以前の記事ですが、スマホで読みやすく編集しました。
2021-04-25
新刊!
密教秘伝
老 子
全八十一章
《道家四子と中国仏教》
張明澄記念館 発行
売価 16,000円
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序言
本書は、日本員林学会講座における、故張明澄先生の講義に基づき、『老子』全八十一章の日本語訳と「道家四子」の概要および「中国仏教」への影響について記したものです。
従来、『老子』の解釈について、妥当なものがほとんどなく、さらに伝わっているテキストも中国と日本で異なる、などの問題がありました。
また、日本では、「道家」と「道教」を同一視する風潮がありますが、これは非常に間違った考え方であり、「道家」と「道教」は無関係では無いものの、『老子』の「無為自然」に対して、「道教」の「符籙」「占験」「養生」などは、いずれも「有為」つまり、目的のためにわざわざ行うことであり、『老子』の言う「無為」とは真っ向から対立する方法です。ここをよく理解しておかないと、「無為」もできなければ、「道教」の方術をきちんと使うこともできません。
右のような理由から、本書を著わす意義は大きなものですが、張先生の講義から、既に二十年を経ており、筆者として、これまでの怠慢と力不足をお詫びする次第です。
本書を読むことは、「道家思想」のみならず、「中国禅」「中国密教」、「道教」への入り口ともなるものであり、何卒ご愛読の程お願い申し上げます。
二〇二一年 辛丑
日本員林学会 掛川 東海金
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中国禅への影響
「中国禅」に於いても、「道家思想」の影響は顕著に見られます。
「禅」が中国に入ったのは、西暦四七〇年代ごろ、初祖達磨(だるま)がインドから中国に渡来し、「禅」を伝えたとされています。
それ以前の南朝時代、宋の竺(じく)道生(どうせい)(355―434)という人が、「頓悟(とん ご )成仏(じょうぶつ)説」を唱えており、六祖慧能(えのう)(638~713)を祖とする南宗禅に引き継がれたと考えることができます。
達磨が中国に禅を伝えた、というのは、六祖慧能による創作だという説(胡適など)もありますが、竺道生は、それ以前の人であり、達磨開祖説の真偽とは、直接関係がありません。
竺道生について、「大乗仏教哲学を老荘思想の述語・概念によって表現することに成功した。」(世界大百科事典)などと評されるように、道家思想の影響が明らかな仏教家と言え、「道生」の名も、『老子』から取られた可能性があります。
つまり、「中国禅」は、達磨(だるま)の「印度禅」から発達したという以上に、「道家思想」から発展したという可能性が多々あるものです。
「南宗禅」の「公案」のなかには、「道家思想」の影響が強いと見られるものがあります。例えば、「難解」なことで有名な「南泉斬描」などがその一つです。
無門関 第十四則
南泉和尚は、寺の東西の弟子たちが、猫の子をめぐって争っているのを見かけ、こんな提案をしました。皆がこの猫について何か言うことができれば命を救うが、言う事が出来なければ斬ってしまう。しかし皆はこれに答えることができず、とうとう南泉は猫を斬ってしまいました。夜になって一番弟子の趙州が外出から帰ってきます。南泉が今日の出来事を趙州に話すと、趙州は靴を脱ぎ、頭の上に載せて出て行ってしまいました。南泉は言います、もしお前がいれば猫の子を救えたのに、と。
(原文)南泉斬描 南泉和尚。因東西堂爭猫兒。泉乃提起云。大衆道得即救。道不得即斬却也。衆無對。泉遂斬之。晚趙州外歸。泉舉似州。州乃脫履。安頭上而出。泉云。子若在即救得猫兒
これは、とても解りやすい「公案」なのですが、「道家四子」を読んでいない人には、さっぱり解らないようです。
解らない人の思考手順は、第一に、弟子たちは猫の何を争っていたか、などと、原文に全く書かれていない事を問題にして、猫の「仏性」について論争していた、などと論じますが、原文に無いことをいくら推理してもどうにもなりません。原文を素直に読めば、東西どちらがペットにするかを争ったとしか思えませんが、それでは、仏教論争にならない、という訳でしょう。本当のところ、門人の多い禅寺では、食料を大量に蓄えており、鼠対策が重要で、猫は非常に貴重だったと言います。
次に問題にされるのは、南泉はどうして猫を斬ったか、ですが、「自性」がどうとか、「二元論」がどうとか、「根本智」がどうとか、「一刀両断」だからどうとか、中でもひどいのが、「一刀一断」、これは、道元が言ったのだそうです。
そんなことですから、最後に趙州が、「靴を頭に載せて出て行った」ことの意味など理解できるわけがありません。
南泉が猫を斬った理由、というか、何故そうなってしまったか、と言えば、弟子たちが、猫の子を争っている状況を利用して、悟らせようとしたことは間違いないはずです。
南宗禅は「頓悟」の禅ですから、何かの機会を利用して、例えば鼻を思い切りつねる、などの荒っぽい方法を使ってでも、弟子を悟らせようとします。
しかし、猫を殺す、と脅すだけならまだしも、弟子たちが、おバカで何も答えられなかったからと言って、どうして猫が斬られなくてはならないのでしょうか。
禅宗二祖の慧可(えか)という人は、初祖達磨に弟子入りを許して貰うために、自分の左腕を切り落として決意を示し、ようやく入門を許されたと言いますが、腕を斬っただけで、「頓悟」したわけではないようです。況して猫の子を斬ったからといって、弟子が悟ったとは言っていませんから、ただ貴重な猫を、無駄にしただけかも知れません。第一、仏教では「殺生」を禁じており、慧可のように、自分の腕でも斬ったほうが、余程仏法に適っているものです。
張明澄師は、南泉和尚について、あっさり「認知症」だった、としたほうがずっと解りやすい、と述べておられましたが、確かにそうかもしれません。
それでは、趙州の行為はどう説明できるのでしょうか。
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