時、
このようなことを明確に意識していたかどうかは分りません。
たぶん、していなかったでしょう」(69頁)と。
ほらね!w
でも、それに続けた文章に、ガツンとやられました。
「作品は、作家個人の意図と意識を越え(略)神がかり的に生まれるものであり、
読書とは、そういう作品と読み手との間の協働作業(コラボレーション)である
とも言えます。」
そうか、そうか、作家と読み手のコラボで、「秘密の花園」は、
さまざまな読み方ができる・・・優れた作品ということで・・・
さらに、こうもお書きになります。
「すでに自分に与えられてある、『動かし難い』ものを、どう読み込み、解釈し、
自分の心象風景にフィードバックさせていくか」とも・・・
「動かし難いもの」とは、子が親から引き継ぐ遺産のこと。
この直前に、親は子に、有形無形問わず、(良きにつけ悪しきにつけ)
「人間とは如何なるものかと見せててくれる存在」だと書かれています。
私たちの心には、それぞれが先祖から伝えられてきたものが宿る・・・
その全てを動員して、ある作品を、自分の中で読み込んでいく・・・
そういうことをおっしゃっているのではないかと、思います。
梨木さんらしい、深い深い読書のありようです・・・

今、自分が還暦に届きそうな年齢になると
「私」という存在の中にある「動かし難いもの」は、
確かに存在していると思えるようにもなっています。
そう考えることは、なかなか身の引き締まるような、
それでいて、不思議な安堵感があるような・・・気持ちです。
ただ・・・この一冊を読んでしまったことで、
私は、ますます『ヤービの深い秋』の感想文を書くことが
難しくなってしまったのでありました。
『ヤービの深い秋』、示唆に富む場面が多く、
ぜひ、ぜひ書き残しておきたいのですが・・・・・・

「緊急事態宣言」発令・35日目。
医療従事者の皆様、エッセンシャルワーカーの皆様に、
敬意を込めて、感謝申し上げます。
どちらさまも、我が家も、どうか、今日の日を無事に過ごせますように。
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お付き合いいただき、どうもありがとうございました。
勝手ながら、ただいま、コメントをご遠慮しております。