アートセラピストのイギリス便り

アートセラピスト間美栄子のシュタイナー的イギリス生活のあれこれを綴った友人知人宛のメール通信です。

第五十九話 イマジネーションは蝶のようにはばたく

2010-02-15 08:09:07 | 映画

               (ロックと窓)

*わたしのアートセラピーセッションでは、「ウェットオンウェット」といって、ぬれた紙の上に水彩絵の具で絵を描いていくのですが、ある患者さんの絵は筆の動かし方、強さなどが独特で迫力があり、面白い色が現れ、重なり、輝き、いつもわたしは「マークロスコー!」とうっとりしています。アートセラピストはまったくありがたい職業です。

第五十九話 イマジネーションは蝶のようにはばたく


あるときドキュメンタリー映画の構想で、こんなアイデアを考えていました。自分の頭にカメラをつけて一週間を過ごしてみるというのはどうかなと。私の目で見る世界は果たして美しいでしょうか。私の出会い、言葉を交わす人たちは美しいでしょうか。

ジャンドミニクはファッション誌の編集長。子供三人、妻とは別れ恋人と暮らし、充実した日々を送っている40代の男性。ある日彼は新しいスポーツカーの中で、脳溢血で倒れ、Locked in Syndrome で全身まひとなってしまうのです。フランス映画「潜水服は蝶の夢を見る」はまさに、このジャンドミニクの目から見た外の世界を描いたカメラワークです。

ジャンドミニクの、ほかの人には聞こえないつぶやきが流れ、真面目すぎる美人のスピーチセラピストがアップで写り(うちの病院も美人のセラピストぞろいです)瞬きで文字盤を示していく過程、が少しユーモラスに描かれています。

やがてジャンドミニクは、自分のうちの二つのものが健全であることに気づき「自分を哀れむのをやめる」ことにします。それは、想像力と記憶でした。

彼の世界は美しいもので満たされていることが映し出されます。海風ではためく繊細なスカート。手遊び歌を歌う子供たち。老いた愛情深い父親。

全身まひでまるで古い分厚い潜水服を着ているかのような体から、蝶のように自由に飛び立つこころ。蝶である彼自身が、一字一字綴ったお話は、何気ない日常のひとこまが美しくかけがえの無いものであることを教えてくれます。

(間美栄子 2010年 2月15日 http://blog.goo.ne.jp/nefnefnef)


PS. 原作本「潜水服は蝶の夢を見る」も日本語訳ででています。



最新の画像もっと見る

post a comment