前回の診察日にあまりにも待ち時間があった。それで持っていた双極性障害研究者・加藤忠史氏の「双極性障害―躁うつ病への対処と治療」(ちくま新書)を読み直した。
この本は新書であるから基本的に一般向け(患者・患者家族・職場関係)に書かれてはいる。けれど、もともと理系である精神科医であり現在は理化学研究所の脳科学研究の加藤氏文章は、前半は兎も角、一番最後の方の双極性障害の脳科学や原因仮説の説明については理系のセンスのない人にはたぶん全くといっていいほど理解不能だろう。
だからといってこの著作を否定している訳ではない。
精神医学や臨床心理の世界ではすでによく知られている脳内物質系の抗うつ剤(SSRI等)の臨床データが製薬会社による都合のいいデータが使われていたこと、アメリカで推進研究者に多額のお金が渡っていたこと等、正直に記されていることは誠実さを感じる。
大まかには、「双極性障害(躁うつ病)とは何か」 「気分障害内にうつ病・双極性障害に分類される」 「うつ病と双極性障害はまったく異なった病であり治療方針も薬も異なる」 「しかし一見して双極性障害は”うつ症状”時に精神科にかかるため、時間をかけた観察を行わないと双極性障害とは診断されない」 「繰り返しうつ病を再発している人の中に、双極性障害の人が何割か含まれている」 「第一世代、第二世代の抗うつ剤をこうした発覚していない双極性障害の人に投与すると躁転する」 「躁状態の時に人間関係を壊しやすいので、双極性障害は薬でコントロールできる病であるにも関わらず、放置すればその患者の社会生活を破綻させる恐ろしい病である」 「双極性障害は脳科学から観れば脳の機能的病であり糖尿病や高血圧に例えられる」「症例」等々(テキトー大雑把ですみません)。
文章や話をする商売をしていた人間から言うと、書かれていることは至極まっとうで判るのではあるが、それじゃあそれで「双極性障害が診断できるのは受診からアメリカで平均8.3年。日本では10年前後はざら」と言われて患者側から「それじゃあ、うつ病として10年治療されても仕方ないですね(^o^)」なんて感じられるかといえばまったくそうではない。
癌患者に「あなたの余命はあと△ヶ月。生存率??%」と医学的統計学的情報をそのまま何の配慮もなく伝える医者がいる。なんかそれと似ている。
気分障害である双極性障害は「気分・気持ち」に変調をきたす病だ。客観的データの必要性は判るのだが、もう少し表現の仕方や伝え方を工夫できないのだろうか?
もちろん、以上はこの加藤氏の新書が無益だとか間違っているとか言っているのではない。冷静に引き受けられる状況の患者や家族には十分有益だと思う。
確かに彼自身が葛藤しているように、例えば血液検査をすれば「あなたは双極性障害」と診断がつき、初期から適切な治療薬、またその治療薬が物理的脳モニタ等できちんと効いているか確認できれば一番いいのだ。
なにより現段階での双極性障害、とくに軽躁である双極性2型障害の場合、いまの診断技術だと「うつ病」という誤診が10年近く続く可能性がある。
その意味では加藤氏の様な基礎研究がきちんと進むこと、一方で現場の精神科医、心療内科医の双極性障害への診断技術向上が望まれる。
やっぱり「診断に10年かかる」はいくらなんでも長いと思う。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます