毎日新聞2016年9月7日社説
温暖化パリ協定 年内発効の手続き急げ
地球温暖化防止に向けた新しい国際枠組み「パリ協定」の批准を、米国のオバマ大統領と中国の習近平国家主席が共同発表した。
世界各地で温暖化の影響と見られる異常気象が起きている。対策は待ったなしだ。世界の温室効果ガス排出量の4割を占める2大排出国の批准を契機に、各国も手続きを急ぎ、協定の年内発効を実現してほしい。
パリ協定は、昨年末の国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)で採択された。産業革命前からの平均気温上昇を2度未満に抑えるため、各国は対策を策定して国連に提出し、5年ごとに見直す義務を負うことになった。
米中の首脳が中国での主要20カ国・地域(G20)首脳会議開催直前に批准を発表したのは、各国に批准を促すためだ。習国家主席には、G20議長国として「責任ある大国」を演出する狙いもあったろう。
一方、任期が残り4カ月余りとなったオバマ大統領は野党・共和党が多数派を占める議会の承認を回避し、大統領権限で批准を決めた。こだわったのは、年内の協定発効を自らの政治的遺産とすることだ。11月の米大統領選で、共和党候補のトランプ氏が、パリ協定への不参加を訴えていることが関係している。
協定は批准国が55カ国以上、批准国の温室効果ガスの排出量が世界の55%以上に達してから30日後に発効する。ただし、協定の規定で批准国は発効から4年間は脱退できない。年内発効なら、トランプ氏が当選しても、この規定に縛られる。
パリ協定の採択と前後して、温暖化対策に積極的な姿勢を示す世界的な企業が相次いでいる。中国が温室効果ガスの排出量取引を来年から全土で実施することを表明するなど、各国の政府レベルでも新たな取り組みが次々に始まっている。
パリ協定に先立つ温暖化対策の国際枠組みだった京都議定書では、採択から発効まで7年余りかかった。パリ協定が早期に発効すれば、世界各地で胎動する温暖化対策の熱気を保持し、対策を加速できる。
今後の焦点は、欧州連合(EU)やロシア、インド、日本など他の大口排出国・地域の動向に移る。
日本は世界の温室効果ガス排出量の3・8%を占める。日本の批准が協定発効の鍵を握るかもしれない。協定の詳細なルールづくりは今後、本格化する。国際交渉で発言権を得るためにも、政府は今秋の臨時国会で批准手続きをとるべきだ。
経済界には批准に慎重な意見もあるが、パリ協定発効を契機に技術革新を促し、低炭素社会の実現に向けて進んでいくことが、日本の国際競争力の向上にもつながるはずだ。
水温上昇の海は「不健全」 世界自然保護会議で警告
AFPBB News2016.9.6
【AFP=時事】地球温暖化により海洋がかつてないほど不健全な状態に陥っており、動物や人の間での疾病感染リスクや、世界各地での食糧安全保障リスクが懸念されているとした広範な科学報告書が5日、発表された。
査読を経た研究に基づく今回の成果は、世界12か国の科学者80人によってまとめられた。米ハワイ(Hawaii)州で開かれた国際自然保護連合(IUCN)主催の世界自然保護会議(World Conservation Congress)で専門家らが発表した。
世界各国の指導者と環境問題専門家9000人を集めて開催された今回の会議で、インガー・アンダーセン(Inger Andersen)IUCN事務局長は、「海がこの地球を支えていることは、誰でも知っている。海が人類の絶え間ない呼吸を可能にしていることは、誰もが知っている。それにもかかわらず、われわれは、海を不健全な状態にしている」と述べた。
報告書の主執筆者の一人であるダニエル・ラフォリー(Daniel Laffoley)氏は、今回発表された報告書「Explaining Ocean Warming(海洋温暖化を説明する)」について、「海洋の温暖化が及ぼす結果に関する、これまでに実行された中で最も包括的で系統的な研究結果」だと説明する。
ラフォリー氏によると、世界の海水は、気候変動によって1970年代以降に増した熱の93%以上を吸収し、地上で感じられる熱を抑制しているが、これにより、海に生息する生物のリズムが急激に変化しているという。
IUCNの世界保護地域委員会(World Commission on Protected Areas)の副委員長を務めるラフォリー氏は「海は、人を守る盾となってきたが、このことの影響は決定的に重大だ」と指摘している。
■微生物からクジラまで
今回の研究は、深海を含むすべての大規模な海洋生態系を対象としており、微生物からクジラまでのあらゆる生物を網羅している。
報告書には、クラゲ、海鳥、プランクトンなどが、水温の低い極方向に、緯度にして最大10度移動している証拠が記録されている。
この海洋環境での移動についてラフォリー氏は「進行速度が、地上で現在みられる移動の1.5~5倍も速い」と説明し、「人類は、海の季節を変えている」と続けた。
さらに、熱による海水温度の上昇は、微生物が海洋の生息範囲をさらに拡大することを意味している。
報告書によると、海洋の温暖化が「植物と動物の個体群で、病気の増加を引き起こしている」証拠が、今回の研究では挙げられているという。
コレラ菌などの病原菌や、シガテラ中毒などの神経障害を引き起こす恐れのある有害藻類ブルームなどは、温暖な海域の方がより容易に拡散し、人間の健康に直接的な影響を及ぼす。
海水温の上昇はさらに、サンゴ礁をかつてないペースで危機的状況へと追い込み、魚の生息環境を消失させていることで、魚種の減少を招いている。
これらの事態を受け、IUCNの「世界海洋・極地プログラム(Global Marine and Polar Program)」を統括するカール・グスタフ・ルンディン(Carl Gustaf Lundin)氏は、「温室効果ガスの削減が不可欠だ」と強調した。
「この事態は人間が引き起こしていると、きっと誰もが考えているはずだ」と述べるルンディン氏。そして、「解決策が何であるかは分かっている。それを早急に実行に移す必要がある」と続けた。