小城乃は何も言わなかったし、古都も何も話さなかった。
だって会話なんて不愉快なだけだもんね。
小城乃と櫻木は仲がいい。
学校の人気を二分する二人が並ぶと、小城乃の静と櫻木の動といった感じで一対のように言われている。
準備委員会に多くの生徒が立候補したのは、少しでも近づきたいと思うからだ。
だからこそ、古都は自分が選ばれるとは思っていなかった。
それなのに…
『悪いけど、このクラスは宮崎君と古都ちゃんね』
そう言った櫻木の言葉に、みんながうっとり頷いた。
電車を降り、ホームを歩いて改札を出る。その間も、小城乃は古都の後ろを付いてきた。
でも家まで送ってもらうわけにはいかない。
「ここで、いいです。ありがとう」
「家まで行くよ」
「でも…」
古都が戸惑っていると、小城乃が微笑んでくれた。
「まりんなら大丈夫。今は文化祭前だから近所のおばさんが見てくれてる」
行こっと手を取られた。
繋いでくれた自分の右手を、信じられないものを見るように眺めていた。
「どうした?」
「初めて先輩の手に触ったなと思って」
「抱き締めたことあったのにな」
え!?
突然の言葉に、あの時の光景が蘇った。
「そう。生まれて初めて男の人に抱き締められたんだった。先輩、いい匂いがしてたな」
古都の言葉に、変な奴と彼が笑ってた。
「何?」
「だって普通、パパとかに抱っこされてるもんだろ」
「だって私、私生児だもん」
そこで小城乃の足が止まった。
「ごめん」
「気にしてないよ。ママが二人分頑張ってるのを知ってるから、今はもう何とも思ってない」
そこで小城乃は、今?と聞く。
「小さな頃は誰だって、パパが欲しいもんだよ」
古都は再び、歩き出す。
「もうここでいいです。先輩、ありがとう。ちゃんと笑って帰れてよかった」
明るく言えたよね。
ついでに思い切り、笑って見せた。
「古都…」
うわっ、名前呼ばないで。胸がドキドキする。
動揺がバレないうちに退散しよう。
そう思って帰ろうとすると、可愛い声が聞こえてきた。
「あ~! おねえちゃんだ~」
近所の人が預かってくれていると言っていた、まりん。
「帰るって電話したから」
古都の気持ちを見透かしたように、小城乃がそう答えながら走ってきたまりんを抱き上げた。
一緒に来た女性にお礼を言って、帰ってもらう。
「おねえちゃん、遊ぼ。まりん、今日保育園で丸もらったよ…」
見せてあげるからと、手を引かれ古都はまりんに付いて行く。
曲がり角。ここで右と左に別れる。
古都は、まりんの手を引っ張った。
「ごめんね。まりんちゃんのお家、行けないの。今度、文化祭があるよ。お兄ちゃんと遊びにおいで」
「おい」
ホント? と聞くまりんに小城乃がうろたえているが、これで文化祭にまりんが来れば堂々と一緒にいられる。彼女はその瞳にいっぱい涙を浮かべたが、以前のように泣いたりはせず文化祭に行くと約束した。
「じゃ先輩。さよなら」
まりんの手を離し、古都は左へ角を曲がる。
まりんの声でバイバイと言っているのが聞こえ、歩きながら手を振った。
携帯が鳴ったのは、深夜十二時を過ぎた時だった。
以前は未登録だった小城乃の番号、今はしっかりと名前が浮かんでいる。
――もしもし、洸だけど。
そう言う小城乃の声は、少しだけ震えてる。
「どうしたんですか」
――もう、寝てた?
「まだです」
――今から行ってもいい?
先輩は何を言っているんだろう…
「駄目です。まりんちゃんがいるじゃないですか」
――分かってる。でも、どうしても今夜、古都に逢いたい。
逢いたいと言われたその瞬間、古都は鍵を握り締め部屋を飛び出していた。
「私が行きます。待っていて下さい」
――ありがとう。待ってる。
そこで電話は切れた。
でも古都は携帯を耳に当てたまま、走り続けた…。
To be continued
だって会話なんて不愉快なだけだもんね。
小城乃と櫻木は仲がいい。
学校の人気を二分する二人が並ぶと、小城乃の静と櫻木の動といった感じで一対のように言われている。
準備委員会に多くの生徒が立候補したのは、少しでも近づきたいと思うからだ。
だからこそ、古都は自分が選ばれるとは思っていなかった。
それなのに…
『悪いけど、このクラスは宮崎君と古都ちゃんね』
そう言った櫻木の言葉に、みんながうっとり頷いた。
電車を降り、ホームを歩いて改札を出る。その間も、小城乃は古都の後ろを付いてきた。
でも家まで送ってもらうわけにはいかない。
「ここで、いいです。ありがとう」
「家まで行くよ」
「でも…」
古都が戸惑っていると、小城乃が微笑んでくれた。
「まりんなら大丈夫。今は文化祭前だから近所のおばさんが見てくれてる」
行こっと手を取られた。
繋いでくれた自分の右手を、信じられないものを見るように眺めていた。
「どうした?」
「初めて先輩の手に触ったなと思って」
「抱き締めたことあったのにな」
え!?
突然の言葉に、あの時の光景が蘇った。
「そう。生まれて初めて男の人に抱き締められたんだった。先輩、いい匂いがしてたな」
古都の言葉に、変な奴と彼が笑ってた。
「何?」
「だって普通、パパとかに抱っこされてるもんだろ」
「だって私、私生児だもん」
そこで小城乃の足が止まった。
「ごめん」
「気にしてないよ。ママが二人分頑張ってるのを知ってるから、今はもう何とも思ってない」
そこで小城乃は、今?と聞く。
「小さな頃は誰だって、パパが欲しいもんだよ」
古都は再び、歩き出す。
「もうここでいいです。先輩、ありがとう。ちゃんと笑って帰れてよかった」
明るく言えたよね。
ついでに思い切り、笑って見せた。
「古都…」
うわっ、名前呼ばないで。胸がドキドキする。
動揺がバレないうちに退散しよう。
そう思って帰ろうとすると、可愛い声が聞こえてきた。
「あ~! おねえちゃんだ~」
近所の人が預かってくれていると言っていた、まりん。
「帰るって電話したから」
古都の気持ちを見透かしたように、小城乃がそう答えながら走ってきたまりんを抱き上げた。
一緒に来た女性にお礼を言って、帰ってもらう。
「おねえちゃん、遊ぼ。まりん、今日保育園で丸もらったよ…」
見せてあげるからと、手を引かれ古都はまりんに付いて行く。
曲がり角。ここで右と左に別れる。
古都は、まりんの手を引っ張った。
「ごめんね。まりんちゃんのお家、行けないの。今度、文化祭があるよ。お兄ちゃんと遊びにおいで」
「おい」
ホント? と聞くまりんに小城乃がうろたえているが、これで文化祭にまりんが来れば堂々と一緒にいられる。彼女はその瞳にいっぱい涙を浮かべたが、以前のように泣いたりはせず文化祭に行くと約束した。
「じゃ先輩。さよなら」
まりんの手を離し、古都は左へ角を曲がる。
まりんの声でバイバイと言っているのが聞こえ、歩きながら手を振った。
携帯が鳴ったのは、深夜十二時を過ぎた時だった。
以前は未登録だった小城乃の番号、今はしっかりと名前が浮かんでいる。
――もしもし、洸だけど。
そう言う小城乃の声は、少しだけ震えてる。
「どうしたんですか」
――もう、寝てた?
「まだです」
――今から行ってもいい?
先輩は何を言っているんだろう…
「駄目です。まりんちゃんがいるじゃないですか」
――分かってる。でも、どうしても今夜、古都に逢いたい。
逢いたいと言われたその瞬間、古都は鍵を握り締め部屋を飛び出していた。
「私が行きます。待っていて下さい」
――ありがとう。待ってる。
そこで電話は切れた。
でも古都は携帯を耳に当てたまま、走り続けた…。
To be continued