『君戀しやと、呟けど。。。』

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Penguin's Cafe 『想い出のカフェ』

2011-02-12 20:02:52 | short(テーマ)
*このお話はニコタ創作、short「誰が降らせた、その雪を」「そして静かに、雪は降り積む」「終わらない、旅」という3部作の番外編になります。

テーマ:Penguin’s Cafe №24


 ♪カラ~ン
 耳に心地好い、鈴の音が店先にまで届いた。
『いらっしゃいませ』
 一歩入ると、マスターの低音が店内に響いた。

 沢田凪は、約束していた場所への道を間違えたようだと気付いた。
 普段なら、単に引き返せばいいと思っただろう。
 しかし、それはできなかった。
 何故なら、そこには想い出のなかにある名前と同じカフェがあったから――。

 凪の記憶から、二年前の出来事が引き出された。
 北の街。
 雪国の、鈍色(にびいろ)の空は今にも雪が舞いそうな雰囲気だった。
 そこで入ったのが、ペンギンズカフェという小さいけれど、垢抜けたオシャレな店だった。
 Penguin's Cafe.
 この店の前には、カタカナではなくアルファベットで同じ名が刻んであった。

「あの、ちょっといいですか」
 凪は、カウンターの中にいるイケメンマスターに声をかけた。
「はい。お待ち下さい」
 彼の声がそう言うのを聞き、
「あ。違うんです。注文じゃなくて」
 そう言った時には、マスターは凪のテーブルの脇に立っていた。

「何でもいいですよ。お話があるんですよね」
 店は混んでいた。
 凪は聞きたいことを聞いてしまおうと、話し始めた。
「こちらのお店はチェーン店なんですか」
 一瞬、マスターの眉が動き次に、それは見事な笑みに変わった。
「何処かで、ペンギンズカフェに出会われましたか」

 凪は頷いた。
 あの北の街に在った、女主人の淹れてくれた美味しい珈琲の話をした。
「そのお店も、ペンギンズカフェって名前だったんです」
 マスターは、静かに頷いた。
 そして向かい側に座ると顔を寄せ、小さな声で話してくれた。
「ペンギンズカフェはチェーン店ではありません。ただ本店のオーナーの気持ちに賛同する者たちが、様々な場所でそれぞれのお店をオープンさせているんです。不思議なお店たちです」
 そこで彼は、一枚の写真を胸ポケットから取り出した。
 そこには人だけではない、不思議な空間が写っていた。ただ後ろに写るのは、確かに入ってきたこの店の前だ。
「お客様が、そのお店に入ることができたのなら、きっと貴男にとっての運命の歯車が動き出したのでしょう」
 彼は、そう残してカウンターへと戻っていった。

 凪は、綺麗な青い花のカップを手に取った。
 純粋に、紅茶だけの香りが凪自身までを取り巻くように香る。
 運命の歯車。
 そうなのかもしれない。
 あの店で待ちぼうけをくわされて、凪は一人で珈琲を飲んだ。美味しくて、待っている時間を忘れさせてくれるような、砂糖を入れていないのに、甘く感じる珈琲だった。
 そして待ちぼうけをくった彼女、原口沙柚と三度出逢ったのは、珍しく降った雪が残る春を待つ街だった――。

 雪で新幹線が止まり、駅で遭遇したのだ。
 凪には決めていたことがあった。
 もしも…
 もしも、もう一度出逢うことがあったなら、何を聞くよりも先にプロポーズしようと。

 そんな物思いに耽っていると、扉の鈴が鳴った。
 顔を上げる。
 マスターの『いらっしゃいませ』という言葉に微笑みを向けた後、彼女はこちらを向く。
 そして今度は真っ直ぐ歩いてきて、さっきまでマスターのいた場所に座る。
「ここもペンギンズカフェって言うのね」
 凪の飲む紅茶を見て、同じものを頼んだ後、彼女はそう言った。
「急に待ち合わせ場所変更なんてメールくるから、焦っちゃった。迷子にならなくて、よかった」
「あゝ あとで面白い話、聞かせてやるよ」
 凪のその言葉に、沙柚はいつものように黙って頷いた。

 このPenguin's Cafeに、新しい常連さんができるようだとマスターは胸に仕舞った写真に手を添え思うのだった――。
                          【了】
                            著作:紫草

-*Penguin`s Cafe №1~14は、HP[孤悲物語り]内にUPしています。
 こちらからどうぞ。
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5 コメント

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こんばんは (ディー)
2011-04-07 23:20:14
バタバタと去ってしまい申しわけありませんでした。
でもなんとか書くことだけは続けたいので、今後ともよろしくお願いします^^

外部ブログ
http://doshima.blog.fc2.com/
4月課題/桜『長崎より出でてバージニアに立つ』
http://doshima.blog.fc2.com/blog-entry-10.html

もしくはHPより
http://doshima.web.fc2.com/story/kadai-4.html

です。

またニコに復帰できたらご挨拶にまいります。
(多分年内は無理)でしょうが

ではまた^^
返信する
ありがとうございました (ディー)
2011-04-13 19:51:14
紫草さま

いろいろとありがとうございます。
お手間かけてます(汗 お礼が遅れてすいません。

申し訳ないですが、5月の課題が決まればご連絡いただければすごくうれしいです^^
また、お手間かけついでで申し訳ないのでが、あびさんにコメントをいただいててお礼が言いたいのですがニコには入れないので、よろしくお伝えください。

ブログは当分これを使います。
「堂島の領域セカンド」
http://doshima.blog.fc2.com/

小説は今後こちらにまとめていきます。
http://novel.fc2.com/novel.php?mode=ttl&uid=9515517

皆様のお話はスイーツマンさまの外部ブログで読まさせていただいてます^^
ではまた。

ディー
返信する
Re:ディーさんへ (紫草@管理人)
2011-04-15 08:37:57
ニコタでは有難うございました。
これで、これからもお話を拝読できますね。

5月の小題は、只今アンケート実施中で明日の集会で決定になると思います。
決まったら、ブログの方へお知らせに伺います。

あびさんへの伝言、承りました。
報告に伺ってきますね。
これからも宜しくお願い致します。
返信する
書いちゃいました^^ (ディー)
2011-05-01 15:56:12

5月課題:5月病/ 『憂鬱な5月は』

http://novel.fc2.com/novel.php?mode=rd&nid=98272&pg=4

です。1999字です^^ 
自分で出した課題にこんなに苦しむとは思ってなかったですw
返信する
Re:書いちゃいました^^ (紫草@管理人)
2011-05-02 00:53:23
>ディーさん

 こんばんは。
 お見事です。
 私は、まだ苦しんでいる真っ最中でございます。

 でも5月は始まったばかり。
 もう少し、のんびりと構えてから、書いてみようかと思っています。
 後で読みに伺いますね。
返信する

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