「はい、お土産」
そう言って渡されたのは、北の町の乾き物。
「えっと…、これ食べたいのは貴男よね」
あ~、多分そうかな、と言った彼は、早くも縁側に腰掛けている――。
「あ!虫が鳴いてる。そういや涼しくなったもんな~」
その声で、瞬時、虫の音がやんだ。視線を合わせ、残念という表情を見せる。
しかし程なくして再び虫が鳴き始めると、今度は彼も声を発せず、虫の音に聞き入っている。庭には、彼岸花が咲き乱れていた。
月夜。
同じ月を、別の場所で見上げ過ごすのだと思っていた。
約束は果たされることなく、独りの夜が更けてゆくのだと。訪れない彼を、ただ待つ宵になるのだと。
そんな私の思いに反し貴男はやって来た、十六夜の望月には間に合わなかったけれど。
それでも、まだ夜空に立待の月があるうちに…。
そして離れていた時間を埋め尽くすかのように、私たちは互いを欲し抱き合った――。
【終わり】
2009年10月5日 立待月
著作:紫草
そう言って渡されたのは、北の町の乾き物。
「えっと…、これ食べたいのは貴男よね」
あ~、多分そうかな、と言った彼は、早くも縁側に腰掛けている――。
「あ!虫が鳴いてる。そういや涼しくなったもんな~」
その声で、瞬時、虫の音がやんだ。視線を合わせ、残念という表情を見せる。
しかし程なくして再び虫が鳴き始めると、今度は彼も声を発せず、虫の音に聞き入っている。庭には、彼岸花が咲き乱れていた。
月夜。
同じ月を、別の場所で見上げ過ごすのだと思っていた。
約束は果たされることなく、独りの夜が更けてゆくのだと。訪れない彼を、ただ待つ宵になるのだと。
そんな私の思いに反し貴男はやって来た、十六夜の望月には間に合わなかったけれど。
それでも、まだ夜空に立待の月があるうちに…。
そして離れていた時間を埋め尽くすかのように、私たちは互いを欲し抱き合った――。
【終わり】
2009年10月5日 立待月
著作:紫草