トーキング・マイノリティ

読書、歴史、映画の話を主に書き綴る電子随想

星亨-明治の巨悪 その④

2010-06-14 21:23:36 | 読書/日本史
その①、その②、その③の続き 明治32(1899)年秋、星亨は仙台の憲政党東北出張所開設に当たり行った演説にこそ、彼の戦略が如実に示されている。星は東北の将来は “憲政に適応する積極主義”に掛かっていると述べ、その理由として東北は農業や工業、商業、金融でも遅れているので、それを改良進歩させなければならないという。続けて、彼はその必要性を訴える。-交通機関が完備すれば輸出入が容易になるから農商工業と . . . 本文を読む

星亨-明治の巨悪 その③

2010-06-13 20:21:15 | 読書/日本史
その①、その②の続き さらに、国内問題についても政府に反対するだけではダメだという雰囲気が高まりつつあった。代議士たちの選出基盤である地方豪農(名望家層の動向)がそれで、彼らは道路、鉄道、治水などへの国家投資を待望するようになっていた。星亨は早くから、「議会が開かれた以上は破壊のみに努力することをやめ、国民の利益となるべきこと、特に商工業の問題の注意しなくてはならない。そうしなければ政党は国民に倦 . . . 本文を読む

星亨-明治の巨悪 その②

2010-06-10 21:17:31 | 読書/日本史
その①の続き 星亨には収賄の噂が付きまとい、実際に政治資金をふんだんに使って政党員を動かした。これは明治でも非難されたが、政治家も人間だからカネがいる。西欧の貴族のように生活基盤がしっかりしていれば、カネに目がくらむことは減るだろうが、日本の議員は第一回帝国議会の時(1890年)から、その構成が世界で最も庶民的だった。議員中、地主の占める比率がその頃の他国と比べ圧倒的に多い。彼らは決して貧乏ではな . . . 本文を読む

星亨-明治の巨悪 その①

2010-06-09 21:22:09 | 読書/日本史
 明治時代の政界を牛耳った人物として星亨(ほし とおる)がいる。政治資金を集めるのに長けており、それにモノをいわせ、政党員を操縦、剛腕な政治手法で「おしとおる」とあだ名された政治家でもあった。裏切りと妥協を重ね、巨悪と呼ばれた人物だが、星と彼を取り巻く政治風土や社会は平成の現代とかなり重なるところがある。 星亨の絶頂期の明治32(1899)年、幸徳秋水は星を批判して、次のように書いている。-星亨の . . . 本文を読む

17歳少女の見た戦国時代 その②

2010-04-29 20:18:06 | 読書/日本史
その①の続き 大砲、首化粧、脱出、出産、田の水で産湯―何とも壮絶な戦国体験だが、読んでみて私には悲惨な印象はなかった。戦で命を落とす者なら“惨”ではあるものの、おあんの体験談にはむしろ当時の人々の逞しささえ感じる。権力者同士の争いに巻き込まれながらも、胆は据わっており、何としてでも生き抜いてやる…といった気概さえ伝わってきた。しかも、語り部は当時まだ17歳に過ぎない。人間は状況次第で、どんな生き方 . . . 本文を読む

17歳少女の見た戦国時代 その①

2010-04-28 21:18:21 | 読書/日本史
 今なお様々な歴史シュミレーションゲームが発売されるほど、戦国時代は日本史上、日本人には最も人気のある時代だろう。ただ、ゲームや関心の対象となるのは合戦や戦国大名であり、非戦闘員、殊にこの時代の女性の働きについては記録も少ないためか、一般に知られていない。そんな中、自らの戦国体験が記載されているのが「おあん物語」。合戦時の城内の様子はもちろん、当時の社会が伺える貴重な史料であることは書くまでもない . . . 本文を読む

文明開化という宿命 その②

2010-02-17 21:22:56 | 読書/日本史
その①の続き 文明開化は鹿鳴館と大仮装舞踏会をもたらしたばかりではなかった。明治19(1886)年には東京電燈会社(後の東京電力)が開業、翌年初には鹿鳴館に白熱電燈が点灯して、その後電燈営業が人々に明かりを与えていくことになる。大仮装舞踏会が開かれた4月、ゴミは捨てずに各戸毎にゴミ箱を設置し、それを業者が回収することに決まった。秋には横浜で初の近代的水道橋が完成、開国以来しばしば流行して人命を奪っ . . . 本文を読む

文明開化という宿命 その①

2010-02-16 21:23:45 | 読書/日本史
 最近は温泉不況だとよく言われる。せっかく温泉場を増築しても料金の高騰の結果、客入りは減少した挙句倒産に追い込まれるというパターン。しかし、これは平成に起きたことではなく、既に明治20(1887)年、福澤諭吉が書いた論文「温泉場の経済」には同じ現象があったことが伺える。 福澤は「漫(まん)に言うと共に亦漫に遊ぶを好み、毎年春夏の時節には温泉などに出かける癖」があると冒頭で書き、小論を始める。しかし . . . 本文を読む

アジア主義の悲劇 その④

2009-11-02 21:52:10 | 読書/日本史
その①、その②、その③の続き 高坂正堯氏は、日本の大失敗は西洋への対抗とアジア失敗が結びついてしまったところに基本的原因がある、と結論付けている。西洋への対抗とアジア諸国との関係を別々に突き詰めて考えれば、何らかの答えが得られた可能性も小さくなく、国際秩序の改造にしても様々な方法があることが判ったはずだろう、と。 ただ、それは難しいことでもあり、ペリー来航以来存在し、内に篭もった西洋への憤りは実に . . . 本文を読む

アジア主義の悲劇 その③

2009-11-01 20:20:46 | 読書/日本史
その①、その②の続き もちろん、日本の大陸進出と白人の支配する世界への反発は戦略的には誤っており、戦前、知日家として知られた駐日米国大使ジョセフ・グルーはそれを認識、指摘していた1人だった。彼は日本が破局に至る十年間、大使を務め、衝突を避けるべく尽力する。「日本が外国の圧力に屈服するより…国家的ハラキリ」をする危険性がある、と本国政府に連絡もしていた。グルーの努力は不幸にして実らなかったが、彼は日 . . . 本文を読む