泉鏡花の「夜叉ケ池」には印象的な台詞が幾つかある。
これも、その一つ。
僕は諸国の物語を聞こうと思って北国筋をあるいた。
ところが、僕、そのものがひとくだりの物語になった訳だ。
僕は物語そのものになったんだ。
物語そのものになるとか、絵の一部になるとか、そんなことが本当に自分
に起きたら…と、そのシチュエーションを妄想しただけでゾクゾクする。
そんな奇妙な感覚をそのまま芝居にしてしまおう。
というのが、今回の花組芝居の企みだったのだろうか。
とにかく。初演も再演も見ていない私には、初めての体験!
公演名 夜叉ケ池 武蔵屋組(夜の部)
劇場 伊丹 アイホール
観劇日 2009年1月31日(土)
座席 C列
<キャスト、スタッフなど>
原作:泉鏡花 構成・演出:加納幸和
●武蔵屋組●
出演:
萩原晃(鐘楼守)/水下きよし 百合(娘)/堀越涼
山沢学円(文学士)/桂憲一 白雪姫(夜叉ケ池の主)/山下禎啓
湯尾峠の万年姥(同眷属)/谷山知宏
白男の鯉七(鯉の精)/美斉津恵友
大蟹五郎(薮沢の関守)/大井靖彦
木の芽峠の山椿(腰元)/嶋倉雷象
黒和尚鯰入(剣ヶ峰の使者)/丸川敬之
与十(鹿見村百姓)/加納幸和(日替わりゲスト)
鹿見宅膳(神官代理)/北沢洋 権藤管八(村会議員)/横道毅
斎田初雄(小学校教師)/各務立基 畑上嘉伝次(村長)/磯村智彦
伝吉(博徒)/わかぎゑふ(日替わりゲスト)
<あらすじ>
三国ヶ嶽の麓(ふもと)の里、 龍神が住むという夜叉ケ池。
日に三度鐘をつく掟を破れば、 村はたちまち全て水の底に沈むという。
諸国を旅する学者僧、山沢学円。
彼がこの里で出会った鐘守りの男は、 行方不明の友人、萩原晃だった。
再会を喜び、共に夜叉ケ池へと出かけたその時 晃の妻百合は、かんばつ
に苦しむ村人に、 雨乞いのいけにえにと迫られる。
追いつめられて命を落とした百合を抱き、晃は鐘の掟を破る。
村が水に飲み込まれるたまゆら、一人残った学円は池の主、白雪姫と
妖怪変化の曲馬団、その道行きを垣間見る。
<物語に参加した私たち>
劇場に入ると観客席がコの字型に組まれていて、真ん中に台。その上に
釣り鐘が置いてあった。
芝居が始まると同時に鐘が上にあがり、中から男女が出現。
晃は野良着、百合は質素な着物。(白髪の鬘ではなく、姉さんかぶり。)
晃が幕の外へ消えたところへ学円が現れる。
頭上からは蝉の声が降り注ぎ、前方では小川のせせらぎの音。
目の前には想像上の風景がどんどんできあがっていく。
臨場感たっぷりだ。
「君もここへ来たばかりで、物語の中の人になったろう」と晃が学円に言
うと、暗示にかかったように物語の一員になっていく、ワタシ。
実際、観客の何人かが物語の登場人物に呼ばれ、前へと進んだ。
そこで夜叉ヶ池の白雪姫や万年姥や山椿や、鯉七や蟹五郎・・・といった
異世界の住人たちと遊ぶという、ちょっとした宴に参加するという趣向。
名前を聞かれ、ともに踊り、Yes, we can! といい、記念写真まで撮る。
その他の観客たちも、配られたビラを見ながら歌をいっしょに歌った。
おかげで、前回「夜叉ケ池」を見た時にもとらわれた不思議な感覚・・・
本当は彼らのほうがリアルに生きていて、人間のほうがお客=架空の存在
なのでは? という逆転の感覚をまたちょっと味わってしまった。
そして、それはどこか甘美でもある。
それにしても加納さんの頭の中、どうなってるんでしょ。
異世界の住人たちは、サーカスやカーニバルをテーマにした意表をつく扮
装だった。その演出に驚かされたり、笑わされたり。
たとえば、鯰入はナマズ髭をつけたピエロだったり、鯉七はむちむちパン
ツでアクロバティックに跳ねていたり、山椿は椿娘のようだったり。
一見、かけ離れた衣裳・演出なのに、その非日常さ、大騒ぎのさまがあの
場面にはピタリはまっていて、観終わってみればちゃんと夜叉ケ池の世界
に浸っていたことに気づいた。
ちなみに、武蔵屋バージョンの白雪姫は、歌舞伎の娘道成寺の隈取りと後
シテの衣装。龍神ということで(鹿の)角が頭についていた。
<物語になった男>
水下さんの晃は男っぽくて、汗がニオウ生身の人間という感じ。
今までの印象と違う、そこがまずオドロキだった。
そのせいなのか、百合が命を断ち、「一人はやらん、茨の道はおぶって通る」
と百合を抱きしめる場面では、感情移入の極致、まさかのウルウル。
こんな男くさい晃なら、小林大介さんのほうも見ておけばよかった。
桂さんの学円はリアリティがあり、みょうに身近に感じられた。
百合のために鐘楼守となった晃に、盟約を信じているのか?
と聞いた後、いや、信じろ、固く信じろ、と言い直す場面にウルウル。
最後の最後に物語を見届ける、その表情にもジーン。
友情を信じ、相手を思って行動する熱い人間像を、今回桂さんの学円で初め
て感じとった気がする。
百合を雨乞いの儀式の生贄にしようとする村人たちはかなり胡散臭い感じ。
人間の形をしているが、中身は妖怪そのもの。
その他の村人たちを表現するのに、人数の多さを個体の大きさで見せるアイ
デアにはビックリ。米俵田子作、大根たろべえみたいな(笑)でっかい人間
が最後の場面ではブキミさを増して見えた。
加納さんの白雪姫も見たかったが、ピチピチの魚を抱えた百姓の与十役もな
かなか捨てがたいと思った。
雷鳴が轟き、村が水にのまれてゆく様子はスモークで表現。
人も妖怪たちも混じって踊っていたのは、阿波踊り。フシギな感性だ。
ひいさま、これで誰に遠慮することもなく恋をしてくださいね!
<物語の闖入者、じゃなく日替わりゲスト>
可もなく不可もなく。
いえ、花組芝居の舞台のことではなく。
大阪楽・夜の部。日替わりゲストだった、わかぎゑふさんが伝吉役になって
登場し、花組芝居のメンバーに好き勝手放題言い残して帰った。
そのアドリブ台詞が傑作で、インパクト絶大。
「桂くん、(全員に君、ちゃん呼ばわり)あんた可もなく不可もない芝居し
てからに。それにシリアスなとこで噛んでたやないの!」
ウケましたー! 花組芝居まだ3回目の私にも。
(私は好きですよ、桂さんの学円。)
万事がこの調子でいじられる劇団メンバーたち。あとから、おおこわ、って
当事者たちの誰かがもらしてたけど、さもありなん(笑)。
この日は観劇前にスキップさんとお茶。
年末の「リチャード三世」観劇時に(いつのまにか)お買い上げの袋の中身、
素敵なバッグのお披露目もしていただいた。
いやー、カワイイ!と思わず手でスリスリしてしまいゴメンナサイ~。
その後、劇場でとみさんともお会いし、しばしおしゃべり。
うれしたのしの夜でございました。
能楽劇「夜叉ヶ池」観劇メモ(このブログ内の関連記事)
これも、その一つ。
僕は諸国の物語を聞こうと思って北国筋をあるいた。
ところが、僕、そのものがひとくだりの物語になった訳だ。
僕は物語そのものになったんだ。
物語そのものになるとか、絵の一部になるとか、そんなことが本当に自分
に起きたら…と、そのシチュエーションを妄想しただけでゾクゾクする。
そんな奇妙な感覚をそのまま芝居にしてしまおう。
というのが、今回の花組芝居の企みだったのだろうか。
とにかく。初演も再演も見ていない私には、初めての体験!
公演名 夜叉ケ池 武蔵屋組(夜の部)
劇場 伊丹 アイホール
観劇日 2009年1月31日(土)
座席 C列
<キャスト、スタッフなど>
原作:泉鏡花 構成・演出:加納幸和
●武蔵屋組●
出演:
萩原晃(鐘楼守)/水下きよし 百合(娘)/堀越涼
山沢学円(文学士)/桂憲一 白雪姫(夜叉ケ池の主)/山下禎啓
湯尾峠の万年姥(同眷属)/谷山知宏
白男の鯉七(鯉の精)/美斉津恵友
大蟹五郎(薮沢の関守)/大井靖彦
木の芽峠の山椿(腰元)/嶋倉雷象
黒和尚鯰入(剣ヶ峰の使者)/丸川敬之
与十(鹿見村百姓)/加納幸和(日替わりゲスト)
鹿見宅膳(神官代理)/北沢洋 権藤管八(村会議員)/横道毅
斎田初雄(小学校教師)/各務立基 畑上嘉伝次(村長)/磯村智彦
伝吉(博徒)/わかぎゑふ(日替わりゲスト)
<あらすじ>
三国ヶ嶽の麓(ふもと)の里、 龍神が住むという夜叉ケ池。
日に三度鐘をつく掟を破れば、 村はたちまち全て水の底に沈むという。
諸国を旅する学者僧、山沢学円。
彼がこの里で出会った鐘守りの男は、 行方不明の友人、萩原晃だった。
再会を喜び、共に夜叉ケ池へと出かけたその時 晃の妻百合は、かんばつ
に苦しむ村人に、 雨乞いのいけにえにと迫られる。
追いつめられて命を落とした百合を抱き、晃は鐘の掟を破る。
村が水に飲み込まれるたまゆら、一人残った学円は池の主、白雪姫と
妖怪変化の曲馬団、その道行きを垣間見る。
<物語に参加した私たち>
劇場に入ると観客席がコの字型に組まれていて、真ん中に台。その上に
釣り鐘が置いてあった。
芝居が始まると同時に鐘が上にあがり、中から男女が出現。
晃は野良着、百合は質素な着物。(白髪の鬘ではなく、姉さんかぶり。)
晃が幕の外へ消えたところへ学円が現れる。
頭上からは蝉の声が降り注ぎ、前方では小川のせせらぎの音。
目の前には想像上の風景がどんどんできあがっていく。
臨場感たっぷりだ。
「君もここへ来たばかりで、物語の中の人になったろう」と晃が学円に言
うと、暗示にかかったように物語の一員になっていく、ワタシ。
実際、観客の何人かが物語の登場人物に呼ばれ、前へと進んだ。
そこで夜叉ヶ池の白雪姫や万年姥や山椿や、鯉七や蟹五郎・・・といった
異世界の住人たちと遊ぶという、ちょっとした宴に参加するという趣向。
名前を聞かれ、ともに踊り、Yes, we can! といい、記念写真まで撮る。
その他の観客たちも、配られたビラを見ながら歌をいっしょに歌った。
おかげで、前回「夜叉ケ池」を見た時にもとらわれた不思議な感覚・・・
本当は彼らのほうがリアルに生きていて、人間のほうがお客=架空の存在
なのでは? という逆転の感覚をまたちょっと味わってしまった。
そして、それはどこか甘美でもある。
それにしても加納さんの頭の中、どうなってるんでしょ。
異世界の住人たちは、サーカスやカーニバルをテーマにした意表をつく扮
装だった。その演出に驚かされたり、笑わされたり。
たとえば、鯰入はナマズ髭をつけたピエロだったり、鯉七はむちむちパン
ツでアクロバティックに跳ねていたり、山椿は椿娘のようだったり。
一見、かけ離れた衣裳・演出なのに、その非日常さ、大騒ぎのさまがあの
場面にはピタリはまっていて、観終わってみればちゃんと夜叉ケ池の世界
に浸っていたことに気づいた。
ちなみに、武蔵屋バージョンの白雪姫は、歌舞伎の娘道成寺の隈取りと後
シテの衣装。龍神ということで(鹿の)角が頭についていた。
<物語になった男>
水下さんの晃は男っぽくて、汗がニオウ生身の人間という感じ。
今までの印象と違う、そこがまずオドロキだった。
そのせいなのか、百合が命を断ち、「一人はやらん、茨の道はおぶって通る」
と百合を抱きしめる場面では、感情移入の極致、まさかのウルウル。
こんな男くさい晃なら、小林大介さんのほうも見ておけばよかった。
桂さんの学円はリアリティがあり、みょうに身近に感じられた。
百合のために鐘楼守となった晃に、盟約を信じているのか?
と聞いた後、いや、信じろ、固く信じろ、と言い直す場面にウルウル。
最後の最後に物語を見届ける、その表情にもジーン。
友情を信じ、相手を思って行動する熱い人間像を、今回桂さんの学円で初め
て感じとった気がする。
百合を雨乞いの儀式の生贄にしようとする村人たちはかなり胡散臭い感じ。
人間の形をしているが、中身は妖怪そのもの。
その他の村人たちを表現するのに、人数の多さを個体の大きさで見せるアイ
デアにはビックリ。米俵田子作、大根たろべえみたいな(笑)でっかい人間
が最後の場面ではブキミさを増して見えた。
加納さんの白雪姫も見たかったが、ピチピチの魚を抱えた百姓の与十役もな
かなか捨てがたいと思った。
雷鳴が轟き、村が水にのまれてゆく様子はスモークで表現。
人も妖怪たちも混じって踊っていたのは、阿波踊り。フシギな感性だ。
ひいさま、これで誰に遠慮することもなく恋をしてくださいね!
<物語の闖入者、じゃなく日替わりゲスト>
可もなく不可もなく。
いえ、花組芝居の舞台のことではなく。
大阪楽・夜の部。日替わりゲストだった、わかぎゑふさんが伝吉役になって
登場し、花組芝居のメンバーに好き勝手放題言い残して帰った。
そのアドリブ台詞が傑作で、インパクト絶大。
「桂くん、(全員に君、ちゃん呼ばわり)あんた可もなく不可もない芝居し
てからに。それにシリアスなとこで噛んでたやないの!」
ウケましたー! 花組芝居まだ3回目の私にも。
(私は好きですよ、桂さんの学円。)
万事がこの調子でいじられる劇団メンバーたち。あとから、おおこわ、って
当事者たちの誰かがもらしてたけど、さもありなん(笑)。
この日は観劇前にスキップさんとお茶。
年末の「リチャード三世」観劇時に(いつのまにか)お買い上げの袋の中身、
素敵なバッグのお披露目もしていただいた。
いやー、カワイイ!と思わず手でスリスリしてしまいゴメンナサイ~。
その後、劇場でとみさんともお会いし、しばしおしゃべり。
うれしたのしの夜でございました。
能楽劇「夜叉ヶ池」観劇メモ(このブログ内の関連記事)
ギャグの方向性がもう少し外向いて欲しかったですがベーシックでした。晃さんのお衣装が一番好きです。
切ないまでの歌舞伎への憧憬とパワーを感じました。
歌舞伎座の怪人の曲で鐘がせりあがり灯りつくかと期待してました(爆)。
その節はありがとうございました。
プレシアタートークも楽しかったです。
あの時、私は「那河岸屋組」を観終った後で、「小林大介カッコイイ!」って言ってたと思いますが、今もその気持ち、変わっていません(笑)。かなりホレたかも~(?)
軌道修正。
「物語に参加した私たち」という視点のムンパリさんのレポ、おもしろく読ませていただきました。
確かに舞台を取り囲む劇空間と、客席との距離の濃密さなどから、たとえ舞台に呼ばれる人に選ばれなくても(笑)、物語に引き込まれていきますね。
桂憲一さんの学円、私も好きでした。
「夜叉ケ池」は好きな演目なのでその分面白さ倍増でした。
加納さんは歌舞伎をはじめ、引き出しの多さに驚きます。
自分が持っているだけの知識を総動員してもわからない
ギャグ、パロディがたくさんありすぎて・・・。
花組芝居を楽しむためにももっとたくさん歌舞伎を見なければ!
と思います。
これって・・・本末転倒?!(笑)
私がお店に入って行った時、ちょうど目にハートマークが
ついていましたよ!(「小林大介カッコイイ!」じるし)
カーテンコールの素顔の小林さんを見て、しまった!
こっちの晃もみるべきだった、とちょっと後悔しました。
軌道修正(笑)。
今回はぜひぜひスキップさんに自ら手を挙げて頂き、
前で踊って頂きたかったですねー。
記念写真も見たかったです!
次回チャンスがあればお願いしまーす♪(笑)
(他力本願なワタシより。)
一見、ケレンな洋でいて、見ていくうちにしみじみ
トップリ物語の世界に浸りこんでいけたのが、改めて
新鮮な驚きで喜びでした。
今回、ダブルキャストマチソワで体感。
幸運にも、舞台へとお呼びいたでき更に濃密に舞台に
関われちゃったラッキーも。
なんにしろ、花組芝居ならではな魅力が満載な舞台。
堪能しました!
因みに、加納座長の白雪は本当に美しゅうございました。
(しみじみ)
(*--*)
登場人物になっちゃったんですか?
きっと踊りなんかばっちしだったんでしょうね。
そりゃあ、思い出に残る舞台だわ~。
あ、記念写真は?(笑)
美しい白雪姫と写ってる写真、いつか見られるかしらん?
(ドキドキ・・・)
ご無沙汰いたしておりますっ。
この舞台、観たくてたまらなかったのですが
結局観られず クゥ~(涙) でした。
んが、ムンパリさまの このblog拝見させていただいて
手に取るように良く分かり、堪能させていただけました。
ありがとうございますっ。
ホント 嬉しいです♪
wowowかどこかで やってくれないかなぁ~~~、です。
今回の公演は日程がキビシかったですね。
休日は土曜日しかありませんでしたから。
東京では円形劇場だし、伊丹でも三方を客席が囲むという
設営で、それがちゃんと臨場感につながってました。
美しい加納さんがの見られる別チームの舞台も見たかったなー、
と思いました。
そうこうしているうちに三文オペラ!
例のところでの先行がなかったので、買いそびれました。
一般でも大丈夫かな~?