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絵本の楽屋   by 夏野いばら

「あんぱんまん」 やなせたかし:作 フレーベル館

荒唐無稽の、愛を食べよう ―ひらがなの「あんぱんまん」

大人気アニメ「それゆけ!アンパンマン」の基になったのが、この絵本版「あんぱんまん」。しかし、両者の印象はずいぶんと違う。

絵本の一頁目は、荒涼とした砂漠。明るくにぎやかなアニメのアンパンマン・ワールドからは想像もつかない、殺伐とした景色がひろがる。そこに、いきなり「あんぱんまん」が天から下ってくる。

え? 唐突すぎません?
彼が、今、ここに現れた理由も、いきさつも、説明なし?

実は、この「あんぱんまん」のオープニング。2000年前、ユダヤの人々の前に突如として現れた救世主イエス・キリストの登場の仕方と、とてもよく似ています。イエスは、弱りきった民の前に現れて奇跡を行い、たくさんのパンを配られました。そして、こう自己紹介されました。

神のパンは、天から降って来て、世にいのちを与えるものである。…
私がいのちのパンです。              ヨハネによる福音書6章33、35節

わたしは、天から下って来た生けるパンです。 
だれでもこのパンを食べるなら、永遠に生きます。           同51節

は? 何のことだか…? よく、わかりませんけど…?

けれども、もしかすると、本来「愛」とは、こんなふうに荒唐無稽なものなのかもしれません。飢えた私の心と頭では、そもそも理解不能。

けれど、一口かじれば、わかるのです。「あ!おいしい。これで、私は、生きていける…」
 
と、いうわけで。私には、この最初期のひらがなの「あんぱんまん」に、キリストの姿が重なって見えて仕方ありません。

そして、絵本の最後の頁には、作者の「あと書き」があります。
後に日本一の愛されキャラ「アンパンマン」を生み出すことになった、その原点の思いにも胸を打たれます。

というわけで、ひらがなの「あんぱんまん」。
初めから終わりまで、美味しいです。どうぞ召し上がれ!

今 飢えている人たちは幸いです。
あなたがたは満ち足りるようになるからです。      ルカによる福音書6章21節


 
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