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『売国奴の持参金』(F.フォーサイス著、角川書店)を先日読了した。この作品は1991(平成3)年に出版されているが、今読み返しても実に面白い。原題“The Price of the Bride"、つまり『花嫁の持参金』となるが、直訳では平凡すぎて印象が薄く、意訳したと思われる。裏表紙にはストーリーをこう紹介している。
―引退を勧告されたSISの騙し屋“マクレディ”の公聴会は続く。ソ連軍将校団がソールズベリー平野でのイギリス軍の演習に招待された。演習はそれぞれの思惑を秘めながら、穏やかにすすめられた。
3日目、突然、GRUの将校パヴェル・クルチェンコ少佐が逃亡し、アメリカへの亡命を申し入れた。ロンドン駐在のCIAの一員ジョー・ロスはクルチェンコの正体を確認する。本名ピョートル・オルローフ、KGB大佐。アメリカは亡命を受け入れた。
亡命者は多くの情報をもたらした。CIAはあらゆる手段でその情報の裏付けをとり、彼を信用し始めていた。どの情報も超一流の秘密事項だった。
が、マクレディはなにか腑におちなかった。亡命者の真意は何なのか、スパイとスパイの息詰まる駆け引きと心理戦がはじまる―。最後のスパイ小説“マクレディ・シリーズ”4部作第2弾。
“マクレディ・シリーズ”第1作目原題は“The Deceiver”、邦題「騙し屋」そのままである。主人公マクレディの肩書はDDPS(「欺瞞、逆情報及び心理工作」部)部長。実際にSISに同名の部門があるのかは不明だが、モデルになった工作部があっても不思議はない。欺瞞、逆情報及び心理工作などの情報戦は英国の十八番だし、21世紀でも各国は情報戦にしのぎを削っているのだから。
欺瞞、逆情報及び心理工作は何もプロのスパイや諜報機関に仕掛けられるばかりではなく、国内外の一般庶民相手も対象なのだ。敵対国家や仮想敵国はもとより、同盟国にも情報戦は常に容赦なく行われ、時に暗殺も辞さない。この小説で初めてCIAによる「フェニックス計画」なるものを知ったが、それを説明した箇所を引用したい。
―ヴェトナム戦争たけなわのころ、アメリカは、一般住民に対するヴェトコンの思い切った浸透策に対抗しようとして、相手に的を絞った残酷きわまる暗殺計画を立案、実施した。狙いはテロにはテロで報復すること、民間人に化けたヴェトコンの活動家を暴き出して抹殺することにあった。この作戦を称してフェニックス計画という。
はたしていくらのヴェトコン容疑者が証拠も裁判もなく創造主のところへおくられたのか、その数は今もって不明である。2万人と見積もる者もいるが、CIAは8千人だったと主張している。
容疑者のうちどれくらいが真のヴェトコンだったのか、その数となるとさらに曖昧である。というのも、この計画が始動してまもなく、ヴェトナム人の間で、私的な恨みをもつ人間を、あいつはヴェトコンだと告発するのが一般的な習いになってしまったからである。
多くの者が家族間の対立、部族抗争、土地のいざこざ等が原因で告発された。借金を返すのが嫌さに貸し手をヴェトコン呼ばわりする例さえあった。貸し手が処刑されれば、借金を返さなくてすむからである。
ヴェトコンだと名指しされた者は通常、南ヴェトナムの秘密警察か軍に引き渡された。彼らは、東洋的な創意工夫の妙さえ及ばぬ想像を絶するやり方で拷問に付され、処刑された。
米本土から来たばかりの若いアメリカ人の中には、あまりにも非人間的なそうした光景を不幸にも目のあたりにして、辞める者、精神科医の厄介になる者もいた。敵として戦うべき相手のもつ思想に心ひそかに与する者さえ出てきた。(ハードカバー版162-63頁)
フェニックス計画の冷酷さはともかく、欺瞞、逆情報及び心理工作ではヴェトコンが勝っていたのは明らか。もちろんフエ事件に見られるように、ヴェトコンは南ベトナム政権の官吏・関係者・関係の無い民間人(学生やキリスト教の神父、外国人医師などの一般市民)などを大量処刑、無差別テロを行った。さらに南ベトナム各地で、一般市民を巻き込む無差別爆弾テロ事件も数多く起こしている。
米軍や韓国軍も一般市民を虐殺しており、フォンニィ・フォンニャットの虐殺は韓国軍が起こしている。ベトナム人虐殺・女性凌辱を韓国は未だに否定しているが。
その②に続く
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