『君戀しやと、呟けど。。。』

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『愛という名の我が儘を君に託す』vol.3

2008-10-20 11:57:13 | 『いつまでも我が儘に君を想う』シリーズ
 誰よりも早く反応したのは、まりんだった。
 抱かれていた小城乃の腕を滑りおり、まりんは櫻木の許へやってきた。
 そして、彼の耳元に囁くのだ。
「おねえちゃんのこと、好きっていったでしょ」
 と…。続けて、こうも言った。
「あっつくんと、おねえちゃんは恋人?」
 とも。
 あっつくん…。たぶん、まりんは櫻木を知っているのだと思った。そしてあっつくんが呼び名だと。
 そして、まりんの恋人発言を否定しなければ、そう思うのに、誰も言葉が出てこなかった。
 この無邪気な天使に、どう説明すればいい。
 古都は、にっこり笑って、
「どうだろね」
 と誤魔化した。
 静寂は長くは訪れない。再び携帯が鳴り出し櫻木は仕事に戻った。

「ごめんね。おねえちゃん、ここでお手伝いしてるの。おにいちゃんと回ってね」
 扉から動けずにいた小城乃の許へ、まりんは駆けて行った。
「バイバイ、あっつくんと仲よしでね~」
 その屈託のない笑顔に、うん、と答えるしかなかった。

 二人を見送ると、櫻木が声をかけてきた。
「タイミング、最悪だったな。ごめん」
「いいえ。その言葉を聞くことがないと思ってしまった自分のミスです。先輩の気持ちに気付いてたら、手伝ったりなんかしませんでした」
 本気だって言っといたのに、と櫻木がぼやいている。
 でも、結構軽くいなしてるよね。
「先輩、ありがとう。人に好かれるのは、やっぱり嬉しい」
 そう言ったら、櫻木が真ん丸な瞳で驚いている。
「反則だろ、それ」
 そこで再び電話が鳴った。
 でも今度は櫻木の携帯ではなく、古都の携帯の方だった。
――やっぱり一緒に回ろう。迎えに行く。
 それだけ言って電話は切れた。

「洸?」
 古都は黙って頷いた。
「でも今日は手伝いますから」
 言いながら携帯のメール画面を開く。
『無理です。櫻木先輩だけでは午後はもっと大変になる。私は一度投げ出した人間だから、彼を助けたい』
 そこまで打って、自分で驚いた。
 助ける? そんな大胆な…
 そう思っていたら送信ボタンを押す前に、小城乃が扉を開け放した。
「行ってもいいよ。たぶん、もう大丈夫だと思うから」
 そう言う櫻木に、小城乃はそうかと頷いた。
「嘘です。午後、体育館での催しが始まれば、もっと混乱します。私は…」
 そこまで言ったら、古都は櫻木に腕を取られた。
「連れてけ。でないと、またキスするぞ」

 先輩…
 今度は小城乃に腕を引っ張られ、古都は生徒会室を出ることになった。
「俺がやる。まりんを頼む」
 まりんは不思議そうな顔をして、三人を見ていた。
 彼女は今の自分たちを、どう見たのだろう。
 よく考えたら、十六歳差のカップルって大人になったらいるよね。
 もしかしたら、もし血の繋がりがなかったら、まりんは将来、小城乃と結ばれるかもしれないと、ふとそんなことを思った。

 こんな小さな子を前に何てことを想像するんだと、少し自己嫌悪に陥る古都だった。

               To be continued
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