東北歴史博物館の特別展「アンコール・ワットへのみち」を先日見てきた。とても見応えのある特別展だったし、博物館のHPではこう紹介されている。
「9~15世紀にかけて,現在のカンボジアを中心に強大な勢力を誇ったアンコール王朝は、東南アジア史上に燦然と輝く世界遺産アンコールワットに代表される豪壮華麗なヒンドゥー教、仏教の石造美術を各地に残しました。その神秘的な造形は、世界各地から訪れる多くの人々の心を今も惹きつけてやみません。
本展では、石彫像など約100点にものぼる文化財を一堂に公開し、王朝成立の前史からスタートし、世界遺産アンコールワットなど、アンコール彫刻の造形美の変遷の「みち」をたどります。
さらに、アンコール王朝の周辺、現在のミャンマーのほぼ全域に君臨したパガン王朝や、現在のタイを中心に繁栄したドヴァーラヴァティー国など、インドシナ半島に華開いた豊かな宗教彫刻の世界を巡る、これまで誰も経験したことのない壮大な「旅」へと誘います」
今年の春、名古屋市博物館でも「アンコール・ワットへのみち」展が開催されているが、関連HPを見たら展示品は約120点とあった。要するに同じ特別企画でも、東北では20点ちかくも展示品が減っていたのだ!今展だけではないが、またも東北の催しは縮小されており、東北軽視かー、と僻みたくなる。
展示品が減らされたのは面白くないが、会場のヒンドゥーの神々の神像や仏像は素人目にも逸品ぞろいで満足した。これだけの規模で東南アジアの石像が展示される展示会はあまりないだろう。会場ではアンコール王朝ばかりではなく、8世紀以前の小国乱立の時代(プレ・アンコール時代)の石像も多く展示されていた。
プレ・アンコール時代のヒンドゥーの神々の石像を見ると、初期の像には彫りの深いインド・アーリア系の顔立ちの造形が多かった。日本の初期の仏像もそうだったが、豊満な肉体の女神像は日本ではあまり見かけない。やはりカンボジアの神像はインド文明の影響が強いようだ。しかし、インドの神像と全く同じ形式という訳ではない。
チラシに使われたブラフマー像の制作は10世紀後半という。インドでのブラフマーは絵画、石像問わず老人の姿で表現されることが多いが、本展で展示されたのは女性のように優雅な若者の姿となっている。これほど美しいブラフマー像は、滅多にお目にかかれないだろう。
上の画像は同じくチラシに使われているプラジュナーパーラミター(般若波羅蜜多菩薩)像。諸仏の母とされる女神で、これも10世紀後半制作。バンテアイ・スレイ様式と呼ばれる石像だが、カンボジアの石像には様々な様式のものがあるのを今回初めて知った。
会場では様々な時代の様々な様式の石像が展示されていたが、特にバンテアイ・スレイ様式は精巧で優美な作品が多く、wikiにも「アンコール美術の至宝」などと賞賛されていることが載っていた。
上はナーガの上のブッダ像の画像。11世紀制作だそうで、仏典には釈迦が悟りを開く際、一週間に亘りナーガ(蛇神)が守護した話が載っていて、この石像はそれに基づいた作品。とぐろを巻いた蛇に座る仏像など、日本ではあまり見られないだろう。
カンボジアの神像はやや口角が上がり、微笑んでいる顔立ちで表される像が多く、このブッダ像も同じパターン。東南アジアに比べて日本や中国の仏像は、微笑みが少ないように感じるが、風土や文化の違いもあるのやら。
会場ではタイやミャンマーの神像も何点か展示されていたが、表情がカンボジアのものより硬く、形式ばって厳めしい印象だった。芸術性ではカンボジアの石像美術の方が上……と感じた来場者もいたかもしれない。
神像の本場といえばインドだが、カジュラーホーのヒンドゥー寺院は豊満な女神像で知られ、アンコール美術はその影響を受けているのか。東南アジアにもカジュラーホーのようなミトゥナ像(男女交合像)があるのかは不明だが、アンコール神像はインドのそれに引けを取っていない。むしろ本家よりも、精巧な造形美で上回っているとさえ思った。
本展には表面が一部剥落した石像が多かった。会場の説明によれば苔の根の酸で石が溶けたそうで、古い石像にはよくある特徴という。木像と違い石像なら保存状態もよく、遺跡として残り易いイメージが何となくあったが、恐るべしは石ですら溶かしてしまう苔!
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私も東南アジアの仏像やヒンドゥーの神像にはまるで浅学ですが、カンボジアの像は素晴らしいと感じました。室長さんが8月末に「古代ギリシャ特別展」を観賞されていたとは羨ましい。私も代休を利用して平日に博物館観賞をしたことがありますが、平日は観客が少なく、学芸員の解説を聴けたことがありました。これが休日ならばまずないし、やはり得した気分になります。
理想美の極致である古代ギリシアの神像に対し、ヒンドゥーのそれはあるがままの人間像を表現しています。私もインドの彫刻は猥雑で嫌らしいと感じたことがありますし、エロ丸出しの傾向があるのは否めません。一方、カンボジアの女神像はインドに比べれば慎ましい。日本の歴史教科書にも載っているガンダーラ仏像は違いますが。
インドの男神像にも男性のシンボル丸出しは少なくないですが、あまり嫌らしさは感じられません。ギリシャ、ローマの彫刻での男性のシンボルは写実的ですが、インドの場合はパターン化されています。
小生は、東南アジアと言うと、タイに2度ほど旅行した(バンコックのみ)だけで、基本的にはTV画面でしか見ていないけど、カンボジアのヒンズー教、仏教の像は、それなりに美しいようですね。
そう言えば、小生夫妻は、8月30日に上野の「東京国立博物館」に行って、「古代ギリシャ特別展」と言うのを鑑賞してきました。確か台風が東北へと抜けた日(火曜)だったので、まだ見物人は少ないだろうと推察して、出かけたのですが、やはり意外と観客が少なく、得した気分でした。
大きな石像は相対的に少なく、細かい金属製の飾り物、貨幣などが多かったけど、これまで見たことが無かったような彫刻、装飾品、壺など陶器の絵模様などが豊富で、地中海文明の多様性とか、素晴らしさとか、感銘を受けました。
ギリシャの彫刻と比べると、インド文明の彫刻は猥雑にしか見えない・・・と言うと叱られそうだけど、どうも若い頃から欧州文明ばかり見てきたせいで、ついそういう気分になります。
ビーナス像など、エロには見えないけど、インドの彫刻には嫌らしさがある。このカンボジアの女神像は、6頭身くらいのせいか、いやらしさが感じられず、いいと思う。
他方、ギリシャ、ローマの彫刻では、女性に関しては慎ましやかだが、どういう訳か、男性のシンボルは丸出しが多く(幸い、欠けてしまっていることが多いけど)、男だけは何で嫌らしいんだ!と突っ込みたくなる。