『君戀しやと、呟けど。。。』

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『愛しい想い』 Vol.8

2006-02-05 23:34:07 | 小説『愛しい想い』
「これ、飲んだら帰ります」
 私は、そう云って、手にあるグラスを少し持ち上げる。
「どして?!」
 優一は付き合っていた時と同じ、優しい声で聞いてくれるものの、今更、何を聞いても何も変わらないことは分かった。
 もう、迷惑をかけたくない。
 最后は、いい女でありたい。
 頭の中を巡る言葉は、何一つ、口から出ることはなく、私は俯いているだけだった。

「魅子、何でもいいから聞いてよ」
 優一の言葉は優しすぎて、これがホストの甘い言葉だと云い聞かせるのは、大変だった。
 忘れてはならない。
 此処はホスト倶楽部で、優一は、ユウと呼ばれるホストの一人なのだ。
 
 私は、辛うじて笑ってみせた。
 やせ我慢?!
 少し違うかな。
 でも、ちゃんとしていたい。
 振られたことも分からなくて、元カレを追いかけてきたとは、思われたくなかった。

「あ~でも、まずは僕から謝らなくちゃね。ごめんね、魅子の前から突然、消えたりして」
  ちょっと今、10センチは近づいたぞ。
 ドキドキが高まって、心臓の音が聞こえそう。
「何から話そう。そっか、もう僕のこと、好きじゃないよね。ドラマのようにはいかないか。俺は、魅子と別れちゃったんだもんね」

 私は、答えを見つけられずにいた。
 これがホスト倶楽部でなかったら、きっと優一に抱きついていた。
 でも、ホストに溺れた女の子を知ってる。
 彼等の手練手管を聞いている。

 何かを始めるには、此処では、全てが砂上の楼閣だった。

「有難う。優一には本当に優しくしてもらった。でも、終わったことだから。もう追わない」
 その時、涙が一筋流れた。。。

 暫くしてランが戻ってくると、優一は離れていった。
「どうだった?」
「どうって、何も」
 眉間に皺を寄せるランの表情は、明らかに私を責めている。
「何よ。大体、ランが私を置き去りにするからいけないんでしょう」
「何云ってるのよ。ユウがお店に出るなんて、めったにないのよ。魅子の為じゃん」
 余程、動揺しているのか。ランの言葉が女に戻っていた。
「ラン、言葉、ヤバイよ」
 あっ、と小さく声を上げると、かっこつけたポーズだけして、小さく肩を震わせている。
「ごめんね。でもホストでしょ、今の優一は」
「あんたたち、何話したの?!」
 殆ど何も話してない、とは云えなくて、小さく首を傾げて見せた。
 ランが大きな溜息をついた。

 だって、ホスト・・。
 違うの

「もう一度、呼んであげるから、ホスト忘れて話してみなよ。分かった?」
 分かったと云われても、乗り気ではない。
 はっきり云って、会いたくない。
 否、違う。
 綺麗過ぎて、吸い込まれそうになってしまうから、話なんか聞けそうもない。
 ただ、ずっと見ていたい。

 もう何日も、そればかりを考えていた。
 もう嫌いになったというのなら、それでもいい。
 もう一度だけ、優一の顔を飽きる程、眺めていたい。

 視界に優一の姿が入る。
 早くも、涙が浮かんでた。。。
          To be continued
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