仙台市博物館の特別展、ライデン国立古代博物館所蔵古代エジプト展を見てきた。仙台市博物館では過去にも古代エジプト関連の特別展が開催されているが、ライデン国立古代博物館所蔵の展示は今回初めてのはず。特別展の公式サイトもあるが、以下は仙台市博物館HPにおける展示館の概要。
―オランダにあるライデン国立古代博物館では、ヨーロッパ有数のエジプト・コレクションを所蔵しています。本展覧会では質・量ともに優れた同館のコレクションより、人や動物のミイラ、棺、石碑、パピルスなど厳選された資料約250点を展示し、古代エジプト人の生活や社会、死生観といった文明のさまざまな側面を解き明かします。
さらに、科学技術を駆使した研究成果から判明した、古代エジプト人の医学的な知識やミイラ作りの過程、色や形に対する美意識といった最新の知見も紹介します。美しい棺が立ち並ぶ圧巻の立体展示もおすすめです。
特別展は4部で構成されており、第1章 エジプトを探索する、第2章 エジプトを発見する、第3章 エジプトを解読する、第4章 エジプトをスキャンする……の順で展示されていた。
本展第1章で解説されているとおり欧州人によるエジプト探索は、ナポレオンのエジプト遠征に端を発している。ナポレオンが“解放者”を自称したところで遠征先では戦禍に外ならなかったが、学術調査団を同行したことで大いなる学術的貢献を果たしてもいる。それまではジャーヒリーヤ(無明時代)状態として、完全に埋もれていた古代エジプトの歴史を探索したのこそ欧州人なのだから。
展示品を見て驚いたのは、石や金属で作られた遺物はともかく、『死者の書』のようなパピルス文書の保存状態が極めて良いこと。最も新しいのはプトレマイオス朝の『死者の書』で、第19王朝のパピルスまで展示されていた!上の画像はパディコンスの『死者の書』(№63)、第21王朝時代のもの。この王朝の最終年は紀元前945年だから、言葉もない。
本展チラシには「美しき棺が立ち並ぶ圧巻の立体展示!」のコピーがあり、棺だけではなくミイラ覆いも展示されていた。上の画像は「アメンヘテプのミイラ覆い」(№144)、制作は第21王朝とされる。
棺にはさらに内棺まであり、外棺と同じく絵や文字がびっしり描かれている。棺の内部にも神々の絵が施されているが、中には正面を向いた女神像が描かれていた棺もあり、横顔ばかりのエジプト絵画にも例外があったのか。
グレコ・ローマン時代になると、芸術品同然のミイラ覆いは廃れたようで、直接故人の肖像画をミイラと共に埋葬するようになったという。
「男のミイラの肖像」(№150)がそれで、1~2世紀制作とされるが、結構イケメン。但しこの種の肖像画は、かなり理想化されたものが多かったとか。
本展の目玉は美しき棺の立体展示だが、本心ではミイラが一番と期待していた来館者が少なくなかっただろう。古代エジプトと云えばミイラ、ミイラが展示されていない特別展は残念……と思うのは私だけではないはず。
しかし、本展でのミイラは包帯ぐるぐる巻き状態で展示されており、拍子抜けした来館者がいたかもしれない。その代わり、本展のため最新の装置を用いてCTスキャンを行った、人のミイラ3体と動物のミイラ1体の研究成果が世界初公開されている。CTスキャンでも鮮明にミイラが分析出来るようになっているのだ。
包帯ぐるぐる巻きでは外見から男女の区別がつかないが、CTスキャンの画像は骨格も写っている。「センサオスのミイラ」(№191)はローマ時代の109年のもので、16歳で死亡した上流階級の女性のミイラ。死因は解説されていなかったが、顔の復元模型(№193)も展示されていて、いかにも若いローマ女性という印象。
かつては包帯を切り開き、ミイラを調査するやり方が多かったが、いかに学術調査でもミイラ損壊にも繋がる行為でもある。ライデン大学では何時か科学が進歩し、切開せずにミイラが調査できる時代が来ると考え、そのままの状態で保存したそうだ。将来を見越した実に賢明な対処だが、内心は直にミイラを見たかったと思った来場者は少なくなかっただろう。
古代エジプト展は何時見ても面白いが、今回のライデン国立古代博物館所蔵の特別展はとりわけ充実していた。紀元前にはかくも高度な文明が栄えていたのに、現代のエジプトは……と感じずにいられない。非ムスリムには果たしてどちらの方が無明時代なのか、と言いたくなる。
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