奴隷制イコール絶対悪という認識が完全に根付いている現代だが、それが当り前だった昔の人々は、どのような基準で奴隷を購入したのだろう?11世紀のペルシア(イラン)に、奴隷の求め方を細々と書き残した人物がいるが、なかなか興味深い内容だ。その一部を抜粋してみたい。
「奴隷を買い求めたい時には慎重であれ。人を買うのは難しい知識で、立派な奴隷でも知識を持って視れば、その反対であることがしばしばある。大抵の人は奴隷購入を他の全ての取引の一つと思い、奴隷購入とその知識が哲学に属することを知らない。物を買う人は十分な識別力がなければ欺かれる。最も困難な識別は人の識別である。人には短所、長所が多く…」
人間をモノのように物色する、と眉をひそめる方もいるかもしれない。しかし、19世紀まで奴隷制度は世界中で普通だったのだ。表向き人身売買は禁じられている現代だが、上記の思想は人を雇う時にも十分応用できるのではないか。人の識別は21世紀でも難しい。
著者は徴候から外面的、内面的な欠陥を見抜くことは奴隷購入時に怠ってはいけないと言う。一目だけで満足するな、と戒める。奴隷を買うなら正直な人から、奴隷商人のくたびれた奴隷は買うな。時折奴隷に何か物を与え、絶えず金に困らせておくな、金を求めて立ち去るだろうから。高価な奴隷を買い求めよ、その価値は価格に比例する。故意に怠けている奴隷なら、無理に改めようとせずに早々売ってしまえ、決して勤勉にならぬから。所有する者たちをよく扱え、もし一人を大事にするなら、ひどく扱う二人よりましである…
イラスム世界では様々な人種の奴隷がいたが、著者は人種及び各人種の長所、短所を知ることが大事であると、様々な人種の特徴を挙げている。ペルシアで特にトルコ人奴隷が用いられたが、著者もトルコ人へ高い評価をしている。トルコ人にはインド人にない溌剌さと清潔さがあり、新鮮さにおいて全ての民族に優っているとまで書く。もちろん欠点も同時に記している。
「確かにトルコ人の優れている所はきわめて優れているが、醜いところもまた非常に醜い。彼らの一般的な欠点は頭が鈍く、無知、傲慢、不穏、不満で正義感に欠け、訳もなく騒ぎを起こし、口が悪く夜に臆病なことである。日中に見せるあの勇気を夜に示すことが出来ない。だが彼らの長所は勇敢であり、誠実で敵意を露わにし、任された仕事に熱狂的になることで、家の飾りとして彼らに優る民族はない」
こんなことを書けば、現代なら人種差別と一蹴されるだろうが、民族の長所、短所を冷徹に見ていたと取れる。ただ、口が悪いと書かれたのはアルメニア、インド、ギリシア人もいる。
現代の多国籍企業は様々な民族を雇う上で、各民族の特徴を見極めた上の選考はしているのだろうか。おそらく差別問題が喧しいので、人道主義と平等から定められた枠内で雇うというのが一般だろう。同じ民族でも人を使うのは容易ではないが、異民族となれば殊に慎重さが求められる。海外進出した日本企業の人事部も、さぞ気苦労が多いのではないか。
■参考:東洋文庫「ペルシア逸話集-カーブースの書」
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「奴隷を買い求めたい時には慎重であれ。人を買うのは難しい知識で、立派な奴隷でも知識を持って視れば、その反対であることがしばしばある。大抵の人は奴隷購入を他の全ての取引の一つと思い、奴隷購入とその知識が哲学に属することを知らない。物を買う人は十分な識別力がなければ欺かれる。最も困難な識別は人の識別である。人には短所、長所が多く…」
人間をモノのように物色する、と眉をひそめる方もいるかもしれない。しかし、19世紀まで奴隷制度は世界中で普通だったのだ。表向き人身売買は禁じられている現代だが、上記の思想は人を雇う時にも十分応用できるのではないか。人の識別は21世紀でも難しい。
著者は徴候から外面的、内面的な欠陥を見抜くことは奴隷購入時に怠ってはいけないと言う。一目だけで満足するな、と戒める。奴隷を買うなら正直な人から、奴隷商人のくたびれた奴隷は買うな。時折奴隷に何か物を与え、絶えず金に困らせておくな、金を求めて立ち去るだろうから。高価な奴隷を買い求めよ、その価値は価格に比例する。故意に怠けている奴隷なら、無理に改めようとせずに早々売ってしまえ、決して勤勉にならぬから。所有する者たちをよく扱え、もし一人を大事にするなら、ひどく扱う二人よりましである…
イラスム世界では様々な人種の奴隷がいたが、著者は人種及び各人種の長所、短所を知ることが大事であると、様々な人種の特徴を挙げている。ペルシアで特にトルコ人奴隷が用いられたが、著者もトルコ人へ高い評価をしている。トルコ人にはインド人にない溌剌さと清潔さがあり、新鮮さにおいて全ての民族に優っているとまで書く。もちろん欠点も同時に記している。
「確かにトルコ人の優れている所はきわめて優れているが、醜いところもまた非常に醜い。彼らの一般的な欠点は頭が鈍く、無知、傲慢、不穏、不満で正義感に欠け、訳もなく騒ぎを起こし、口が悪く夜に臆病なことである。日中に見せるあの勇気を夜に示すことが出来ない。だが彼らの長所は勇敢であり、誠実で敵意を露わにし、任された仕事に熱狂的になることで、家の飾りとして彼らに優る民族はない」
こんなことを書けば、現代なら人種差別と一蹴されるだろうが、民族の長所、短所を冷徹に見ていたと取れる。ただ、口が悪いと書かれたのはアルメニア、インド、ギリシア人もいる。
現代の多国籍企業は様々な民族を雇う上で、各民族の特徴を見極めた上の選考はしているのだろうか。おそらく差別問題が喧しいので、人道主義と平等から定められた枠内で雇うというのが一般だろう。同じ民族でも人を使うのは容易ではないが、異民族となれば殊に慎重さが求められる。海外進出した日本企業の人事部も、さぞ気苦労が多いのではないか。
■参考:東洋文庫「ペルシア逸話集-カーブースの書」
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