大学生の頃の話である。
ある日、大学近くの坂道を歩いていると、子猫が倒れていた。
頭に大きな陥没があり、自動車にぶつかったのか、誰か人間に棒のようなもので殴られたか、そんな感じだった。
青息吐息という感じで、仕方なく自分のアパートまで連れ帰った。
いまにも死んでしまいそうで、こたつに横たえたが身動きもせずに、また食べ物も食べず、何日か寝たままであった。
しかし動物の生命力は大したもので、一週間ほどで餌を食べられるようになり、アパートの中を駆け回るようになった。
問題だったのは爪をアパートの部屋の壁で研ぐようになってしまったことだ。
そもそも動物不可の物件であるアパートだった。困っていると、女の子の友人がこの子猫(にゃ~たん)を貰ってくれることになった。
にゃ~たんを引き渡すその日ににゃ~たんを抱えて、ちょうどにゃ~たんを拾った坂道を通りかかった。
すると、一匹の子猫がボクの足下に駆け寄ってきた。そして足に飛びかかるようにじゃれてきたのだ。
どうやらにゃ~たんの兄弟であるように思えた。まるで「にゃ~たん!にゃ~たん!」と叫んでいるように見えた。
道の反対側に視線を移すと、にゃ~たんの模様によく似た大人のネコがじっとこちらの方を見ている。ああ、このネコはたぶんにゃ~たんの親猫なのであろうと感じた。
動物に人間と同じような兄弟愛や親子愛があるのかわからないが、ネコにもそんな感情があるのかなぁと思わせるような、不思議な体験だった。