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絵本の楽屋   by 夏野いばら

「エミリー」    マイケル・ビダード:文 バーバラ・クーニ―:絵  掛川恭子:訳 ほるぷ出版

違和感ある隣人を前に

あぁ、また…
ハマスによるイスラエルへの大規模攻撃が始まって、一週間。

あっという間に、底なしの、泥沼の戦場と化したパレスチナ地方。
いったい、この世界は、どうなってしまうのだろう…

今回も私は、ロシアのウクライナ侵攻の時と同様、
日本が「敵国を攻撃できる国」に方向転換した時と同様、
その時紹介するつもりだった絵本を、一旦わきに置いて、
改めて、自分の本棚の前に立ちました。

それは、「もう、ダメだ…」という無力感に負けまいとする、
私の悪あがきにすぎないのかもしれません。

けれども、久しぶりにこの絵本を手に取って開いて見ると、
何とも言えない静かな世界を思い出し、引き込まれました。

物語は、お向かいの家に住む‘謎の女性’との出会いを、
少女が回想する形で進みます。
‘謎の女性’のモデルは、隠遁の詩人エミリー・ディキンソンだそうです。

浮世離れしたお話だね、と言われそうですが(笑)、
「違和感のある隣人」「理解しがたい弱者」へと
静かに目を向けることを、促してくれる絵本です。

それは、とても静かに。静止画のように。
語り口は、詩人の言葉をすくい上げ、優しく編みこんでいくようです。

最後に描かれている小さな詩の奥に、
「主の祈り=御国がきますように」や、
「イエスの教え=隣人を愛せ」が、ほの見えてきます。

敵を憎み、攻撃することは、たやすい。けれど、
隣人を愛するとは、こんなにも静かに、繊細に、時間をかけてなされること…。
―そう、教えてくれている気がします。
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