『君戀しやと、呟けど。。。』

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『あきら Ⅹ』

2005-08-20 16:26:16 | 小説『あきら』
――元気?! 冬子さん。

 受話器を通して聞こえてきた声。
 それは待って待って待ち望んで、でも二度とかかってくることのなかった俊の、あの時と全く変わらぬ彼の声のように聞こえた。

「俊なの?!」
 半信半疑の私。これが誰かの冗談とかだったら、私は耐えられないだろう。
――そうだよ。そろそろ迎えに行きたいんだけど、いいかな。

 迎えに来る。
 何処へ。
 誰を。

 私は受話器を持ったまま、立ち尽くしてしまっていた。

「ただいま~」
 扉を開きながら、子が声をかけてくる。
「お帰りなさい」
「あっ、電話?! ごめん」
 そう云って、部屋へと出て行った。

――帰ってきたね。丁度よかった。今から行くから、二人で待ってて。そうだな、30分くらいで着くと思うから。
 そう云うと、彼は一方的に電話を切った。

 今の言葉を、どう取ったらいいんだろう。
 今から来るって、どうして、そんなことが出来るのだろう。
 それより、今の電話は本当に俊からのものだったのか。

 俊と別れて10年が過ぎていた。
 当時、7歳だった子は高校二年となった。
 あの時、俊が知っていた電話も携帯も今はない。
 俊が、ここの番号を知る筈はないのだ。

 やっぱり騙されてる。。。

 涙が浮かぶ。
 もう枯れてしまったと思っていたのに、ほんの少し俊の面影を追っただけで、脆くも崩れてゆく私。
「母さん」
 子が、後ろから支えてくれる。
「大丈夫だよ。大丈夫。何か、あったの?!」
 子の声は優しい。私の心の病気を知っているから、絶対、私を責めたりしない。

「俊だと云う人から電話があったの。30分くらいしたら、迎えに行くからって。でも俊は此処のこと、何も知らないの。だから・・、また騙されちゃった」
 背中をさすってくれる子。いつしか、私より大きな手になった。
「分かった。じゃ、とりあえず30分待ってみようか。それで誰も来なかったら、薬飲んで寝よう」
「うん」

 座椅子にもたれると、子が冷たいお茶を入れてくれた。
「有難う」
 少し落ち着いたかな。
 また、子の前で泣いちゃった。
 反省だ。

「母さん。俺は、もう子供じゃないから、そんな顔しなくても大丈夫だよ」
 そう云う息子の瞳の中に、私は夫の面影を見た。
 電話を切って、そろそろ30分。

 待ちたくないのに、待っている。。。
               To be continued
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4 コメント

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幸あれ (natu)
2005-08-21 01:33:37
10年・・・。長いね。

ひと昔、では片付けられない程、長いね。



冬子さん、頑張ったね。

いい息子に育てたね。

幸せになれるといいね。

幸せになれますように。
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Re:natuちゃんへ (紫草)
2005-08-21 01:45:08
 深夜の訪問、有難う。ちょっと吃驚



 二つの道を作って始めた、この話。結局、途中で変更して長い方を進んでいます。

 それぞれに何が待っているんでしょう。。。

 次回を、お楽しみに
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10年か~ (あきら)
2005-08-24 11:31:20
私も 冬子さんのように 待てるかな?

多分 無理だと思います^^

しかも 息子・・・

欲しかったなぁ・・・orz



さてと 続き続き^^
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Re:あきら様 (紫草@管理人)
2005-08-29 13:21:21
 我が家も息子。欲しかったなぁ~、女の子
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