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絵本の楽屋   by 夏野いばら

「マクスとモーリツのいたずら」    ヴィルヘルム・ブッシュ:作 上田 真而子:訳 岩波書店

1865年の笑撃絵本

この絵本を手に取った時。
てっきり、20世紀後半のヨーロッパの絵本だと思った。
冒頭から、わくわくしながら、読み進んた。

しかし… 途中で「??」となった。
確かに、面白くて笑えるんだけど…

「いたずら」にしては、度がすぎる。
二人へのお仕置きも、残虐すぎる。
これ、第二次世界大戦後に作られた、いわゆる「良い子ための絵本」ではなさそう…?

よくよく奥付きに目をこらすと(最近、老眼ひどくて…)、
何と、原作は1865年作!!
以下、慌ててネットで調べました(すみません、付け焼刃です)

作者ヴィルヘル・ブッシュ(1832-1908)は、この「いたずら」作品シリーズで大人気を博し、後に「コミック・ストリップの祖」と評価されることになったという‘偉い人’です。本国ドイツでは超有名人で、彼の名を冠した賞があるほど(「芥川賞」みたいなやつね)。

確かに、この絵本の各場面に吹き出しをつけて並べれば、そのままギャグ・マンガとして成立しそう。言葉遊びも、巧みです。

ヨーロッパで旋風を巻き起こしたこの本は、1887年(明治20年)に日本でも翻訳・出版されました。何と、テキストはローマ字表記です**。そして、これが「日本で初めての翻訳絵本となった」というのが、定説なんだとか。

19世紀半ばの、ドイツ。戦争や紛争はあっても、空爆も化学兵器も自爆テロもなかった時代です。いわば牧歌的な時代だったからこそ、このブラックな残虐さとバカバカしいドタバタ喜劇を、「ありえへん~!」と、気持ちよく笑い飛ばせたんじゃないかな…

残虐きわまりない戦争の、加害と被害のリアル映像ばかり見せつけられている現代の私たちには、ちょっと、ぎょっとさせられる絵本なのですが…

学ぶところたっぷりの、笑撃的古典的絵本。
…というか、立派な古典。
図書館でチェックしてみてください~


*明治20年。この年、東京市街に初めて営業電燈がついた。横浜に国内で初めて上水道が通った。
**おそらく、横書きの「ローマ字表記」がポイントです。当時、子どもにもローマ字に親しんでもらおうと、その読み書きを積極的に推進する運動があったそうです。というのも、この初版本をネット画像で見る限り、絵は白黒です(そりゃ、そうよね)。そして文体は、流暢な文語体で気高いものの、そもそも、このお話し自体がバカバカしすぎるのです。いくら西洋からの珍しくも有難い輸入作とは言え、まだ印刷・出版が特別で、本が贅沢品であったことを考えれば、「ローマ字習得」という特別な教育的効果を付加せざるを得なかったんじゃないか…。なんて、余計な想像をしております。(あるいは順序が逆で、ローマ字習得のための教材として、本作が選ばれたのかもしれません)
 ちなみに原文の「教会」が、「お寺」と訳されています。ドイツにお寺はなかったはずですが、日本にも「教会」は見当たらなかったんでしょうね(笑)。翻訳の苦労がしのばれます。
 

 

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