関わらない。
それを笑い飛ばすように、紗都は何かを言っていた。
それが何だったか。今夜、聞かされた。
『もう決まってしまったんだ。すまない』
と父は言った。
そして養子だけは勘弁してもらった、と。
見合いの席を設ける前に、決まった縁談ってことだ。
大熊って男は、何て強引なんだ。
孫に甘いんだか甘くないんだか。よく分からないな。
その時、母が電話だと呼ぶ。
珍しいな。携帯知らない奴か。
――もしもし。
櫻木が受話器を持ったのが分かったのだろう。彼が話すよりも前に声が聞こえた。
「紗都か」
――信じて。私は何も頼んでない。私は、先輩にこれ以上嫌われたくない。だから信じて。
「知ってたんだろ、結婚のこと」
――さっき、メールが届いた。
メール!?
結婚の話だぞ。
「で、何て内容だ」
紗都は、逡巡している。
でも諦めたようだ。
――櫻木篤志と縁談が決まった、と。
「それだけか」
沈黙は、肯定の証のようだった。
「明日、会おうか。どの道、決まってしまったことらしい」
――祖父に話して、なかったことにしてもらいます。
「何故。お前には都合のいい話じゃないのか」
――でも私は、私自身を見てもらいたい。女じゃなく、古都先輩のように人間として先輩から評価して欲しいんです。断じて、祖父に頼んだりしていない。
その声が、とても切なく聞こえて櫻木は言葉に詰まった。
――駄目もとで勉強して、同じ大学に受かりました。きっと神様が味方してくれたと思って莫迦みたいに喜んで。まさか、それで先輩に、いえ、先輩のお父さんに迷惑をかけてしまうなんて思わなかったんです。
「分かった。ともかく明日、会おう。講義はどうなってる」
――明日は、三限までです。
「じゃ、三時に正門で」
――はい。
「携帯データFaxしてくれ。同じ番号で繋がるから」
――分かりました。お休みなさい。
「おやすみ」
電話は切れた。
嘘を言っているようには思えなかった。
暫く待っていると、Faxが流れてきた。
そこでも紗都は謝っている。
「結婚かぁ」
部屋に戻り、データを打ち込みメールを送る。
すぐに返信がきた。
『本当にごめんなさい。明日、よろしくお願いします。紗都』
その文を読みながら、櫻木は思った。
会って何を言うつもりだったんだろう。
父は、もう決まってしまっていると言う。
初めて頭を下げられ、社員のために結婚してくれと頼まれた。
紗都の祖父って人は、何をしたいんだろう。
やっぱ紗都が可愛い、とか言うんじゃないよな。
以前、聞かされた紗都の話を思い出していた。
洸に話そ。
櫻木は気持ちを切り換えるために、携帯のメモリーを呼び出した。
呼び出し音、五回鳴ったところで洸の携帯に古都が出た。
――今、お風呂ですよ。先輩の名前が見えたから出ちゃいました。
「古都、元気にしてるか」
――はい。先輩は? 学校が違うからなかなか会えないですね…
とりとめのない話を続けていると、洸が風呂から上がってきたと言う。
――何だ。
相変わらず単刀直入な言葉だことで。
「俺、紗都と結婚するかも」
しかし流石の洸も、これには言葉を失っている――。
時間厳守。高校時代からそうだったな。
櫻木が三時ぴったりに校門へ行くと、すでに紗都は待っていた。
「よお」
足下の石ころで遊んでいた紗都に声をかける。彼女は慌てたように頭を下げた。
「ファミレス行こうか」
学校の近くにいると誰に聞かれるか分からない。電車で移動して場所を移ろうと思っていた。
紗都は黙って頷き付いてくる。
To be continued
それを笑い飛ばすように、紗都は何かを言っていた。
それが何だったか。今夜、聞かされた。
『もう決まってしまったんだ。すまない』
と父は言った。
そして養子だけは勘弁してもらった、と。
見合いの席を設ける前に、決まった縁談ってことだ。
大熊って男は、何て強引なんだ。
孫に甘いんだか甘くないんだか。よく分からないな。
その時、母が電話だと呼ぶ。
珍しいな。携帯知らない奴か。
――もしもし。
櫻木が受話器を持ったのが分かったのだろう。彼が話すよりも前に声が聞こえた。
「紗都か」
――信じて。私は何も頼んでない。私は、先輩にこれ以上嫌われたくない。だから信じて。
「知ってたんだろ、結婚のこと」
――さっき、メールが届いた。
メール!?
結婚の話だぞ。
「で、何て内容だ」
紗都は、逡巡している。
でも諦めたようだ。
――櫻木篤志と縁談が決まった、と。
「それだけか」
沈黙は、肯定の証のようだった。
「明日、会おうか。どの道、決まってしまったことらしい」
――祖父に話して、なかったことにしてもらいます。
「何故。お前には都合のいい話じゃないのか」
――でも私は、私自身を見てもらいたい。女じゃなく、古都先輩のように人間として先輩から評価して欲しいんです。断じて、祖父に頼んだりしていない。
その声が、とても切なく聞こえて櫻木は言葉に詰まった。
――駄目もとで勉強して、同じ大学に受かりました。きっと神様が味方してくれたと思って莫迦みたいに喜んで。まさか、それで先輩に、いえ、先輩のお父さんに迷惑をかけてしまうなんて思わなかったんです。
「分かった。ともかく明日、会おう。講義はどうなってる」
――明日は、三限までです。
「じゃ、三時に正門で」
――はい。
「携帯データFaxしてくれ。同じ番号で繋がるから」
――分かりました。お休みなさい。
「おやすみ」
電話は切れた。
嘘を言っているようには思えなかった。
暫く待っていると、Faxが流れてきた。
そこでも紗都は謝っている。
「結婚かぁ」
部屋に戻り、データを打ち込みメールを送る。
すぐに返信がきた。
『本当にごめんなさい。明日、よろしくお願いします。紗都』
その文を読みながら、櫻木は思った。
会って何を言うつもりだったんだろう。
父は、もう決まってしまっていると言う。
初めて頭を下げられ、社員のために結婚してくれと頼まれた。
紗都の祖父って人は、何をしたいんだろう。
やっぱ紗都が可愛い、とか言うんじゃないよな。
以前、聞かされた紗都の話を思い出していた。
洸に話そ。
櫻木は気持ちを切り換えるために、携帯のメモリーを呼び出した。
呼び出し音、五回鳴ったところで洸の携帯に古都が出た。
――今、お風呂ですよ。先輩の名前が見えたから出ちゃいました。
「古都、元気にしてるか」
――はい。先輩は? 学校が違うからなかなか会えないですね…
とりとめのない話を続けていると、洸が風呂から上がってきたと言う。
――何だ。
相変わらず単刀直入な言葉だことで。
「俺、紗都と結婚するかも」
しかし流石の洸も、これには言葉を失っている――。
時間厳守。高校時代からそうだったな。
櫻木が三時ぴったりに校門へ行くと、すでに紗都は待っていた。
「よお」
足下の石ころで遊んでいた紗都に声をかける。彼女は慌てたように頭を下げた。
「ファミレス行こうか」
学校の近くにいると誰に聞かれるか分からない。電車で移動して場所を移ろうと思っていた。
紗都は黙って頷き付いてくる。
To be continued