誰よりも早く反応したのは、まりんだった。
抱かれていた小城乃の腕を滑りおり、まりんは櫻木の許へやってきた。
そして、彼の耳元に囁くのだ。
「おねえちゃんのこと、好きっていったでしょ」
と…。続けて、こうも言った。
「あっつくんと、おねえちゃんは恋人?」
とも。
あっつくん…。たぶん、まりんは櫻木を知っているのだと思った。そしてあっつくんが呼び名だと。
そして、まりんの恋人発言を否定しなければ、そう思うのに、誰も言葉が出てこなかった。
この無邪気な天使に、どう説明すればいい。
古都は、にっこり笑って、
「どうだろね」
と誤魔化した。
静寂は長くは訪れない。再び携帯が鳴り出し櫻木は仕事に戻った。
「ごめんね。おねえちゃん、ここでお手伝いしてるの。おにいちゃんと回ってね」
扉から動けずにいた小城乃の許へ、まりんは駆けて行った。
「バイバイ、あっつくんと仲よしでね~」
その屈託のない笑顔に、うん、と答えるしかなかった。
二人を見送ると、櫻木が声をかけてきた。
「タイミング、最悪だったな。ごめん」
「いいえ。その言葉を聞くことがないと思ってしまった自分のミスです。先輩の気持ちに気付いてたら、手伝ったりなんかしませんでした」
本気だって言っといたのに、と櫻木がぼやいている。
でも、結構軽くいなしてるよね。
「先輩、ありがとう。人に好かれるのは、やっぱり嬉しい」
そう言ったら、櫻木が真ん丸な瞳で驚いている。
「反則だろ、それ」
そこで再び電話が鳴った。
でも今度は櫻木の携帯ではなく、古都の携帯の方だった。
――やっぱり一緒に回ろう。迎えに行く。
それだけ言って電話は切れた。
「洸?」
古都は黙って頷いた。
「でも今日は手伝いますから」
言いながら携帯のメール画面を開く。
『無理です。櫻木先輩だけでは午後はもっと大変になる。私は一度投げ出した人間だから、彼を助けたい』
そこまで打って、自分で驚いた。
助ける? そんな大胆な…
そう思っていたら送信ボタンを押す前に、小城乃が扉を開け放した。
「行ってもいいよ。たぶん、もう大丈夫だと思うから」
そう言う櫻木に、小城乃はそうかと頷いた。
「嘘です。午後、体育館での催しが始まれば、もっと混乱します。私は…」
そこまで言ったら、古都は櫻木に腕を取られた。
「連れてけ。でないと、またキスするぞ」
先輩…
今度は小城乃に腕を引っ張られ、古都は生徒会室を出ることになった。
「俺がやる。まりんを頼む」
まりんは不思議そうな顔をして、三人を見ていた。
彼女は今の自分たちを、どう見たのだろう。
よく考えたら、十六歳差のカップルって大人になったらいるよね。
もしかしたら、もし血の繋がりがなかったら、まりんは将来、小城乃と結ばれるかもしれないと、ふとそんなことを思った。
こんな小さな子を前に何てことを想像するんだと、少し自己嫌悪に陥る古都だった。
To be continued
抱かれていた小城乃の腕を滑りおり、まりんは櫻木の許へやってきた。
そして、彼の耳元に囁くのだ。
「おねえちゃんのこと、好きっていったでしょ」
と…。続けて、こうも言った。
「あっつくんと、おねえちゃんは恋人?」
とも。
あっつくん…。たぶん、まりんは櫻木を知っているのだと思った。そしてあっつくんが呼び名だと。
そして、まりんの恋人発言を否定しなければ、そう思うのに、誰も言葉が出てこなかった。
この無邪気な天使に、どう説明すればいい。
古都は、にっこり笑って、
「どうだろね」
と誤魔化した。
静寂は長くは訪れない。再び携帯が鳴り出し櫻木は仕事に戻った。
「ごめんね。おねえちゃん、ここでお手伝いしてるの。おにいちゃんと回ってね」
扉から動けずにいた小城乃の許へ、まりんは駆けて行った。
「バイバイ、あっつくんと仲よしでね~」
その屈託のない笑顔に、うん、と答えるしかなかった。
二人を見送ると、櫻木が声をかけてきた。
「タイミング、最悪だったな。ごめん」
「いいえ。その言葉を聞くことがないと思ってしまった自分のミスです。先輩の気持ちに気付いてたら、手伝ったりなんかしませんでした」
本気だって言っといたのに、と櫻木がぼやいている。
でも、結構軽くいなしてるよね。
「先輩、ありがとう。人に好かれるのは、やっぱり嬉しい」
そう言ったら、櫻木が真ん丸な瞳で驚いている。
「反則だろ、それ」
そこで再び電話が鳴った。
でも今度は櫻木の携帯ではなく、古都の携帯の方だった。
――やっぱり一緒に回ろう。迎えに行く。
それだけ言って電話は切れた。
「洸?」
古都は黙って頷いた。
「でも今日は手伝いますから」
言いながら携帯のメール画面を開く。
『無理です。櫻木先輩だけでは午後はもっと大変になる。私は一度投げ出した人間だから、彼を助けたい』
そこまで打って、自分で驚いた。
助ける? そんな大胆な…
そう思っていたら送信ボタンを押す前に、小城乃が扉を開け放した。
「行ってもいいよ。たぶん、もう大丈夫だと思うから」
そう言う櫻木に、小城乃はそうかと頷いた。
「嘘です。午後、体育館での催しが始まれば、もっと混乱します。私は…」
そこまで言ったら、古都は櫻木に腕を取られた。
「連れてけ。でないと、またキスするぞ」
先輩…
今度は小城乃に腕を引っ張られ、古都は生徒会室を出ることになった。
「俺がやる。まりんを頼む」
まりんは不思議そうな顔をして、三人を見ていた。
彼女は今の自分たちを、どう見たのだろう。
よく考えたら、十六歳差のカップルって大人になったらいるよね。
もしかしたら、もし血の繋がりがなかったら、まりんは将来、小城乃と結ばれるかもしれないと、ふとそんなことを思った。
こんな小さな子を前に何てことを想像するんだと、少し自己嫌悪に陥る古都だった。
To be continued