トーキング・マイノリティ

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塩野七生『ローマ人の物語』の旅 その一

2021-05-17 21:40:19 | 読書/ノンフィクション

 コロナ禍のおかげで海外旅行もままならないご時世。せめて紀行書でも見て、脳内空想海外旅行をするのも一興だろう。公立図書館さえ昨年同様GW中はコロナで閉館されており、家にある本で読書した人もいたはず。
 私もGW中は久しぶりに「塩野七生ローマ人の物語』の旅」(新潮社)を再読した。「コンプリート・ガイドブック」という副題に相応しく、帯のコピーはこうだった
―『ローマ人の物語』を読みながら古代ローマの街を歩く。そんな塩野ファン、古代ローマファンの夢がついに実現!

 帯にはさらに本書の紹介が載っている。
カエサルが冠を捧げられた競技場、ポンペイウスの墓、カルタゴ激戦の地……、名場面の数々を訪ねる実践的方法満載。塩野さんの肉声やシリーズをもっと深く味わう方法も大ページ収録。ラテン語講座にオペラや映画ガイドも付いて、読んで楽しく旅して役立つスーパーガイド。」
 初版は1999年9月。今から20年以上昔に出版されているため、ガイドとしては古い情報も少なくないかもしれない。それでも本書に載っているローマの遺跡や街並みの写真は素晴らしいものばかり。このような写真集を見ているだけで、現地に行って見てきた想いにさせられる。

 この旅では『ローマ人の物語』の舞台となった南イタリアの街々を、約2週間かけて見学し、最終日には塩野さんとの夕食会を楽しむという趣向だった。参加者は27歳から77歳までの20名で、全員が『ローマ人の物語』の熱心なファンだったのは書くまでもない。
 出発日は1999(平成11)年4月14日。北は仙台、南は広島からの参加だったそうで、仙台から参加されたファンは実に羨ましい。尤も同時期の私にはそのような時間は取れなかっただろう。

 南イタリアの街々を約2週間かけて見学するだけでもファンには堪らないが、やはり参加者が一番心待ちにしていたのは作者との夕食会だったはず。会食はローマのホテル・エデンのバンケットルームで行われ、日付は1999年4月24日。
 この時の塩野さんとファンの会話は当然本書に収録されている。「日本の指導者層には絶望します」という見出しの後に塩野さんが語った話は、現代でも殆ど変わっていないので紹介したい。

外国に住んでいる日本人というのは、99パーセント愛国者なんです。私も日本人のいいところをみいだそうと思って一生懸命努力して書いたりしていますが、さすがにこのごろは疲れた(笑)。ちょっと前までは、ローマに来た首相経験者からお誘いを受けることが多かったんですが、このごろは首相になりたい男たちから呼び出されるようになりました。
 そういうときに彼らと話すと、あらゆる面で子供じみていて、ほとんど絶望しますね。我々はこの程度の指導者しか持っていないのか、と。諸外国とは腹を割って話し合えばわかりあえると大真面目に言うので、ばか言わないでよって思います。
 メーカー系の財界人に比べて、なぜか私の愛読者が多い金融人とか官僚がダメ。彼等は優秀だと言われていますが、それは「学校で優秀だっただけのこと。実社会に出てみると、総合力が問われます。学校の成績だけで頭がいいと称される職場は今、全部だめです……」(134-5頁)

 教育界やメディア、法曹界上層部も全部ダメとしか言いようがない。諸外国とは腹を割って話し合えばわかりあえると大真面目に書き立て、そう洗脳された挙句、実現不可能な理想論を叫ぶ若者を持ち上げるのだから、日本の指導者層が愚物ぞろいとなるのは当然だろう。
 2年前に「イタリアの空に歴史思う」という記事をアップしたが、河北新報常連投稿者をネタにしている。投稿者は佐藤一(当時70歳)なる栗原市の鍼灸師。この者は2014年4月3日付の河北新報でも「隣国との友好、信頼こそ大切」と投稿しており、勿体ぶった似非リベラルに過ぎない。同じイタリア旅行でもナナミスト(塩野ファン)と田舎鍼灸師では見方はダンチで、拙ブログにも以下のコメントがあった。

おバカの極み (mobile)
2019-04-26 09:51:16
これ、どんな旅行だったのだろうか?
思うに『イタリア6都市周遊8日間』みたいなパック旅行でしょう(カンツォーネ・ディナーがセッティングされているのを見ても明らかですネ!)。
旅行会社が定食のように組んだパック旅行で『イタリアを知ることができた』などとホザく辺りが私に言わせれば『おバカの極み』です。
パック旅行だって悪くはないが感想は『名所旧跡をひととおり巡ってイタリアの歴史の一端に触れた』であるべきです。(後半略)
その二に続く

◆関連記事:「瓦礫と大理石:廃墟と繁栄/塩野七生氏講演会

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