トーキング・マイノリティ

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ベクシル 2077 日本鎖国/07年 曽利文彦監督

2007-09-02 20:19:30 | 映画
 久しぶりに映画館でアニメ映画を見たような気がする。設定自体がありえないと思いつつ、つい「ハイテク鎖国」のコピーに釣られ、ちょうどポイントも貯まっているので、映画館に行った。アニメ映像は素晴らしかったが、実に胸糞が悪くなるラストだった。日本民族滅亡というストーリーなのだから。

 バイオ・テクノロジーとロボット産業が飛躍的に発展した日本は、21世紀半ばに世界市場を独占し、これら産業で空前の富と覇権を手に入れることになる。しかし、まもなく日本のハイテク技術の危険性が指摘され、国際規制の対象となった。これに対し日本政府は国連を脱退、2067年、ハイテク技術を駆使し鎖国を強行する。その後十年の間、外国人は日本に入国を許されず、日本全土を覆うシールドのため衛生偵察も不可能となり、日本の実態は厚いベールに隠されたままだった。

 鎖国状態を続けながらも、日本製品はまだ世界市場を席巻しており、各国も特に日本のロボットを重宝していたので、国連も強い対応が取れない状態。日本のハイテク産業を一手に支配しているのは大和鋼業という巨大企業だった。
 2077年、米国特殊部隊“SWORD”所属の女性兵士、ベクシルは日本潜入作戦に志願し、十年ぶりに初めて外国人として日本に入ったベクシルが見たのは、かつての繁栄とは正反対の光景だった。山や川もなくなり、荒涼とした地が続く。戦後の闇市そっくりの場所だけは人と活気に溢れているように見えたが、市場に集う人々は実は既に人間ではなかった。

 日本が鎖国を強行した頃、原因不明の疫病が流行り、政府は国民全員にワクチン接種を義務付ける。だが、そのワクチンこそが人間の体内組織を生体金属化してしまうという恐るべき代物であり、これを注入されれば生きながらロボットになってしまうのだ。外見こそ普通の人間でも、もはや食事も睡眠も必要せず生体反応センサーにも探知されない機械同然となった日本人。このワクチンを製造したのが大和鋼業であり、日本を実質支配しているのはこの独占企業だった。
 この大和鋼業に叛旗を翻そうとしている地下グループもいた。その組織のリーダーはマリアという女性。日本に潜行したベクシルは彼らと共に戦いに参加する…

 このSFアニメには最初から疑問ばかり感じた。冒頭、任務を受けてベクシルが大和鋼業の№2であるサイトウを捕えるが、何故か彼女はサイトウを拘禁若しくは殺害せず、逃げられてしまう。この時サイトウを完全捕獲していれば、後のストーリーが成立しないにせよ、一瞬の判断の遅れは特殊任務では命取りである。これだけでベクシルの任務遂行能力に疑問を感じるが、別に部隊から叱責処分も受けていない。アニメやゲームで美女戦士が活躍するのは受けがよいだろうが、実際の女性は判断力が遅くパニックに陥りやすい短所があり、戦闘能力では専門家の間でも評価が分かれるそうだ。

 また、高度ハイテク技術で日本が世界市場を独占し続けることが可能だろうか。先端産業は日進月歩の世界であり、一国が独占状態を維持するのはかなり難しい。企業家なら世界市場制覇は夢だろうが、マイクロソフトさえ完全市場独占には至らない。
 最も不可能事だと思ったのが、この映画の中心テーマである鎖国。今世紀でも日本は鎖国など出来る状態には絶対ない。例え日本がしたくても、させられないのが国際社会の実態ではないか。諸外国の圧力を払いのけて、鎖国できる国力も度胸も日本にはない。また、日本を覆うシールドも、ミサイルや水爆攻撃に耐えられるのだろうか?シールドに突入するや破壊出来たとしても、その残骸物も弾き飛ばされるのか?いかにSFでも設定自体が荒唐無稽な物語だ。

 フィクションにしても、大和鋼業を倒したところで日本民族も滅んでしまったとは、何とも暗鬱極まる映画だった。こんな映画を製作した側の心理がむしろ興味ある。この映画のヒロイン・ベクシルはアメリカ人であり、かなりアメリカは好意的に描かれている。アメリカ人が自国の国益にならぬなら、日本に尽力するとは思えない。大和鋼業はワクチンで日本人をモルモットにしたのだが、大抵人体実験は異民族、または同民族の犯罪者対象に行われるものなのだ。大和鋼業創業者が非日本人なら、実験は大いにありえるが。レジスタンスの女リーダーの名がクリスチャンの洗礼名のようなマリアというのも異様だ。

 日本在住で食うに困らぬ暮しを送りながら、日本と日本人を憎悪している者もいる。以前、賢明な主婦ブロガーから頂いたコメントには「日本ほど住み易い国はなく、世界には日本人がいなくなればいいと思っている人が大勢いる」とあった。そのような類なら、この映画は大いに満足させられる内容だろう。だが、日本人にも彼らに劣らぬほどの執拗さで反日分子を憎悪する者もいるかもしれない。社会が不安定になった時くらい、少数民族ほど危うい存在もないのは世界史で繰り返された現象である。

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5 コメント

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シナリオは…… (のらくろ)
2007-09-03 01:54:30
誰が書いたか知らないが、mugiさんほどには日本と日本人をよく理解していない「ヒト」(日本国籍保有者なら「日本人もどき」)の手になるものに違いない。

ただし、映画とは別の意味で、日本は「鎖国」へ向けたベクトルを進むべきと考える。

その1.食糧とエネルギーの自給率向上
食糧自給率が40%を切ったとは最近のニュースだが、一方で耕作放棄農地が大量に出ているのも事実。21世紀版「徴用」を発令し、3権の枢要ポストを目指す若者は、1次産業か安全保障の業務に徴用されることとする。
なお、自給率向上に即効性があるのは、パンの代わりにおにぎりを食べること。つまり、主食を麦から米へとシフト(というか回帰)する。
エネルギーについては、生活エネルギーは理論値でみる限り太陽光発電、太陽熱温水器、し尿生ごみ発酵ガス回収でかなりの自給率向上が果たせる。あとは産業用だが、これは「ガメつく儲けたい人が高値で輸入」すればよい。

その2.雇用の日本人優先。
外国人が雇用されながら日本人が失業しているのは明らかな矛盾である。まず日本人の雇用を優先し、あぶれる外国人(在日含む)を失業させて国外追放すること。特に在日南北朝鮮人については、全員一旦本国へ強制帰国させ、再入国の際には現代版踏み絵を義務化する。

こういう方向性での「鎖国」は必要なことと思いますが、mugiさんいかがでしょうか?
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○さえあれば、パラダイス?? (Mars)
2007-09-03 21:09:51
こんばんは、mugiさん。

電車の中の中吊知ったのですが、近年の研究によると、日本の「鎖国」はイメージとは違っているようです。
で、調べてみると、「鎖国」というよりも、「海禁」の方が近いようで。
知っているようで、実は知らないのが歴史で、だからこそ、知りたくなるのが、その魔力なのでしょうか。
http://ja.wikipedia.org/wiki/鎖国
http://ja.wikipedia.org/wiki/海禁

愚昧な私から見ても、「技術」と「鎖国」は結びつきませんし(「技術」とは、異なる技術・文化・思想等によって、より覚醒するものだと思いますし)、現在でも、高水準な技術力を持つ日本人こそ、欧米亜等の多くの技術を受け入れてきたからこそ、だと思います。
そういう意味でも、この映画の作者は、日本人が何たるかも理解していないように思えます。

そして、技術の革新は単一民族では成しえないと思いますし、多くの文明・技術をつくりあげた、欧米亜も同様だと思います。
(少なくとも、中国での多くの発明品も、他民族・他国家との文明・文化の交流・衝突があっての事だと思います。)

さてはて、地震も多く、狭く、夏も暑く、冬も寒い日本列島を、他者から見てパラダイスのように生きていけるのも、日本人が成せる賜物だと思います。
果たして、中韓米英露等の反日外国人にとって、日本での生活は、パラダイスと感じられるのでしょうか、ね(皮肉)。
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コメント、ありがとうございます (mugi)
2007-09-03 21:54:26
>のらくろさん
脚本は曹利監督と半田はるかという者です。
監督はインタビューで日本は鎖国をしてはならないとの思いで書いたと言ってましたが、その設定自体不可解でしたね。私の日本と日本人理解度も心もとないですが、映画の最後には違和感を感じました。まるで日本滅亡を望む「日本人もどき」が書いたように。

仰るとおり鎖国をするとしても、食糧とエネルギーが最大のネックです。現代の食糧自給率では、夢物語に過ぎません。この映画はこの点が全く触れられてなかったので、絵空事と感じたのです。

雇用ばかりでなく生活保護も日本人優先にしてほしいですよ。日本人が申請してもなかなか支給されず、外国人だと容易というのは実に不愉快です。私も在日南北朝鮮人ばかりでなく、不法滞在中国人も追放、強制帰国させられれば、どんなに良い事かとつくづく思います。

しかし、コトはそう簡単ではないので頭が痛い。ナチスや一党独裁の共産党政権下なら、外国人強制帰国も可能ですが、現代の政治状況ではそれも叶わない。何か効果的な手段はないでしょうか。今のところ対策は、在日企業の不買運動と彼らと繋がりのある政治屋を当選させない事くらい?


>こんばんは、Marsさん。
仰るとおりベストセラー「国民の歴史」でも、著者は「はたして鎖国はあったのか」という章を書いていたように記憶しています。
やはり「鎖国」より実態は、「海禁」により近い。日本の“鎖国”も実は隣国を参考にしていました。

「鎖国」前の日本は鉄砲鍛冶は世界水準をいっていたのに、その後はその技術は大きく後退しました。太平の世になったので、武器は必要性がなくなった。これに対し17世紀の欧州は戦争状態。戦争時ほど、技術が発展することはない。イスラム圏の衰退も、新大陸発見もありますが、パクス(平和)オスマニカを実現させたのも、少なからぬ影響があったと私は思います。

1930年代といえ、J.ネルーも「インドや中国は鎖国したくとも、出来る状態ではなかった」と、何とも羨望漂うことを書いています。また、島国という地勢条件を羨む他国人も少なくありません。外敵が侵入しにくいから。英国も島国でなかったら、欧州であれほど先駆けた発展は望めなかったでしょう。
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反・反日人 (Mars)
2008-03-09 22:57:42
こんばんは、mugiさん。

遅ばせながら、先日、拝見いたしました。
が、仰るとおり、フィクションにしても日本民族が滅んでしまったことに納得できず、何とも暗鬱極まる映画でしたね(というか、冒頭の十数年以来、本当の日本人を見た外国人はいないという時点で、想像できたのですが)。
また、主人公曰く、日本民族が滅んでも、その意思を受け継ぐ事で、云々という部分は、いくらなんでも、そりゃ、無理だろと思うのですが。
まさしく、反日人の、反日人による、反日人のための映画でしょうね。
(ま、唯一、共感できるのは、反日人は、何も害国人だけでなく、日本人そのものの中にあると)

アナログ人間の私としては、アニメはやっぱり、CGよりもベタ絵の方がしっくりくるのですが。
声優、ストーリー等、色々と、?はあるのですが、
(バブル時代の日本は世界でも非常識と称されましらが、過去も現在も、世界の非常識さも、批判されるべきでしょうね)
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反・常識人 (mugi)
2008-03-10 21:49:19
>こんばんは、Marsさん。

近未来SFで、善意で日本のために行動する米国特殊部隊のヒロイン、という設定自体がアナクロに感じましたね。
未だ米国は親切に日本に手を差し伸べてくれると思っているのか、その発想が時代遅れで幼稚。脚本も兼ねる監督は日本は鎖国をしてはならないと言ってますが、鎖国をすれば滅びるとでも大衆に刷り込みたかったのでしょう。鎖国で困るのは、反日人。

>>反日人は、何も害国人だけでなく、日本人そのものの中にあると
仰るとおり。獅子身中の虫が一番危険です。
記事の最後の3行も、反日人へのささやかな皮肉を込めて書きました。反日人が日本滅亡後、自分たちの天下になると思っているのが痛い。

日本人が思う「世界」とは、大抵欧米か特亜が対象ではないでしょうか?
欧米や特亜に限らず、他の文化圏でも己が正当で他は非常識と見なすものであり、自分たちの基準に従わない者を非常識と誹るのです。バブル時代に限らず、多文化共生や国家間の友好などのきれい事を、マジで信じている非常識な国は日本くらいだと思います。
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