~消えない悲しみ 消せない記憶・番外編3~
精彩を欠いている…
誰もがそう言っているのを知ってる。
そして、それを面と向かって言えないのも分かってる。
それはそうだろう。彼女の死が何をもたらすのか、誰も分かっていないのだから。
再演の舞台稽古が始まることになり、周りの人は気遣ってくれた。
その気遣いが鬱陶しかった。心の傷は傷として曝け出す覚悟はできていたのに。否、そうでなければ、俺は彼奴に会わす顔がない。
なのに、優しい言葉は途切れない。
気遣ってくれているのだと、自分を納得させるのが辛かった。
こんなことを考えているなんて知ったら、みんな幻滅するだろうな。
それでも卑屈になってゆく自分を止められない。
叫びたい、もう彼奴はいないのだと。だからそれを受け入れろと。
待ってくれない稽古も当然、順調には進まない。
深夜残って、さらうべき稽古をする為に、気の重いまま板の上に立つ。
!
刹那、蘇る彼奴の声。
指先、腕、首、そして爪先。
全てにおいて、彼奴の声は残っていた。
テレビを見ながら、VTRを観ながら、話してくれた呟き。それは確実に俺の耳に残っている。
遠慮して観たことのなかった舞台。いつか本物の舞台を観たいと話していた。
誰もいない静寂の板の上、そこに彼奴の言葉と気配が在った。
そう認識した途端、体が動いた。それまで借り物のようだった体が、自分の意思の通りに動く。
『できる』
そう直感した瞬間でもあった。
愛してる、いつまでも。
そして決して忘れない。その声音も、その姿態も。ほんの束の間の、逢瀬でさえも。
この命果てる、その最期の一瞬まで――。
そう誓った、彼奴との最后の時に。
そして今また新たに誓おう。
お前の観ることの叶わなかった舞台、俺は必ず踏んでみせる。そして、いつまでも立ち続けてゆくと。
【終わり】
著作:紫草
精彩を欠いている…
誰もがそう言っているのを知ってる。
そして、それを面と向かって言えないのも分かってる。
それはそうだろう。彼女の死が何をもたらすのか、誰も分かっていないのだから。
再演の舞台稽古が始まることになり、周りの人は気遣ってくれた。
その気遣いが鬱陶しかった。心の傷は傷として曝け出す覚悟はできていたのに。否、そうでなければ、俺は彼奴に会わす顔がない。
なのに、優しい言葉は途切れない。
気遣ってくれているのだと、自分を納得させるのが辛かった。
こんなことを考えているなんて知ったら、みんな幻滅するだろうな。
それでも卑屈になってゆく自分を止められない。
叫びたい、もう彼奴はいないのだと。だからそれを受け入れろと。
待ってくれない稽古も当然、順調には進まない。
深夜残って、さらうべき稽古をする為に、気の重いまま板の上に立つ。
!
刹那、蘇る彼奴の声。
指先、腕、首、そして爪先。
全てにおいて、彼奴の声は残っていた。
テレビを見ながら、VTRを観ながら、話してくれた呟き。それは確実に俺の耳に残っている。
遠慮して観たことのなかった舞台。いつか本物の舞台を観たいと話していた。
誰もいない静寂の板の上、そこに彼奴の言葉と気配が在った。
そう認識した途端、体が動いた。それまで借り物のようだった体が、自分の意思の通りに動く。
『できる』
そう直感した瞬間でもあった。
愛してる、いつまでも。
そして決して忘れない。その声音も、その姿態も。ほんの束の間の、逢瀬でさえも。
この命果てる、その最期の一瞬まで――。
そう誓った、彼奴との最后の時に。
そして今また新たに誓おう。
お前の観ることの叶わなかった舞台、俺は必ず踏んでみせる。そして、いつまでも立ち続けてゆくと。
【終わり】
著作:紫草