『君戀しやと、呟けど。。。』

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『愛しい想い』 vol.15

2006-05-09 10:22:12 | 小説『愛しい想い』
 母の涙を見るのは何度目だろう。
 今、私は自分の状態についての説明と、今後の治療方針とやらを聞いている。聞く内容に対し、片っ端から泣く母は結構邪魔な存在だったが、そのお蔭で自分が泣かずにいるのも事実だった。

 何でも私の足は、一生自分の意志で動くことはないそうだ。
 しかし首の骨を折ったわりには快復は早く、全身麻痺してしまう人も多い‘頚椎損傷’の中では奇跡の軽傷だとも云われた。

(これで軽傷…)

 ベッドから離れられない現状で軽傷。一人では車椅子にも座れず、その上電動タイプでないと移動もできない。こんな状態で軽傷。
 しかし、不思議と悲観する涙を流すことはなかった。
 事故当時の記憶が完全に飛んだままの私にとっては、どうしてこんなことになったのか、その方が気になった。誰も教えてくれない事実を想像するのは辛かった。

 だからかもしれない。
 あなたの足は動きませんよ、と云われても、そんなにショックを受けた気はしない。
 それよりも別れた筈の優一が、毎日病室を訪れることの方が気になった。
 それでも夜になると、無性に泣きたくなる。何が悲しいのか、自分でもよく分からないまま、自然と目頭が熱くなる。ただ泣いてしまうと、汚い。自分で拭くことができないから。
 結局、見栄っ張りだったのかもしれない。私は殆ど泣くことなく‘臭いものに蓋をする’如く過ごした。

 事故から数ヶ月。
 私はリハビリ専門の病院へ移ることになる。
 その話の真っ最中。
 母は相変わらず泣き続けているし、いつもは陽気な父も黙ったままだった。
 一週間後、隣の県にあるリハビリセンターへの転院が決まった。父は仕事の都合で自宅に一人残り、母は一緒に付いてくると云う。
 でも、二人のそんな会話を聞きながら、私が一番不安だったこと。それは転院してしまったら、優一にはもう会えないかもしれないということだった。

 どうして優一は毎日来てくれるんだろう?!
 どうして、みんな何も教えてくれないんだろう?!

 医師は、そのうち思い出すことがあるかもしれないと云うが、本当に思い出したら、私はどうなるんだろう…
 的外れな不安を抱えながら、私は、いつもように優一を待つ。大事な話を後回しにする癖は、私にも身についている。。。

               To be continued
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