ネタバレなしの苦渋の選択
ーベテランお笑い芸人が舞台に現れた時のよう…。
この絵本の、最初の頁を開いた時の印象です。
―何か、ちょっとズレてて、何か、笑える。何が面白いのか、よくわかんないし、言葉にできない。でも、おかしい。
こういう絵本は、ストーリーのネタバレ厳禁ですよね!!
というわけで。あらすじにふれず、ネタバレなしでご紹介しますと…(汗&苦)
この絵本、そこはかとなく、ユダヤ的香りがただよっています。
まずは、主人公の出で立ち。ボタン付きの黒のスーツに、黒い髪とヒゲ、帽子。「ん?ユダヤ教徒のパロディ?」というのが第一印象でした。もっとも、1940年初刊とのことですから、既に一世を風靡していたチャップリン風、なのかもしれません。
他にも、思わせぶりなところがあります。塔のある建物がいくつか描かれており、遠目にはごくふつうの教会に見えます。しかしよく見ると、当然あるべき十字架が、どこにも、一つも見当たりません。これは、ユダヤ的と言っていいんじゃない?
慌ててネットで調べてみますと。作者は、アメリカで前衛芸術家として活躍したユダヤ系の女性でした。造形の分野でも評価が高い、とのこと。なるほど、あえて平面的な背景の描き方には、独特のセンスが滲み出ています。
優れたコメディアンは、大きな悲哀を抱えているもの。
この優れた喜劇の舞台裏が、ちょっと気になるところです。
プロフィールには「ロシアで生まれ、ロシア革命でユダヤ人迫害が激化したため満州へ。そこからさらにアメリカへ」とありました(註)。
しかし。舞台裏も、ユダヤ的香りも、読者の子どもたちは気にしません!
大事なのは、目の前の舞台が面白いかどうか? それだけです。
はい、これは、面白いです。おススメです!
以上(そして以下)、ネタバレしないための、苦渋の選択でした~~(汗)。
(註)以下、主にWikipediaと関連サイトから、作者エズフィール・スロボドキーナ(1908-2002)のプロフィールをまとめました。
1908年ロシア生まれ、ユダヤ系女性。ロシア革命下で激化したユダヤ人迫害から逃れるため、1917年満州国へ移住。美術と建築を学んだのち、1928年アメリカへ渡り、ニューヨークで抽象絵画のパイオニア的存在となった。1938年、巨匠マーガレット・ワイズブラウンに出会い、影響を受けたことから、ワイズブラウンに多くの挿絵を提供したほか、自作の児童書24冊を残した。本書「おさるとぼうし」が彼女の代表作となったが、多くの絵画・造形作品への評価も高い。
私生活では、アメリカに移住後、結婚、離婚。再婚した「最愛の夫」と三年後に死別。「(その夫の死から)立ち直るのに六年かかった」という。その後、創作を続けながらも、母親の世話をするため、妹と同居するためなど、アメリカ国内でも一ヶ所に長く定住することはなかった様子。2002年没。