トーキング・マイノリティ

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難民問題騒動 その②

2017-02-01 21:40:08 | マスコミ、ネット

その①の続き
 拙ブログに何度かコメントされているブロガー『珈琲ブレイク』さんの記事、「墓田桂『難民問題』中公新書、2016」は実に興味深い。この新書を私は未読だが、「著者の墓田桂氏は、フランスの国立ナンシー第二大学で学位を取得した成蹊大学教授で、2013年から法務省の難民審査参与員を2年間勤め、また難民の現場をなんども実地検証した経験をもつ専門的な学者」という。記事で私の関心を引いた個所を引用したい。

この本の特徴は著者が、難民問題をひとごととして考えてきた学者や評論家とは異なり、難民問題の実情を自分が直接かかわる問題として見つめ考えてきた立場であったこと……著者は、難民保護の安易な理想論に対して、「難民保護の限界」をしっかり考え把握することの重要性をなんども説いている……
 しかし著者は冷静に以後の経過を丁寧に追って、メルケル首相の対応は理想を追い夢を追い、結局行き詰まって破綻している厳しい現実を冷徹に指摘する……
 メルケル首相を賞賛した人たちは一方で、朝日新聞・毎日新聞などのメディアとともに、日本の安倍首相の難民問題に対する態度を強く批難した。元国連難民高等弁務官の緒方貞子氏も「リスクなしに良いことなんてできない」「難民の受け入れこそが積極的平和主義だ」と朝日新聞記者のインタビューに発言した……

 以上をもって珈琲さんは、「難民問題に対して、受け入れをより積極化すべきと主張したり、メルケル首相を賞賛したい人たちには、是非一読していただきたい本である」と結んでいる。そして欧州で深刻な難民問題が発生している現実から、「沖縄米軍基地の米兵でさえ受け入れたくないような人たちには、到底受け入れることは不可能だろう」、という主張には思わず笑ってしまった。
 元国連難民高等弁務官の緒方氏の発言には不快を通り越し、怒りを覚える。元から好感のなかった人物だが、日本のメディアに評判のよいのは、自国の国益を度外視、他国に支援する輩なのだ。カトリックの緒方氏が日本よりもキリスト教圏を重視するのは当然だろう。
 キリスト教棄教者から以前、「クリスチャンは「私はクリスチャンです。」と言う人に一目置く傾向があります」というコメントがあったことを思い出す。クリスチャンやキリスト教シンパは、東南アジアの仏教徒よりもクリスチャンの華僑に親近感を覚えるようだ。

 欧州に大量の難民が押し寄せた直接の原因はシリア内戦だが、それ以前から中東やアフリカ諸国からの移民・難民問題を抱えていた。イタリア在住の長い作家・塩野七生氏のエッセイ『ローマの街角から』には、「難民問題」という章がある。コラムが雑誌に載ったのは1994年10月だが、単行本となった6年後、「(イタリアの)難民問題は、深刻化する一方である」と追記で書いていた。

『アラブ政治の今を読む』(池内恵著、中央公論社)には、2002年度の国連の報告書の事例が紹介されている。アラブ諸国の十代後半の若者にアンケートを取った処、過半数が海外移住を希望、特に英・米・加を目指しているという結果が出たという。それに対し、湾岸諸国を含めたアラブ諸国への移住を希望したのは、合わせても1割程度に過ぎなかったとか。
 さらにアラブ諸国は経済的には「中進国」の位置を占めており、基本的な衣食はほぼ足りている世界だそうだ。アラブ諸国の問題は今現代「食べられない」ということではなく、生まれ育った社会において将来に希望を描けない状況にあるのではないか、と池内氏はいう。

 欧米諸国が多数の移民難民を受け入れてきたのは人道面は表向き、グローバル化の名の下、実際は低賃金で働く労働者を必要としていたためだ。人道主義を訴えるメディアは多国籍企業の広報と言っても過言ではなく、多文化共生を進めたことにより多文化対立に火が付いた。難民問題騒動はメディアによる影響が大である。飯が食えるかどうかで報道内容に手を加えるメディアなど、と何ら変わるところはない。

 河北新報第一面下段に毎日掲載されるコラム「河北春愁」。先月、アメリカン・デモクラシーを称賛した19世紀フランスの思想家トクヴィルの名があった。コラムニストはトランプの登場をトクヴィルがどう思っているのか、と書いていたが、トクヴィルは著書で経済と世論の腐敗した混乱の時代が待ち受けていると予言していた。党派根性が凶暴になることや、賢人の判断が無知な者の偏見よりも下位に置かれることまで予測していたのがwikiにある。

◆関連記事:「トクヴィル―二重基準のフランス知識人

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