ニチアサがお休みでネタがないので、昨日pixivに投稿したSSをこっちにも載せておきます。
一日遅れのハロウィンになっちゃうけど、そこはご愛敬ということで。
――――
10月31日、土曜日の午後。
漫画を読んでいた西片は、そのまま眠りに落ちていた。
◆ ◆ ◆
気がつくと西片は、草原に立っていた。
そこは現実感がなく、どこかファンシーな雰囲気が漂っていた。
まるで、絵本の中にでも入り込んだようである。
「あれ? 俺、なんでこんなところに……。
っていうか、この格好なに!?」
まずは見知らぬ光景に困惑した西片だったが、やがて自分の服装も奇妙であることに気づく。
シルクハットに礼服、首から下がるのは大きな懐中時計。
そして本人からは見えないが、シルクハットには兎の耳を模した飾りがついている。
「にーしっかた♪」
混乱しっぱなしの西片に、背後から声がかけられる。
彼が振り向くと、そこにはかわいらしいエプロンドレスをまとった高木さんの姿があった。
そのキュートな姿に見惚れそうになる西片だったが、すぐに思考を切り替える。
(高木さんのあの服って……不思議の国のアリスだよな?
ってことは、俺は時計ウサギ?)
自分の服装のモチーフはわかったが、それだけではなぜ自分がこの服を着ているのかという解答にはならない。
高木さんなら何か知っているかも知れないと考え、西片は彼女に尋ねようとする。
「あの、高木さん……」
「トリックオアトリート!」
しかし西片の質問は、高木さんの高らかな宣言にかき消された。
「え、何それ……」
「今日はハロウィンだよ、西片」
「いや、そういえばそうだったけど……。
アリスとハロウィン、何も関係ないじゃん!」
「ごちゃごちゃ言わずに、お菓子を出しなさーい」
「ええー……」
高木さんのペースに乗せられ、西片はお菓子がないかとポケットをまさぐる。
しかし、その中には何もない。
「ごめん、高木さん。
今、お菓子持ってないみたいなんだけど……」
「そっかー。それじゃあしょうがないねえ」
高木さんが素直に諦めたと判断し、安堵の表情を浮かべる西片。
だが彼はすぐに、自分の考えが甘かったことを思い知る。
「なら、いたずらだー!」
そう叫ぶと、高木さんはどこから取り出したのか巨大な黄色い毛玉を西片に投げつける。
反射的にそれを受け止める西片。
直後、毛玉が綺麗に真っ二つとなり、中から凶悪な顔つきの赤い龍が飛び出してきた。
「うわああああ!!」
たまらず西片は大声を上げ、その場に倒れ込む。
それを見て、高木さんはケラケラと笑っている。
「本当に期待通りのリアクションしてくれるねー、西片は」
「ぐう……」
屈辱に顔をゆがめながら、立ち上がる西片。
そこに、さらなる追い打ちとなる一言が投げかけられる。
「言っておくけど、これで終わりじゃないよ?」
「へ?」
「西片がお菓子をくれるまで、いたずらは続くから」
「何それー!?」
「さあ、西片。トリックオアトリート!」
◆ ◆ ◆
メルヘンの世界を、西片は走る。
止まっていては、高木さんのいたずらの餌食となってしまう。
それを避けるには、なんとかお菓子を入手して渡すしかない。
「どこかにないかな、お菓子……。
いや、その辺に落ちてるものでもないけど……」
走りながら、西片はせわしなく周囲を見回す。
やがて彼の視界に、屋外でテーブルを囲む三人組が飛び込んでくる。
よく見るとそれはクラスメイトの仲良しトリオ、ユカリ、ミナ、サナエだった。
「あれ、西片くんじゃない。そんなに慌ててどうしたの?」
西片に気づいたユカリが、彼に声をかける。
「いや、ちょっと追われてて……。天川さんたちは何を?」
「私たちは、お茶会を楽しんでたところよ」
「お茶会!」
西片の声が弾む。
お茶会ならばお菓子もあるはず。そう考えたのだ。
「あのさあ! 悪いんだけど、少しだけお菓子分けてくれない?」
「え、無理」
「なんで!?」
サナエにあっさりと拒否され、西片の顔が青ざめる。
「なぜなら、私たちがお茶請けにしてるのはトンカツだから」
「トンカツ!? なんで!?」
「西片くん! トンカツとDJは一緒なんだよ!」
「意味わからないよ!」
胸を張ってわけのわからないことをのたまうミナに、西片は全力でツッコむ。
「ああ、どうしよう。早くしないと高木さんに追いつかれ……」
「もう追いついてるよー」
「うわあっ!」
いつの間にか、高木さんは西片の背後に立っていた。
驚きで飛び退いた西片の眼前に、高木さんは日本刀を突きつける。
「いやちょっと、高木さん!
それはシャレになら……わぷっ!」
あわてふためく西片の顔を、刀の先端から吹き出した水流が直撃する。
「み、水鉄砲!?」
「本当、西片はいい反応するねえ」
びしょ濡れの西片を見て、高木さんは屈託のない笑みを浮かべる。
「さーて、次は……」
「まだやるの!? いいかげんにしてよ、もー!」
泣き言を漏らしながら、西片は再び逃げ出した。
◆ ◆ ◆
次に西片が出会ったのは、器用に塀の上に座り込んで将棋を指している男女だった。
「どうした、ウサギの少年。ずいぶんと慌ててるじゃないか」
「あの! 初対面でこんなこと頼むのもなんですけど!
何かお菓子を持ってたら分けてもらえないでしょうか!」
話しかけてきた女性に対し、西片はストレートに頼み込む。
「お菓子かー。私は持ってないな。
歩、おまえはどうだ?」
「どうでしたかね……」
歩と呼ばれた男は、ポケットに手を突っ込む。
「うーん……。焼き鳥しかありませんね」
「いや、普通ポケットに焼き鳥入れないでしょ!」
「こいつのポケットは、無限に焼き鳥が出てくるんだ。すごいだろ」
「すごいけど! どういう原理なの、それ!」
焦る西片。どうせ高木さんはすぐに追いついてくるのだ。
一刻も早くお菓子を手に入れなければならない。
こんな茶番に付き合っている場合ではないのだ。
「早く、他の場所を探さないと……」
その場を離れようとする西片。だがその時、突如として地響きが周囲一帯を襲った。
「え、何!? 何!?」
周囲を見回す西片。
そして彼は、発見してしまう。
こちらに向かって歩いてくる、巨大な埴輪を。
そしてその頭上にたたずむ、高木さんの姿を。
「何でもありにも程があるでしょーっ!」
◆ ◆ ◆
巨大埴輪から逃げ回った西片は、立派なお城へとたどり着いていた。
「お城なら、お菓子があるかもしれないけど……。
でも、アリスに出てくるお城っていったら……」
いやな予感に、西片はつい足を止めてしまう。
「残念。ためらったらもうアウトだよー」
「へ?」
突然、どこかから聞こえてくる声。
それに気を取られた隙に、地面から生えるように出現したトランプの兵隊たちが西片を包囲する。
「うわあっ! なんだよ、おまえたち!」
「残念、西片の冒険はここでおしまいだよ」
そう口にしながら、一人の女性が西片に歩み寄ってくる。
それは女王の衣装を身にまとった、大人の女性だ。
その顔に、西片は見覚えがあった。
「た、高木さん? いや、でも背が伸びてる……。
というか、大人になってる?」
そこへ、もう一つの声が響く。
「手際いいね。さすが私」
それは、先ほどまで西片を追い回していたエプロンドレスの高木さんだった。
「え? 高木さんが二人?」
困惑する西片に対し、二人の高木さんはじりじりと距離を詰めていく。
「もう逃げられないよ、西片」
「二人でたっぷりいたずらしてあげる♪」
「うわああああ!!」
◆ ◆ ◆
「ん……」
携帯電話の振動音で、西片は目を覚ました。
「なんか、変な夢見てたような……」
寝ぼけたまま、西片は枕元の携帯電話を手に取る。
「誰から……あっ」
そこには「ハッピーハロウィン!」の文字と、エプロンドレスを着た高木さんの画像が表示されていた。
一日遅れのハロウィンになっちゃうけど、そこはご愛敬ということで。
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10月31日、土曜日の午後。
漫画を読んでいた西片は、そのまま眠りに落ちていた。
◆ ◆ ◆
気がつくと西片は、草原に立っていた。
そこは現実感がなく、どこかファンシーな雰囲気が漂っていた。
まるで、絵本の中にでも入り込んだようである。
「あれ? 俺、なんでこんなところに……。
っていうか、この格好なに!?」
まずは見知らぬ光景に困惑した西片だったが、やがて自分の服装も奇妙であることに気づく。
シルクハットに礼服、首から下がるのは大きな懐中時計。
そして本人からは見えないが、シルクハットには兎の耳を模した飾りがついている。
「にーしっかた♪」
混乱しっぱなしの西片に、背後から声がかけられる。
彼が振り向くと、そこにはかわいらしいエプロンドレスをまとった高木さんの姿があった。
そのキュートな姿に見惚れそうになる西片だったが、すぐに思考を切り替える。
(高木さんのあの服って……不思議の国のアリスだよな?
ってことは、俺は時計ウサギ?)
自分の服装のモチーフはわかったが、それだけではなぜ自分がこの服を着ているのかという解答にはならない。
高木さんなら何か知っているかも知れないと考え、西片は彼女に尋ねようとする。
「あの、高木さん……」
「トリックオアトリート!」
しかし西片の質問は、高木さんの高らかな宣言にかき消された。
「え、何それ……」
「今日はハロウィンだよ、西片」
「いや、そういえばそうだったけど……。
アリスとハロウィン、何も関係ないじゃん!」
「ごちゃごちゃ言わずに、お菓子を出しなさーい」
「ええー……」
高木さんのペースに乗せられ、西片はお菓子がないかとポケットをまさぐる。
しかし、その中には何もない。
「ごめん、高木さん。
今、お菓子持ってないみたいなんだけど……」
「そっかー。それじゃあしょうがないねえ」
高木さんが素直に諦めたと判断し、安堵の表情を浮かべる西片。
だが彼はすぐに、自分の考えが甘かったことを思い知る。
「なら、いたずらだー!」
そう叫ぶと、高木さんはどこから取り出したのか巨大な黄色い毛玉を西片に投げつける。
反射的にそれを受け止める西片。
直後、毛玉が綺麗に真っ二つとなり、中から凶悪な顔つきの赤い龍が飛び出してきた。
「うわああああ!!」
たまらず西片は大声を上げ、その場に倒れ込む。
それを見て、高木さんはケラケラと笑っている。
「本当に期待通りのリアクションしてくれるねー、西片は」
「ぐう……」
屈辱に顔をゆがめながら、立ち上がる西片。
そこに、さらなる追い打ちとなる一言が投げかけられる。
「言っておくけど、これで終わりじゃないよ?」
「へ?」
「西片がお菓子をくれるまで、いたずらは続くから」
「何それー!?」
「さあ、西片。トリックオアトリート!」
◆ ◆ ◆
メルヘンの世界を、西片は走る。
止まっていては、高木さんのいたずらの餌食となってしまう。
それを避けるには、なんとかお菓子を入手して渡すしかない。
「どこかにないかな、お菓子……。
いや、その辺に落ちてるものでもないけど……」
走りながら、西片はせわしなく周囲を見回す。
やがて彼の視界に、屋外でテーブルを囲む三人組が飛び込んでくる。
よく見るとそれはクラスメイトの仲良しトリオ、ユカリ、ミナ、サナエだった。
「あれ、西片くんじゃない。そんなに慌ててどうしたの?」
西片に気づいたユカリが、彼に声をかける。
「いや、ちょっと追われてて……。天川さんたちは何を?」
「私たちは、お茶会を楽しんでたところよ」
「お茶会!」
西片の声が弾む。
お茶会ならばお菓子もあるはず。そう考えたのだ。
「あのさあ! 悪いんだけど、少しだけお菓子分けてくれない?」
「え、無理」
「なんで!?」
サナエにあっさりと拒否され、西片の顔が青ざめる。
「なぜなら、私たちがお茶請けにしてるのはトンカツだから」
「トンカツ!? なんで!?」
「西片くん! トンカツとDJは一緒なんだよ!」
「意味わからないよ!」
胸を張ってわけのわからないことをのたまうミナに、西片は全力でツッコむ。
「ああ、どうしよう。早くしないと高木さんに追いつかれ……」
「もう追いついてるよー」
「うわあっ!」
いつの間にか、高木さんは西片の背後に立っていた。
驚きで飛び退いた西片の眼前に、高木さんは日本刀を突きつける。
「いやちょっと、高木さん!
それはシャレになら……わぷっ!」
あわてふためく西片の顔を、刀の先端から吹き出した水流が直撃する。
「み、水鉄砲!?」
「本当、西片はいい反応するねえ」
びしょ濡れの西片を見て、高木さんは屈託のない笑みを浮かべる。
「さーて、次は……」
「まだやるの!? いいかげんにしてよ、もー!」
泣き言を漏らしながら、西片は再び逃げ出した。
◆ ◆ ◆
次に西片が出会ったのは、器用に塀の上に座り込んで将棋を指している男女だった。
「どうした、ウサギの少年。ずいぶんと慌ててるじゃないか」
「あの! 初対面でこんなこと頼むのもなんですけど!
何かお菓子を持ってたら分けてもらえないでしょうか!」
話しかけてきた女性に対し、西片はストレートに頼み込む。
「お菓子かー。私は持ってないな。
歩、おまえはどうだ?」
「どうでしたかね……」
歩と呼ばれた男は、ポケットに手を突っ込む。
「うーん……。焼き鳥しかありませんね」
「いや、普通ポケットに焼き鳥入れないでしょ!」
「こいつのポケットは、無限に焼き鳥が出てくるんだ。すごいだろ」
「すごいけど! どういう原理なの、それ!」
焦る西片。どうせ高木さんはすぐに追いついてくるのだ。
一刻も早くお菓子を手に入れなければならない。
こんな茶番に付き合っている場合ではないのだ。
「早く、他の場所を探さないと……」
その場を離れようとする西片。だがその時、突如として地響きが周囲一帯を襲った。
「え、何!? 何!?」
周囲を見回す西片。
そして彼は、発見してしまう。
こちらに向かって歩いてくる、巨大な埴輪を。
そしてその頭上にたたずむ、高木さんの姿を。
「何でもありにも程があるでしょーっ!」
◆ ◆ ◆
巨大埴輪から逃げ回った西片は、立派なお城へとたどり着いていた。
「お城なら、お菓子があるかもしれないけど……。
でも、アリスに出てくるお城っていったら……」
いやな予感に、西片はつい足を止めてしまう。
「残念。ためらったらもうアウトだよー」
「へ?」
突然、どこかから聞こえてくる声。
それに気を取られた隙に、地面から生えるように出現したトランプの兵隊たちが西片を包囲する。
「うわあっ! なんだよ、おまえたち!」
「残念、西片の冒険はここでおしまいだよ」
そう口にしながら、一人の女性が西片に歩み寄ってくる。
それは女王の衣装を身にまとった、大人の女性だ。
その顔に、西片は見覚えがあった。
「た、高木さん? いや、でも背が伸びてる……。
というか、大人になってる?」
そこへ、もう一つの声が響く。
「手際いいね。さすが私」
それは、先ほどまで西片を追い回していたエプロンドレスの高木さんだった。
「え? 高木さんが二人?」
困惑する西片に対し、二人の高木さんはじりじりと距離を詰めていく。
「もう逃げられないよ、西片」
「二人でたっぷりいたずらしてあげる♪」
「うわああああ!!」
◆ ◆ ◆
「ん……」
携帯電話の振動音で、西片は目を覚ました。
「なんか、変な夢見てたような……」
寝ぼけたまま、西片は枕元の携帯電話を手に取る。
「誰から……あっ」
そこには「ハッピーハロウィン!」の文字と、エプロンドレスを着た高木さんの画像が表示されていた。
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