クラゲ男は結婚する前は賃貸マンションに住んでいた。6年近く住んでいたが、隣人の名前は知らず、口も利いたことがない。マンション独特の人間関係だなと思った。
元妻と昨年の2月に入籍し3月にアパートに転居した。敷地内に2階建てで部屋が4つのアパートが3棟あった。
アパートはマンションと違い隣近所の付き合いがあるに違いないと思ったクラゲ男は早速元妻と菓子折りをもって同じ棟の3部屋の住人に挨拶にいった。
しかし、インターホンを鳴らしても応答が無かった。どの部屋も電気がついているのに…
きっと間が悪かったんだな…と納得し翌週の日曜日に再び挨拶に回ったがやはり応答が無かった。
電気がついてるのに…クラゲ男は腑に落ちなかった。
その翌週、三度目の正直で挨拶にいくとやっと玄関先に出てきてくれた部屋があった。年の頃30代前半位の女性だった。引越しの挨拶をすると女性は笑顔で挨拶してくれた。
結局、挨拶に応じたのは3部屋のうち1部屋だけだった。
「アパートの人間関係もこんなもんか…」とガッカリした。
引越しの挨拶に応じてくれたお隣さん、Kさんは時々すれ違うことがあった。「おはようございます」と愛想よく挨拶してくれる。
元妻も「感じのいい人だよね。」と喜んでいた。
その後、元妻と離婚することが決まったある日、アパートの前に大きなトラックが止まっていた。Kさんの部屋の前で家財道具が積み込まれていた。
仕事が終わって夜帰るとトラックの姿が無かった。「今朝、大きなトラックが止まっていたけどKさん引っ越したのかな?」と元妻に尋ねると「そうらしいね。マイホームでも買ったんじゃないのかな」
Kさんは時々元妻に挨拶していたみたいだが、引越しのことは元妻に言わなかったようだ。
Kさん一家が引っ越してからすぐに元妻は実家に帰っていった。
それから半月後、Kさん一家が住んでいた部屋に新しい人が引っ越してきた。引越し会社のトラックが止まっていた。
しかし、その新しい隣人は挨拶に来なかった。
アパートの敷地内に駐車場があるが、ある日突然いつも停まっていたミニバンがベンツになっていたり、ワンボックスカーが軽のミニバンになっていることが度々ある、その度にアパートの住人が変わったんだな…と思う。
ファミリー向けのアパートなので、転勤やマイホーム購入で皆引っ越していくのだろう。
アパートは仮の住まいでそこに住む人たちにとっては、通過点に過ぎないのかもしれない。そして、そこに住んでいる住民もまた行きずりの人間なのだろう。