おそらく他県も同じと思われるが、宮城県には馬鹿な婿を扱った一連の民話がある。少々お頭の足りぬ男が、妻の実家でやらかす失敗談だ。舅・姑にあきれられたり、親類の笑い者になったり、お嫁さんを返してもらえなかったりなど、男の愚かさを笑って終わるという話。河北新報の付録「ひまわりクラブ」で、佐佐木邦子さんが、バカ婿が登場する民話を紹介されていた。
ある男が嫁さんの実家に2人で泊まりに行くことになった。心配した男の母は直前、「熱いお湯を出されたら、熱いと騒がずに大根付けでかき回して飲め」「寝相を悪くして枕をはずさないよう気を付けろ」など言って聞かせる。
妻の実家に行った男は風呂が熱かったので、大根漬けを丸ごともらってかき回し、頭に枕をふんどしで結わえ付けて寝た。朝もそのまま起きてきた男に舅は呆れ、「こんな男と娘を一緒にさせておけない」と、お嫁さんを返さなかった。仕方なく、男は泣きながら一人で戻ってきた。
男に頭のいい叔父がいて、助け舟を出す。甥の妻の実家に乗り込み、男がしたのと同じく大根付けで風呂をかき回す、ふんどしで頭に枕を結んでは朝の挨拶をした。驚いている舅に、「初めて泊まる家では、こんなふうにするのが所ふうです」と澄まして答える。所ふう、つまり地域の風習なら仕方ないと、舅は一度は取り上げた娘をまた返して寄こす。
佐佐木さんは上記の話を紹介されたあと、こう結んでいる。「土地毎に違った風習があるのを当然とし、お互いに受け入れていた人々の大らかさが伝わってくる。異なる立場、異なる風習を当然のこととして認め合う暮しは、今よりもずっと豊かで大きかったかもしれない」
茶碗のお湯を切り身の大根漬けでかき回すのはまだしも、風呂を一本の漬けた大根でかき回した男を想像するだけで愉快だ。母の注意を素直に守ろうとしたにせよ、枕をふんどしで頭に結びつける様など、吉本喜劇にもなるかもしれない。
私の本棚に『民話みちのく艶笑譚』(佐々木徳夫著、ひかり書房、1979年発行)という郷土出版の本がある。この本にもバカ婿の話が何篇も見えるので、一例を紹介したい。
婿入りしたある男が、その家の舅にヒゲ剃りを頼まれる。舅のヒゲをすっかり剃り終えた後、己の一物を出し、義父のはげ頭をそれで撫でる。一物の先が見えたので、当然舅親父は怒った。すると婿殿はこれが一番いいのだと言う。その理由をそのまま本から引用する。
「俺、こっちの家(え)さ婿に来て6年になりすが、お娘の下の方に一本も毛(けぷ)コござりえんかった。それがこれですごぐ(とても)こすったれば、モサモサと生(お)えしてがす。お父っつぁんの頭に神が一本もねえがら、気の毒なんでこれでこすったんでがす」
他にも結婚しても夜の務めがまるで分からず、新妻やその親から怒られるバカ婿の話がいくつか載っている。下ネタ話で恐縮だが、“艶笑譚”なので、ご了承の程を。
先月、佐々木徳夫さんはNHK仙台のローカルニュースに出演しており、民話が廃れている現状を嘆いておられた。エッチでない民話にしても、あまり語られなくなるのは残念なことだ。
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ある男が嫁さんの実家に2人で泊まりに行くことになった。心配した男の母は直前、「熱いお湯を出されたら、熱いと騒がずに大根付けでかき回して飲め」「寝相を悪くして枕をはずさないよう気を付けろ」など言って聞かせる。
妻の実家に行った男は風呂が熱かったので、大根漬けを丸ごともらってかき回し、頭に枕をふんどしで結わえ付けて寝た。朝もそのまま起きてきた男に舅は呆れ、「こんな男と娘を一緒にさせておけない」と、お嫁さんを返さなかった。仕方なく、男は泣きながら一人で戻ってきた。
男に頭のいい叔父がいて、助け舟を出す。甥の妻の実家に乗り込み、男がしたのと同じく大根付けで風呂をかき回す、ふんどしで頭に枕を結んでは朝の挨拶をした。驚いている舅に、「初めて泊まる家では、こんなふうにするのが所ふうです」と澄まして答える。所ふう、つまり地域の風習なら仕方ないと、舅は一度は取り上げた娘をまた返して寄こす。
佐佐木さんは上記の話を紹介されたあと、こう結んでいる。「土地毎に違った風習があるのを当然とし、お互いに受け入れていた人々の大らかさが伝わってくる。異なる立場、異なる風習を当然のこととして認め合う暮しは、今よりもずっと豊かで大きかったかもしれない」
茶碗のお湯を切り身の大根漬けでかき回すのはまだしも、風呂を一本の漬けた大根でかき回した男を想像するだけで愉快だ。母の注意を素直に守ろうとしたにせよ、枕をふんどしで頭に結びつける様など、吉本喜劇にもなるかもしれない。
私の本棚に『民話みちのく艶笑譚』(佐々木徳夫著、ひかり書房、1979年発行)という郷土出版の本がある。この本にもバカ婿の話が何篇も見えるので、一例を紹介したい。
婿入りしたある男が、その家の舅にヒゲ剃りを頼まれる。舅のヒゲをすっかり剃り終えた後、己の一物を出し、義父のはげ頭をそれで撫でる。一物の先が見えたので、当然舅親父は怒った。すると婿殿はこれが一番いいのだと言う。その理由をそのまま本から引用する。
「俺、こっちの家(え)さ婿に来て6年になりすが、お娘の下の方に一本も毛(けぷ)コござりえんかった。それがこれですごぐ(とても)こすったれば、モサモサと生(お)えしてがす。お父っつぁんの頭に神が一本もねえがら、気の毒なんでこれでこすったんでがす」
他にも結婚しても夜の務めがまるで分からず、新妻やその親から怒られるバカ婿の話がいくつか載っている。下ネタ話で恐縮だが、“艶笑譚”なので、ご了承の程を。
先月、佐々木徳夫さんはNHK仙台のローカルニュースに出演しており、民話が廃れている現状を嘆いておられた。エッチでない民話にしても、あまり語られなくなるのは残念なことだ。
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