『君戀しやと、呟けど。。。』

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『至極近距離恋愛』~続編~

2009-11-04 08:51:04 | ショートショート
 澪が、軟禁誘拐から無事に帰ってきて二週間が経った。そして新しい年を迎えたら、高校に復学する。
 愛介の方は無罪放免というわけにはいかなくて暫くは外来通院という形になったが、それも原因がはっきりしている以上、誰もが安心している。
 祖母は、菖から直々にお小言を食らったらしく、もう許嫁としての掟の話はしなくなった。

 かっこよかったな、菖の奴。
 いつも人を馬鹿にしたような目をして、世の中の全てを否定して生きているような男だったのに。
 でも今は、桔梗曰く、年相応のバカップルを地でいく大学生だそうだ。そういう桔梗も、良い女を連れて後日見舞いに来てくれた。
『ああいう女を、慎ましいっていうんだろうな』
 そんなことを言ったら、澪に思い切りほっぺた抓られたっけ。
 戻ってきてからの澪は、やたらと素直だ。
 あんなに他の男のことを聞かせてたくせに、と言うとやきもちを焼いて欲しくてやっていたと告白された。

 退院して久し振りに入った部屋は、やはり澪の気配がいっぱいだった。
 どこを見ても、澪の姿がよぎる。
 気付いてしまえば、こんなに澪を追っていたことに驚いた。
「愛介。どうしたの」
 部屋の真ん中に立ち尽くす形となっていたので、澪が不思議そうに顔を覗き込んでくる。
「いや、何でもない」
「じゃ、横になった方がいいよ」
 横になると、シーツや枕を変えたのだろう。ぱりっとした感触が肌に伝わる。
「澪」
 彼女は持ち帰った鞄の中身を引っ張り出しながら、顔だけ振り返り返事をする。
「おいで」

 しかし、澪はすぐには来なかった。
「どうした」
「ごめん。愛介が自覚したんだと思ったら、一緒の布団に入るのは無理みたい」
 それだけ言って、再び荷物の整理に取り掛かる。
「俺と一緒だと、もう眠れない?」
 うん、と振り向くこともなく肯定された。

 愛介は一度入ったベッドから下りた。そして澪の許まで歩く。
 決して顔を上げることのない澪が、全身で緊張しているのが分かる。
 前から、こんな風だっけ…
 愛介は、小さく息を吐いた。

「大事に守って育ててきた。だから気付かなかった。でもさ」
 そこで、澪のあごを捉えこちらを向かせた。
「ちゃんと結婚式挙げて、入籍して、それから高校復帰しろよ」
 澪の瞳に、みるみる溢れる涙を綺麗だなと思い眺めた。

 そのまま、キスをする。

 初めてしたキスは、澪の涙の味がした――。

「愛介。私のこと、妹じゃないの? ちゃんと女の人に見える!?」
「勿論」
 愛介の答えに、澪の腕が首に廻ってきた。
「じゃ、私のこと、抱ける?」
「今も結構、いっぱいいっぱいで耐えてる。このまま押し倒したい」
 耳元にあった澪の唇が、吐息を洩らす。
「いいよ、押し倒して。私は愛介の許嫁なんでしょ。御祖母様がもういいって言ったとしても、私は愛介のお嫁さんになれるんでしょ」
「澪…」
 お前、不安だったのか。
 祖母の言った、もう昔の約束を破棄すると言った言葉は、お前を苦しめた!?

「抱くぞ」
「ん」
 俺は澪の体を抱き上げて、キスをしながらベッドに向かった――。
                         【了】

                           著作:紫草
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