「推し、燃ゆ」とは、「応援しているアイドルがネット上で炎上」という意味だ。
この題名から、何かコミカルな学園小説?ぐらいな印象を持っていたが、2021年1月、芥川賞を受賞したと聞き、読んでみることにした。
15才の高校生「あかり」は、アイドルの「真幸」に入れ上げている。CDが出れば100枚以上買い込んで握手券を手に入れ、彼が出た番組は皆録画し、発言を書き取りネットに上げる。バイト代は全て彼関係に消えるといった具合だが、その彼が女性を殴ったとしてネットで炎上した。
それでもあかりの入れ上げは変わらない。「真幸はあたしの背骨だ」という。自分がこの世に繋がるただ一本の糸「推し」。やがてあかりはガリガリに痩せ、学業も不振で留年になったのを機に退学する。そのうち真幸は芸能界引退を発表しその左手の薬指には指輪があった。
この小説では、状況の説明が全くない。何故真幸が女を殴ったのか、その女とは誰なのか、あかりの「病気」とは何なのか、天候や季節も省略され、ただただあたし視点で推しの日常が綴られていく。
読後の第一感は、これは紛れもなく文学だ、だった。
ボオっとして呆れると共に、作者の鋭い感性と想像力に戸惑った。
芥川は、「文芸的な、あまりに文芸的な」で小説の物語性に重きを置かない立場を表明した。小説にストーリーを求めないとしたら何があるのか、この小説はその答えの一つを明快に出している。
昔は作家は50過ぎで漸く駆け出し、と言われたが、作者は21才の大学生。すごい人が出てきたものだ。