『君戀しやと、呟けど。。。』

此処は虚構の世界です。
全作品の著作権は管理人である紫草/翆童に属します。
無断引用、無断転載は一切禁止致します。

作品bより~『蘇る』 番外編3

2010-02-11 08:54:17 | 作品b 【掌編】
     ~消えない悲しみ 消せない記憶・番外編3~

 精彩を欠いている…
 誰もがそう言っているのを知ってる。
 そして、それを面と向かって言えないのも分かってる。
 それはそうだろう。彼女の死が何をもたらすのか、誰も分かっていないのだから。

 再演の舞台稽古が始まることになり、周りの人は気遣ってくれた。
 その気遣いが鬱陶しかった。心の傷は傷として曝け出す覚悟はできていたのに。否、そうでなければ、俺は彼奴に会わす顔がない。
 なのに、優しい言葉は途切れない。
 気遣ってくれているのだと、自分を納得させるのが辛かった。
 こんなことを考えているなんて知ったら、みんな幻滅するだろうな。

 それでも卑屈になってゆく自分を止められない。
 叫びたい、もう彼奴はいないのだと。だからそれを受け入れろと。
 待ってくれない稽古も当然、順調には進まない。
 深夜残って、さらうべき稽古をする為に、気の重いまま板の上に立つ。
 !
 刹那、蘇る彼奴の声。

 指先、腕、首、そして爪先。
 全てにおいて、彼奴の声は残っていた。
 テレビを見ながら、VTRを観ながら、話してくれた呟き。それは確実に俺の耳に残っている。
 遠慮して観たことのなかった舞台。いつか本物の舞台を観たいと話していた。
 誰もいない静寂の板の上、そこに彼奴の言葉と気配が在った。
 そう認識した途端、体が動いた。それまで借り物のようだった体が、自分の意思の通りに動く。
『できる』
 そう直感した瞬間でもあった。

 愛してる、いつまでも。
 そして決して忘れない。その声音も、その姿態も。ほんの束の間の、逢瀬でさえも。
 この命果てる、その最期の一瞬まで――。

 そう誓った、彼奴との最后の時に。
 そして今また新たに誓おう。
 お前の観ることの叶わなかった舞台、俺は必ず踏んでみせる。そして、いつまでも立ち続けてゆくと。
                         【終わり】
                              著作:紫草
コメント    この記事についてブログを書く
« 作品bより~『憧れ(あこがれ... | トップ | 『一族』1 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

作品b 【掌編】」カテゴリの最新記事