『君戀しやと、呟けど。。。』

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『立待月』

2009-10-05 18:03:08 | 作品b 【掌編】
「はい、お土産」
 そう言って渡されたのは、北の町の乾き物。
「えっと…、これ食べたいのは貴男よね」
 あ~、多分そうかな、と言った彼は、早くも縁側に腰掛けている――。

「あ!虫が鳴いてる。そういや涼しくなったもんな~」
 その声で、瞬時、虫の音がやんだ。視線を合わせ、残念という表情を見せる。
 しかし程なくして再び虫が鳴き始めると、今度は彼も声を発せず、虫の音に聞き入っている。庭には、彼岸花が咲き乱れていた。

 月夜。
 同じ月を、別の場所で見上げ過ごすのだと思っていた。
 約束は果たされることなく、独りの夜が更けてゆくのだと。訪れない彼を、ただ待つ宵になるのだと。

 そんな私の思いに反し貴男はやって来た、十六夜の望月には間に合わなかったけれど。
 それでも、まだ夜空に立待の月があるうちに…。
 そして離れていた時間を埋め尽くすかのように、私たちは互いを欲し抱き合った――。
                            【終わり】
2009年10月5日 立待月

                              著作:紫草
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