ねをぱぁく

公園みたいにふらっと立ち寄って、ほっと一息して欲しい、そんな演劇ユニットです。

お話その3「桜ちゃんちの日曜日」

2013-10-18 20:58:48 | お話

桜ちゃんのお家の日曜日は、お父さんのお掃除から始まります。

暑い時も、寒い時も家中の窓を全部開けて、長いほうきでザッザッザッーと掃き出します。

お布団に入っていたいのだけど、それで目が覚めてしまいます。

それでもぐずぐずしていると、お父さんが

「桜~、起きろー」

と叫びます。

もっと起き上がれない日は、お父さんが大きな手で背中をゴシゴシとさすってきます。

やっと起きられました。

顔を洗って、朝ご飯を食べたら、山に行きます。

春は山菜を、夏の終わりは田んぼに行ってイナゴを、秋はきのこを採りに行くのです。

山に着くとお父さんはどんどん登っていきます。

桜ちゃんはお父さんを見失わないように頑張って登るのですが

お父さんは構わずどんどんどんどん登って行くので、あっと言う間にお父さんの背中は見えなくなります。

ちょっと心細くなる頃に上の方から

「桜~、こっちだぞー」

と声が響きます。

「お父さーん!どこー?」

「もっと右の方、そこに大きな切り株があるだろう。そっちの方に進んでこいよー」

姿は見えないけど、お父さんはちゃんと見てくれていて声をかけてくれます。

そのうちに追いつくと、すでに袋の中は美味しそうな山菜で一杯です。

桜ちゃんも一生懸命探します。

山菜は高い枝の先にあるものと、地面から生えてるものがあります。

高い枝の時はお父さんが木の杖の先で引っ張って桜ちゃんの目の前に枝先を向けてくれます。

そこに茶色い皮の先から出ている芽を採るのです。

木の枝にはトゲが生えています。

トゲに刺さらないように、芽を折らないようにして採っていきます。

地面に生えているものは帰りがけに採ります。

出来るだけ地面に近い所をぱきんと折ります。

枝にはえている山菜は天ぷらに、地面に近いものはおひたしになります。

たまに綺麗なオレンジ色の山つつじも天ぷらになります。

イナゴの時は、お日様が昇るとイナゴが起きて飛んでしまうので

暗いうちに出かけます。

稲穂の先にイナゴは止まって寝ています。

寝ているイナゴを手の中にそっと入れ、腰にぶら下げている袋に入れて口をぎゅっと持ちます。

そのうち、お日様がだんだん昇ってきて明るくなってきます。

そうすると、イナゴが飛び始めました。

袋の中で眠っていたイナゴも飛び起きてきます。

あまりの勢いに袋が破れそうになります。

そうなったら今日はおしまい。

お家に帰るとお母さんがお鍋一杯にお湯を沸かして待っています。

そこにイナゴを入れてしまいます。

桜ちゃんは、イナゴを捕りにいくのは好きだけど、茹でるのや食べるのは苦手です。

大人はどうしてそんな事が出来るのでしょう?

きのこの時は前の日かその前の日に雨が降ったら豊作です。

きのこにはたくさんの種類があります。

毒のあるきのこもたくさんあります。

山に入るとまずお父さんが毒のきのこの見分け方を教えて下さいます。

あとは好きに探して採るだけです。

松葉がたくさん落ちている中から本当に少しだけ頭が出ているものを探すのがコツです。

目で見える伸びたきのこは大体が毒のきのこだからです。

松葉がもっこりとなっているところのまわりを、指先でほじります。

強く掘るときのこが割れてしまうのでゆっくり優しく周りの松葉と土をよけていきます。

そうすると、きのこが見えてきました。

まだ傘の開いていないきのこです。

途中で折らないようにして、きのこについた松葉や土を取って籠に入れていきます。

山を下りて少し平らな所に新聞紙を広げ、採ったきのこを並べます。

お父さんが食べられるものと毒のきのこを分けていきます。

今日は桜ちゃんが採ったきのこの中にむらさきしめじが入っていました。

お父さんが好きなきのこです。

「おぅ!今回はむらさきしめじが採れたかぁ」

と褒めてもらえたので桜ちゃんはとても嬉しくなりました。

本当は桜ちゃんはきのこが嫌いで食べられないのだけどね。

帰りは歌を歌いながら帰ります。

町の人達が

「今日は何が採れただ?桜ちゃんのお父さんは山の先生だからいいわねぇ」

と声をかけてくれます。

その時の誇らしい気持ちと言ったら!

そのあとは、一緒に銭湯に行って、お夕飯です。

笑点とサザエさんが始まってしまう前にお風呂屋さんに行かなければなりません。

お夕飯を食べて眠ったら、次の日の朝早くまたお父さんと一週間お別れなのです。

時間がありません。

今夜は喧嘩になりませんよう、と願いながらご飯を食べます。

お父さんが「ゆた~かなるザバイカ~ルの~」と歌い始めたら今日は大丈夫!

あぁよかった!

今週もいい日曜日でした。

宿題をやってない事は葵にいににも楓ねえねにも内緒にして、おやすみなさい。

 

 

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お話その2 土曜日は待ち遠しい

2013-04-26 12:00:01 | お話

桜ちゃんのお父さんは、電車で二時間くらいかかる大きな町で働いていました。

月曜日、まだ雀も鳩も起きてない頃に出かけて行きます。

そのままずっとお仕事をして、土曜日の夜に帰ってきます。

なので、土曜日はごちそうの日です。

お父さんが楽しい気分になれるように、お母さんがお父さんの好きなものを

たくさんたくさん作ります。

いつもは、おうどんやすいとんやおじやを食べています。

でも土曜日と日曜日はとっても豪華な食卓になります。

お父さんとお母さんが昔バーをやっていた時に使っていた、銀色の大きなお盆の上には

たくさんのキャベツの上に、揚げたての大きなとんかつがのっています。

おんなじ銀色の長いお皿には、春雨の上にハムや卵焼きやきゅうりがのった

色とりどりの中華風サラダ。

桜ちゃんのおうちでは「りゃんさい」と呼んでいました。

ナイフやフォークも並びます。

みんなの前に、銀色の楕円形のお皿が並びます。

ステンレスという金属で出来ているお皿です。

大きなお皿から、お父さんがキャベツととんかつをわけて下さいます。

ナイフとフォークで好きな大きさに切って食べるのです。

すき焼きの時もあります。

その時はお父さんが作る係です。

鉄のお鍋に、お砂糖とお醤油を入れて、タマネギと白ネギを入れます。

その上に豚肉をのせてまたネギをのせていきます。

鶏肉のときはたくさんのきのこを入れます。

桜ちゃんの嫌いな椎茸もありましたが、大好きな糸こんにゃくがあるのでがまんします。

お父さんは卵はつけません。

お鍋のあとはおうどんを入れます。

これが桜ちゃん家風すき焼きです。 

お父さんがいる週末は家族が揃ってごちそうを食べられる、とても大切な、とても待ち遠しい日でした。

お父さんが帰ってくると、まずは忍ねえねの霊璽の前のろうそくを点けて、

みんなで柏手を打ちお祈りします。

そのあと、みんなで乾杯をします。

おとうさんとおかあさんはキリンビール。

桜ちゃんはお母さんのお兄さん、林平おじちゃんが作ったぶどうジュース。

ご飯を食べてお腹いっぱいになって、桜ちゃんが少し眠くなる頃に

お父さんはウイスキーをしたたか飲んで、お母さんと喧嘩を始めます。

お母さんが一週間ぶりにお父さんと会うと嬉しすぎてつい、おしゃべりがすぎるので

いつも喧嘩になるのです。

桜ちゃんが眠ってから喧嘩をしてくれたらいいのですが、

お母さんはみんなで食卓を囲むとき、いつも余計な一言を言います。

まだ保育園に行ってる桜ちゃんでもわかるくらい余計なことを言います。

たとえばこんなことです。

その日は桜ちゃんのお誕生日。

おとうさんが会社の近くの二葉堂のケーキを買って帰ってきました。

二葉堂は有名なカステラ屋さんです。

そこのケーキは中のスポンジがしっとりふわふわで

生クリームがとっても美味しいのです。

スポンジには桜ちゃんの大好きなイチゴが挟んであります。

みんなのお誕生日には必ず買って来てくれます。

こたつ板の上にはいつもの土曜日よりも少し多めのごちそうが並んでいます。

お父さんの好きなものと、桜ちゃんの好きなものが並びます。

乾杯をして、ケーキの上でゆらゆらしてるろうそくの火を吹き消しました。

お父さんがみんなに

「世の中には、お誕生日にケーキを食べられない子ども達もたくさんいるんだよ。

戦争をしている国の子どもや、親のない子もね。うちも貧乏だけど、もっと貧乏のお家の子もいるんだからね」

と言いました。

そのときです。

お母さんの余計な一言です。

「あぁ、お父さん、純のことね」

純とは、お父さんがよそに作った子どもの事です。

お母さんが勝手に名前をつけています。

その頃の桜ちゃんは純が何歳で、男の子なのか女の子なのかも知りません。

本当の名前も知りません。

でも、「純ってだぁれ?」と言う質問はしてはいけないことだと思っていましたし、

まだ会った事のない家族がいるんだと納得していました。

お母さんの余計な一言のおかげで、お父さんは耳と顔を真っ赤にして怒ります。

葵にいには、「父さんが怒る問題ではない」と言い、お父さんはもっと顔を真っ赤にして

こたつ板をげんこつで叩きます。

楓ねえねは、「母さん、黙って!」と怒鳴ります。

お母さんは、「お母さんは悪くない。ほんとの事を言ってるだけだよ」

と開き直ります。

そこで桜ちゃんを除くみんなが喧嘩になります。

せっかくのお誕生日が台無しです。

桜ちゃんは泣いて止めますが誰も聞いてくれません。

こうなるともう、どうすることも出来ません。

桜ちゃんは押し入れに入って耳をふさいで静かになるのを待つのでした。

毎週土曜日、この喧嘩がなかったら、どんなに幸せなのでしょう。

でもこうやって喧嘩をしながら一週間会えなかった寂しさを紛らわすというのが

桜ちゃんちの土曜日なのです。

待ち遠しいのかそうじゃないのか、それがわかったのは、もう少し後になってから。

次のお話は日曜日のお話にしましょう。

またいつか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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お話その1

2013-04-23 21:35:54 | お話

今より少し昔のお話

山に囲まれたのんびりとしたある小さな町に

一つの家族が住んでいました。

お仕事で遠くに行っているお父さん、朝からずーっと働いているお母さん、

友達がたくさんいる葵お兄さん、髪が長くて色白の楓お姉さん。

それとおかっぱの似合う女の子、桜ちゃん。

大きなお屋敷の門の隣にひっそりと建つ平屋の家に住んでいました。

陽の当たらない薄暗い玄関を開けると二つお部屋がありました。

最初のお部屋はお兄さんとお姉さんがカーテンで仕切ってそれぞれのお部屋にしています。

次のお部屋はみんなでご飯を食べるお部屋です。

白黒テレビがありました。

夜はコタツを端に寄せて、足だけ突っ込んで、川の字になって眠ります。

部屋の隅には、はしごがあって、それを上ると屋根裏部屋です。

お兄さんがお友達を連れてくるとそのお部屋で遊びます。

お部屋の向こうには窓がある廊下があり、お日様に照らされた洗濯機が一つ。

その先は台所です。お勝手口もありました。

部屋の外にはぐるりと廊下があって、その先はお便所です。

夜は真っ暗で桜ちゃんは一人では行かれません。

お屋敷のお庭に面しているので、時々怖い大家さんがやってきます。

お庭には大きな大きなクスノキがありました。

夏になると台所の網戸にたくさんの蝉の抜け殻がつきました。

クスノキの下には楓お姉さんがもらって来た白い犬のコロがつながれています。

いつもはお家の中にいる猫のチャトラがコロの背中で寝ています。

大家さんちの畑にはねぎ坊主が揺れていました。

そんな家に住んでいた家族のお話。

 

第一話『魔法の出来事』

 

保育園から帰って来た桜ちゃん。

葵にいにと楓ねえねはまだ学校から帰っていません。

お父さんが帰ってくるのは毎週土曜日の晩。

お母さんは今日もお仕事です。

お母さんが保育園のお迎えが出来ないので、桜ちゃんはいつも一人で帰ります。

その日も保育園のお庭でお友達と遊んだ後は一人ぼっちで帰りました。

春だというのに家の中はすきま風が入って来て、こたつにもぐらないとがたがた震えてしまいます。

桜ちゃんは、早速こたつのスイッチを入れました。

暗い部屋の中、こたつ布団をめくって、赤いあの灯りを顔いっぱいに浴びるのが大好きなのでした。

何もかもが暖かく見えます。

そしてたくさんの小人さんが出て来て一人でもさみしくなくなるのです。

その日はなぜだか、違う赤い色を見てみたくなりました。

桜ちゃんの5歳上の生まれてすぐに死んでしまった忍ねえねの霊璽(れいじ)の横にマッチ箱がありました。

おじいさまが神主さんだったので、忍ねえねに手を合わせる時はろうそくに火を灯します。

そのゆらゆらとするほのかな灯りも、桜ちゃんの好きなものの一つです。

ろうそくに火を灯すのはおとうさんの係です。

桜ちゃんのお父さんとお母さんは、一人でお留守番している桜ちゃんが、

一人でも何かを作って食べられるようにと、保育園に入った年に、

包丁の使い方とマッチのすり方とガスコンロに火をつける事を教えてくれたので、

一人でもマッチをつけられます。

目玉焼きも袋入りのラーメンだってもう作れちゃうのです。

本当は料理をする時にしか使ってはいけないと言われていたのだけど、

その日はなぜだか、どうしても、たくさんのあの灯りを見たくなってしまいました。

こたつ板の上にお皿を持って来て、その上でシュッ!

ぼわっと火が点きます。

まわりは薄いオレンジ色で真ん中の芯の近くが青色です。

なんだかお父さんが帰ってきた時のような気がします。

桜ちゃんはとっても嬉しくなって、なんべんもマッチをすりました。

お皿の中は燃えかすのマッチ棒がいっぱいです。

桜ちゃんはもっと大きな火が見たくなりました。

燃えかすの上に新聞紙をちぎって乗せました。

すると、真ん中が黒くなったと思ったらぽっと赤い炎があがります。

桜ちゃんはもっと嬉しくなって、新聞紙をまたその上に乗せました。

火は桜ちゃんの背より高くなって、今にも天井に着くくらいです。

桜ちゃんは急に怖くなりました。

すぐに台所に行って、すくえるだけのお水をその小さな手にすくってその上にかけました。

大きくなった炎は、桜ちゃんがすくってきたお水では消えません。

今度は洗濯機の横のお水の入ったバケツをうんこらしょと持ち上げました。

そのバケツのお水をこたつの上にかけました。

辺り一面が水浸しです。

新聞紙の燃えかすが、ふわふわと部屋中を舞っています。

外はもう日が暮れて、お母さんが帰ってくる時間もせまっています。

電気を点けて、部屋を見渡した途端、自分のした事にびっくりして、もっと怖くなりました。

泣きながら雑巾でその辺りを拭きました。

でも真っ黒い新聞紙も、こたつ布団も、全然きれいになりません。

桜ちゃんはもっともっと悲しくなりました。

その時です。

玄関からお仕事で疲れたお母さんの「ただいま」と言う声が聞こえました。

慌てて、玄関に走りました。

そしてお母さんの背中に抱きつきました。ここまではいつも通り。

「お母さん、あのね、今日はおさむくんと遊んだよ」

「お母さん、あのね、保育園のおやつに美代子先生が干しぶどうをくれたよ」

「お母さん、あのね、あのね」

出来るだけお母さんに話しかけて、少しでも時間をかけようと思ったのでした。

「桜、今日はどうしたの?保育園で何かあったの?」

とお母さんは優しく聞いて下さいます。

「お母さん、あのね、ちょっといたずらしちゃったの」

と勇気を振り絞って言いました。

あ母さんはお部屋に入って行きます。

桜ちゃんは怒られると思って顔があげられません。

ところが、お母さんは部屋に入っても何も言いませんでした。

桜ちゃんはびっくりして部屋に入りました。

するとどうでしょう?

部屋の中は何もなかったようにきれいです。

こたつ布団に触ってみても濡れていません。

空っぽのバケツが転がっているだけです。

真っ黒ふわふわの新聞紙もどこにもありませんでした。

桜ちゃんは驚いて、ついお母さんに今日の出来事を話しました。

怒られるより、この魔法のような事を話したかったのです。

お母さんは笑いながら

「そんなことをしたら部屋中水浸しで、母さんきっと怒っていたよ。でもお部屋は全然汚れてないよ」

と言いました。

そのうち、葵にいにと楓ねえねが帰ってきました。

桜ちゃんは興奮しながら、今日のこの不思議な出来事を話します。

にいにもねえねもやっぱり笑いました。

「おこたつの中で寝ちゃって夢をみたんだよ、さくは」

桜ちゃんはとっても悔しくなりました。

ほんとうにほんとうの事なのに、誰も信じてくれないからです。

そしてなお、泣きたくなりました。

お母さんは優しく頭を撫でながら

「今日はさくの好きなオムライスを作るから、お手伝いしてね」

と言いました。

「わかった!じゃあ、さくはにんじんを切る係と、卵をまぜる係と、マッチをする係!」

さっきまで泣きそうだったのに今はにこにこ。現金な桜ちゃん。

そしてマッチをするのもちっとも怖くないみたいです。

部屋のはしごの上で、ぺろっと舌を出した小人さん達が桜ちゃんを優しく見ていました。

 

第一話はおしまい。

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