星月夜に逢えたら

[hoshizukiyo ni aetara] 古都散策や仏像、文楽、DEAN FUJIOKAさんのことなどを・・・。 

あわれ彼女は娼婦  □観劇メモ(1)

2006-08-10 | 観劇メモ(演劇・ダンス系)
 公演名 あわれ彼女は娼婦
 劇場 シアターBRAVA!
 観劇日 2006年8月5日(土) 19:00開演
 座席 J列


体調不良でアップが遅くなってしまったけれど、大阪初日の感想を。
観劇を決めた理由は、三上博史さんの出演作品だから。
ヘドウィグに通じるような熱演がまた観られるかもしれない。
蜷川幸雄さんの演出によってどんなふうに料理されるのだろうか?
そんな期待感をもって大阪初日を待った。
原作は読みかけてやめた。まず知らずに観よう、と。

以下、全面的にネタバレです。

<あらすじ>
中世のイタリア、パルマ地方のお話。
勉学も人格的にも優秀で、将来を嘱望されている若者ジョヴァンニ。
彼は妹を愛していることを尊敬する修道士に告白するが、すぐに叱責される。
ある時、ジョヴァンニが妹アナベラに想いを伝えると、妹も同じく兄を愛していた。
二人は男と女として結ばれるが、妊娠をカムフラージュするために、アナベラは
貴族のソランゾと結婚する。
ところが、ソランゾはすぐに事実を見抜き、父親が誰かを知ることに。
一方、残されたジョヴァンニは引き離された苦しみと憎しみから復讐を試みる・・・。

<舞台装置など>
舞台全体の色使いがとてもシンプル。
パンフレットによれば、舞台セットのモチーフはパルマのある劇場、とのこと。
たくさんの扉を使っての、外と室内の場面チェンジの方法が独特。
建物の外壁や広場が見えている時は外。一転して、開放された扉にカーテンが揺れ始
めたら、それが室内。扉がカーテン越しに逆光になってブルーがかった光がきれい。
たくさん張りめぐらされた赤いロープは、兄と妹を結ぶ血も表しているらしい。
(日本的にいえば、運命の赤い糸なんだろうけど。)

冒頭の演出について。
男が白馬の背で仰向けになり、逆さまになった上半身だけを客席に向けている。
白いシャツを着て、両手は左右に開いて。
馬の背にそわせていた両手が上に上がったかと思うと、片手だけ握ったり・・・。
アナベラへの想いを修道士に打ち明けるシーンだ。

薄暗くてよく見えないのに、服をちゃんと着ているのに、あとでキスシーンもいっ
ぱい出てくるのに、私にはこの馬上のシーンが最も官能的なニオイがした。
本当に生きているように見える馬と、仰向けの男。
これは原作にない蜷川さん独自の演出らしいが、とても三上さん、だと思った。
これから何かナマナマしいことが起きるんだと思える、ゾクゾクする演出。
(青字の箇所は2回目観劇後に訂正しました。)

<全体の印象>
これが古典劇の味なんだろうか。
シェイクスピア劇もろくに観ていないうえに、初見の私には決して口当たりがいい
とは言えないお芝居だった。
どこか知らない国の珍味を初めて食べた時のような。
観終わった後もまだお腹の中でゴロゴロして、消化しきれてはいなかった。
なので、素晴しいとか、面白いとか、すぐに言えないのがちょっと寂しい~。
ただ、ヘヴィで熱くて、ガツンと固い、かなり見応えのある舞台だったと思う。
そして、日にちが経つにつれて早くまた観たくなってきた。
クセのある、クセになる作品なのかもしれない。

兄妹の近親相姦の話ではあるけれど、二人が結ばれてから後のほうが長い。
あの衝撃のラスト。愛が引き裂かれたという思いはそれだけにとどまらず、因襲的
な社会への復讐となって爆発する。その復讐劇が惨いのだ。
本当に、そこまでする??? というぐらい執拗にジョヴァンニは闘っていた。 
観劇後、パンフレットにあった三上さんの「くそくらえ!」という力強い言葉を何
度も反芻してみた。そういうことなのだ。このお芝居は。
私には登場人物たちが口にする「罪」と「正義」の感覚がどうも腑に落ちない。
どの人間の何が正義で、何が罪なのか・・・。
どうやらここが未消化の原因なのだ。
2回目の観劇では、原作を最後まで読んでのぞもうと思っている。

あ、そうそう。
最初は外国語を聞いているように塊にしか聞こえなかった台詞も、慣れてくれば、
そのリズムが心地よくなってきた。
テーマがテーマだけに、ン? 今なんかスゴイこと言った? エーーーーーッ!
というような放送禁止用語の婉曲表現みたいな台詞もけっこう混じっている。
そういう場面では、客席でも笑いが起こっていた。
(笑っていいのかわからない意味深な表現もある・・・?)
とりわけアナベラの養育者プターナのあの発言!
「若い娘がどうしてもという気分になったら相手がお父様だろうとお兄様だろうと
かまやしない」にはドヒャーって椅子から転げ落ちそうになった。

<おもな登場人物とキャスト>
三上博史さん(ジョヴァンニ)
初日からこんなに飛ばしていいの? と心配するぐらい高いテンションで舞台を
突っ走っていた。東京でも毎日こんなだったのだろうか? とにかくスゴイ。
今回のような古典劇で、長台詞に自分の感情をのせる三上さんを観るのは初めて。
最初はとまどったが、こういうスタイルもいけるんだ~と再認識。
最後の復讐シーンは、このために用意されたような衣装。赤い血で染まった白の
シャツのジョヴァンニが通路から現れるのが見ものだった。
舞台に駆け上がり、高らかに掲げたのは剣に突き刺した心臓。この時の勝ち誇っ
たような顔が印象的! 心臓の一片を喰いちぎって飲み込むところも凄まじい。
禁断の恋に苦悩したり、嫉妬したりする繊細な表情も、猟奇的な事をやってのけ
る狂気の顔も、両方とも似合う役者さんだなあと思う。

深津絵里さん(アナベラ)
白いドレスが象徴するような清楚でかわいいイメージを匂わせながら、芯が強く
て、近親相姦という大胆なことをやってのけるという役どころ。
古典劇の台詞回しが不自然じゃなく感情がこもっていて、ちゃんと自分の言葉に
なっていた。滑舌もはっきりしているので内容がスッと入ってくる。
かわいいだけじゃなく、結婚した相手に対しては(兄への尊敬の裏返しなのか)
見下すような態度もとる。お腹の子供の父親を問いただそうとする夫のソランゾ
との激しいやりとりはめちゃめちゃ迫力があった。
兄のことを男性と意識してジョヴァンニと呼ぶのは1回だけ。愛してはいるが、
男と女の愛情度は ジョヴァンニ>アナベラ という気がする。

谷原章介さん(ソランゾ)
舞台で見るのは初めてだけど、オトコマエだし、カッコイイ!!
特に妻のアナべラの不貞を知って、激しい剣幕で罵倒し、猛り狂うところ。
乱れたシャツの胸元がはだけて、ため息が出るほどセクシーなのだ。
アナベラの髪の毛を持って引きずるところも、芝居の意図に反してゾクッ。
移り気な貴族という設定がピッタリで、声もいいしよく通る。
三上さんといい、谷原さんといい、美形ぞろいの贅沢な舞台だと思う(笑)。

高橋洋さん(バーゲット)
高橋さん、最近はこっちの方向を極めつつあるのかな?(笑)
重くはりつめた舞台の空気をやわらげてくれるのが、このバーゲット。
金持ちの叔父の財産を継ぐことになっているが、少し頭がヨワイ青年役。
「白夜の女騎士」ではちょっとコワかったが、今回は「間違いの喜劇」の時の
ような道化役だった。バレエの格好で登場した時はほんとにおかしかった。
フィロティスとの恋にまっすぐなところが好感が持てたのに、あんな運命が
待っているなんて。
出演は一幕だけだったけど、インパクトのある演技で強く印象に残っている。

次回の観劇は土曜日。

<追記>
カーテンコールでは三上さんはやや照れたように目を細めて客席を見ていた。
深津さんは輝くような笑顔。谷原さんは腕を突き上げ、ガッツポーズ!
三上さんが深津さんの手をとって二人で退場するのが素敵だった。


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