世渡りの上手い人、下手な人

　私が社会人となったばかりの頃の職場で、関係先との交渉が上手い上司がいた。職場内でも上役、部下共に付き合いがよく、彼は出世株だった。私の近所に現 代は第二の職場勤めをしている建設省OBがおり、彼から建設省時代の話を聞いたことがあるが、異例の出世をした同僚がいたそうだ。その同僚は工事事務所副 所長まで上ったが、その学歴の割にかなりの地位になったとか。OBは元同僚を“茶坊主”と呼んでいたが、お茶運びをするほどの上司への気配りからつけられ たあだ名らしい。気配り上手の同僚は彼より学歴のある者を尻目に出世を果たす。

　学歴があっても振るわない人もいる。かなり前友人から聞 いた話だが、友人の職場に某有名大を出た人物がいたが、あれで×大を出たのか、と影口を叩かれるほど、仕事が出来なかったとか。当然その人物は出世コース に乗れるはずがなかった。役所、企業問わず、職場で学歴を生かせない者がいる。試験勉強と仕事や世渡りの才は全く別物だからだ。

　普通の 勤め人ばかりでなく、左翼活動でも世渡り術の差は今流行の言葉を使えば勝ち組、負け組に分かれる。前者は著名大学教授や弁護士などの知識人も含まれるが、 中高年になっても反戦、平和デモ活動に駆り出される者は到底勝ち組とはいえない。活動から足を洗ってから何をやっているのか不明だが、盛んにネット掲示板 に書き込んでいる者など完全な負け犬。
　２年ほど前、たまたま通りかかった仙台の勾当台公園で反戦、平和デモ の集会が行われているのを見かけた。集会に集まった男たちは若くても40代後半くらいに見え、どこか表情や服装も荒んだ印象だった。彼らが拳を上げては抑 揚の殆どない単調な「平和憲法を守れ」コールを繰り返す様ほど、熱意のないわびしいデモも見たことがない。

　「若い頃左翼でなかった者は HeartもHeadもない」と言った者がいる。どうりで左翼系の人間はエリート意識を持ち、そうでない者たちを愚民視する背景がやっと分かった。若い頃 非左翼だった私など典型的なHeartもHeadもない人間だが、Heart、Head共に持ち合わせていた者たちは、現代何をやっているのだろう？ Heart、Headは世渡り術に必ずしも結びつかない。
　これもネットで見かけた言葉で、名は失念したが、「頭がよく正直な人は、左翼になれない」と言った人がいる。つまり、頭がよい左翼は嘘つきで、正直な左翼は頭が悪いとなる。頭もなく正直でない私などは実は左翼に向いていたとなるのか。

　若い頃は革命戦士を気取り、反戦平和活動に精を出しても、あっという間に年を取り、長年の不摂生がたたって身体はボロボロ、体をやられれば精神も蝕まれる。そして結局国の福祉にすがる無様な死に方をする元共産主義者もいる。以前の記事「ある共産主義者の死」で書いた私の父方の伯父のように。ただ伯父の現役時代は、ロシア人の言葉を借りれば「美味いビールを飲んで、共産主義を語っている」どころか、薬さえ満足に飲めない有様だった。

　正々堂々戦うなど、スポ根アニメの世界だけに過ぎない。どの世界にも世渡りの上手い人、下手な人がいる。いつの時代も頭のよい嘘つき、言い換えれば偽善者が社会を牛耳る。

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