桜ちゃんのお家の日曜日は、お父さんのお掃除から始まります。
暑い時も、寒い時も家中の窓を全部開けて、長いほうきでザッザッザッーと掃き出します。
お布団に入っていたいのだけど、それで目が覚めてしまいます。
それでもぐずぐずしていると、お父さんが
「桜~、起きろー」
と叫びます。
もっと起き上がれない日は、お父さんが大きな手で背中をゴシゴシとさすってきます。
やっと起きられました。
顔を洗って、朝ご飯を食べたら、山に行きます。
春は山菜を、夏の終わりは田んぼに行ってイナゴを、秋はきのこを採りに行くのです。
山に着くとお父さんはどんどん登っていきます。
桜ちゃんはお父さんを見失わないように頑張って登るのですが
お父さんは構わずどんどんどんどん登って行くので、あっと言う間にお父さんの背中は見えなくなります。
ちょっと心細くなる頃に上の方から
「桜~、こっちだぞー」
と声が響きます。
「お父さーん!どこー?」
「もっと右の方、そこに大きな切り株があるだろう。そっちの方に進んでこいよー」
姿は見えないけど、お父さんはちゃんと見てくれていて声をかけてくれます。
そのうちに追いつくと、すでに袋の中は美味しそうな山菜で一杯です。
桜ちゃんも一生懸命探します。
山菜は高い枝の先にあるものと、地面から生えてるものがあります。
高い枝の時はお父さんが木の杖の先で引っ張って桜ちゃんの目の前に枝先を向けてくれます。
そこに茶色い皮の先から出ている芽を採るのです。
木の枝にはトゲが生えています。
トゲに刺さらないように、芽を折らないようにして採っていきます。
地面に生えているものは帰りがけに採ります。
出来るだけ地面に近い所をぱきんと折ります。
枝にはえている山菜は天ぷらに、地面に近いものはおひたしになります。
たまに綺麗なオレンジ色の山つつじも天ぷらになります。
イナゴの時は、お日様が昇るとイナゴが起きて飛んでしまうので
暗いうちに出かけます。
稲穂の先にイナゴは止まって寝ています。
寝ているイナゴを手の中にそっと入れ、腰にぶら下げている袋に入れて口をぎゅっと持ちます。
そのうち、お日様がだんだん昇ってきて明るくなってきます。
そうすると、イナゴが飛び始めました。
袋の中で眠っていたイナゴも飛び起きてきます。
あまりの勢いに袋が破れそうになります。
そうなったら今日はおしまい。
お家に帰るとお母さんがお鍋一杯にお湯を沸かして待っています。
そこにイナゴを入れてしまいます。
桜ちゃんは、イナゴを捕りにいくのは好きだけど、茹でるのや食べるのは苦手です。
大人はどうしてそんな事が出来るのでしょう?
きのこの時は前の日かその前の日に雨が降ったら豊作です。
きのこにはたくさんの種類があります。
毒のあるきのこもたくさんあります。
山に入るとまずお父さんが毒のきのこの見分け方を教えて下さいます。
あとは好きに探して採るだけです。
松葉がたくさん落ちている中から本当に少しだけ頭が出ているものを探すのがコツです。
目で見える伸びたきのこは大体が毒のきのこだからです。
松葉がもっこりとなっているところのまわりを、指先でほじります。
強く掘るときのこが割れてしまうのでゆっくり優しく周りの松葉と土をよけていきます。
そうすると、きのこが見えてきました。
まだ傘の開いていないきのこです。
途中で折らないようにして、きのこについた松葉や土を取って籠に入れていきます。
山を下りて少し平らな所に新聞紙を広げ、採ったきのこを並べます。
お父さんが食べられるものと毒のきのこを分けていきます。
今日は桜ちゃんが採ったきのこの中にむらさきしめじが入っていました。
お父さんが好きなきのこです。
「おぅ!今回はむらさきしめじが採れたかぁ」
と褒めてもらえたので桜ちゃんはとても嬉しくなりました。
本当は桜ちゃんはきのこが嫌いで食べられないのだけどね。
帰りは歌を歌いながら帰ります。
町の人達が
「今日は何が採れただ?桜ちゃんのお父さんは山の先生だからいいわねぇ」
と声をかけてくれます。
その時の誇らしい気持ちと言ったら!
そのあとは、一緒に銭湯に行って、お夕飯です。
笑点とサザエさんが始まってしまう前にお風呂屋さんに行かなければなりません。
お夕飯を食べて眠ったら、次の日の朝早くまたお父さんと一週間お別れなのです。
時間がありません。
今夜は喧嘩になりませんよう、と願いながらご飯を食べます。
お父さんが「ゆた~かなるザバイカ~ルの~」と歌い始めたら今日は大丈夫!
あぁよかった!
今週もいい日曜日でした。
宿題をやってない事は葵にいににも楓ねえねにも内緒にして、おやすみなさい。