F-3。そこには「世界樹」の名を持つ、常識では考えられぬほど巨大な木が鎮座している。
そしてその根本に、一つの人影があった。
「はあ、殺し合いねえ……。ばかばかしいったらないわ」
犬坂毛野は、自慢のつややかな長髪を弄りながら溜め息混じりに呟いた。
「道節や小文吾だけならまだしも、信乃ちゃんがいるんじゃねえ……。信乃ちゃんを殺してまで生き延びるなんて、あり得ないわ」
名簿に記された仲間たちの名前を眺めながら、毛野は今一度呟く。
余裕がありそうなその口調とは裏腹に、毛野の美貌は苦悩に歪んでいた。
毛野には、どうしても納得のできないことがあったのだ。
(八犬士のうち、四人までもを無抵抗で連れ去ることができるなんて……。あの子、生半可な妖怪じゃない……。
妖鬼王・玉梓の腹心……いや、まさか同等の存在?)
毛野の気がかりは、自分たちをここへ連れてきたあの少年のこと。
この殺し合いを止めるには、少年を打倒するほか無い。
だが少年は、自分たち八犬士の半数を容易に拉致できるほどの力を持っているのだ。
戦力が半減した今、自分たちだけでそれほどまでに強力な存在を倒すことができるのだろうか。
客観的に考えれば、勝率は非常に低い。それを即座に理解してしまったがゆえに、毛野の顔には次々と汗が浮かんでいく。
(ああもう、私らしくないわね……。やる前から弱気になってどうするのよ!
悩む前にまず行動! 早いところ信乃ちゃんと、ついでに小文吾と道節を見つけないと!)
弱気になりつつあった自分に喝を入れ、毛野は荷物を背負って颯爽と歩き出す。
だがその歩みは、三歩と進まぬうちに止まってしまった。
「え……? ちょっと、あれって……」
「それ」を目撃して、毛野は驚愕に目を見開く。それも無理のない反応だ。
毛野が見たのは、はるか上空から落下してくる誰かだったのだから。
(まさか、この状況に絶望して身投げ? 冗談じゃないわ。私の前で死なれてたまるもんですか!)
眉間にしわを寄せつつ、毛野は落下地点を予測してそこへ向かって走る。
だがここで、予想だにしない事態が起きた。落ちてきた人影が、空中で忽然と消失したのである。
「え?」
事態が飲み込めず、呆然とする毛野。そこへ、二度目の衝撃が襲いかかる。
消失したその人影が、やはり忽然と眼前に現れたのだ。
「な……!」
「はー、やっぱりあの高さからの連続テレポートは疲れるわね……。他の方法を考えた方がよかったかしら?」
混乱する毛野の前で、その人物は気だるげに独り言を漏らす。
「って、人いるじゃない! ごめんなさい、驚かれました? 私、私立CLAMP学園高等部3年A組、亜細亜堂ユウキと申します」
「……はあ。私は犬坂毛野。職業は……そうね、旅芸人ってところかしら」
こちらの存在に気づくや否や、よどみない口調で自己紹介を述べるユウキと名乗った若者。
それに対し、毛野も若干動揺を引きずりつつ自己紹介を返す。
「しかしあなた……。ずいぶん平気そうじゃない。いちおう、ここは殺し合いの場なのよ?
もう少し他人を警戒した方がいいんじゃないかしら」
「もちろん、殺し合いの場だと言うことは理解していますよ? それに対する恐怖心も少なからずあります。
けど、これでもそれなりに修羅場慣れはしてますから。毛野さん……でしたっけ?
あなたからは殺気を感じられません。だったら気を許しても大丈夫でしょう?」
「なるほどね……。なかなか肝が据わってるじゃない。それに冷静だわ」
「お褒めにあずかり光栄ですわ」
感嘆の声を漏らす毛野に対し、ユウキは笑顔で軽く会釈してみせる。
「私に敵意がないのはわかってもらえてるみたいだけど……。そっちも敵意はないみたいね。
それなら、聞かせてもらえるかしら? さっきあなたは、空中で突然消えて地上にまた現れた。
あれは何? まさかあなた、妖術使いか何か?」
「妖術とはまた古風な……。ああ、ひょっとして格好もそれっぽいし、毛野さんって実際に古風な人なのかな?
まあ、それはどうでもいいんです。知りたいというのなら解説してあげましょう」
大げさな身振りをみせると、ユウキは毛野の質問への回答を答え始めた。
すなわち、自分が持つ力の説明である。
「私はテレポーター……すなわち、瞬間移動能力の持ち主なんです。
正確に言えば、私の能力は特定の場所の空気と自分の肉体を入れ替える能力なので『空間転移』という表現の方が的確なんですが。
ただある程度の制約もあって、30㎝以上の高さから落下しないと発動できません。
それから転移先をしっかりと脳内に思い描く必要があるので、目視できているか普段行き慣れている場所でなければ転移は不可能です」
「ん? ちょっと待って? あなたは道節みたいに……って言ってもわからないか。
とにかく、自分が知ってる場所ならどこにでも瞬間移動できるわけよね?
そしたら、簡単に自分がもともといたところに帰れるんじゃないの?」
「そう思いますよね!」
毛野の口から放たれた素朴な疑問に、ユウキは待ってましたとばかりに声を張り上げる。
「もちろん私も、真っ先にそれを試しましたよ! でも、全然駄目だったんです!
学校に帰ろうとしてるのに、転移したのはすぐ目の前! どうやら何かの仕掛けで、私のテレポートじゃこの島から出られなくなってるみたいなんです!
だから仕方なく、この木のてっぺんから連続テレポートで落下エネルギーを消費しつつ降りてきたところを毛野さんに会った、と」
「なるほどねえ……」
ユウキの勢いに若干気圧されつつも、毛野はその話を理解し納得の表情を浮かべる。
「さすがにあの坊やも、そう簡単には帰してくれないってことね……」
「ですね。それに私が帰れたとしても、仲間たちを置き去りにしていくわけにはいきませんし」
「仲間……。ユウキちゃんの仲間も、このふざけた話に巻き込まれてるわけ?」
「ええ、同好会の仲間が四人全員……。『も』ってことは、毛野さんの方も?」
「そのとおりよ。旅の仲間が三人、ね」
「知り合い同士を集めて殺し合えだなんて……。本当に悪趣味だわ! 絶対許せない!」
「まったくだわ」
毛野に負けず劣らずの美しい髪を振り乱して憤慨するユウキに、毛野も思わず同意の言葉を口にしていた。
「あなたもそう思いますよね、毛野さん! こんな殺し合い、私たちでぶち壊してやりましょうよ!」
「たしかに、それができるなら協力してあげたいけど……。何か当てでもあるの?」
「それは……」
毛野の的確かつ冷静な指摘に、それまで熱を帯びていたユウキの態度が一気に冷え込む。
「と、とにかくまずはこの島を徹底的に調査しましょう! 何か殺し合いを止めるための手がかりが見つかるかも!
いえ、きっと見つかります!」
「要するに行き当たりばったりってわけね……」
たまらず苦笑を浮かべる毛野。
「けどまあ、その心意気は買うわ。あなた一人じゃ危なっかしいし……。
しばらく一緒にいさせてもらうわよ、ユウキちゃん」
「本当ですか!?」
同行を受諾され、ユウキの頬がたまらず緩む。
「それじゃあこれからよろしくお願いしますね、毛野お姉様」
「あらやだ、お姉様だなんて」
「それなら……お兄様にしておきますか?」
「!!」
ユウキがさも当然のように放った一言。それは、毛野の美貌を凍り付かせるには十分な破壊力を持っていた。
「ゆ、ユウキちゃん……。まさかあなた、私が男だって……」
「ええ、気づいてましたよ? だって……」
小悪魔の笑みを浮かべながら、ユウキは言う。
「私も同類ですもの♪」
【一日目 深夜 F-3 世界樹の下】
【亜細亜堂ユウキ@CLAMP学園怪奇現象研究会事件ファイル】
【状態】疲労(中)
【装備】なし
【道具】支給品一式、不明支給品1~3
【思考】
基本:この島からの脱出。
1:島を調べて、殺し合いを止める手がかりを捜す。
2:研究会の仲間(高雪、光司、美冬、りおん)との合流。
※本編終了後からの参戦です。
※テレポート能力は制限により、島の外部へ移動することはできません。
【犬坂毛野@里見☆八犬伝】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】支給品一式、不明支給品1~3
【思考】
基本:殺し合いの中断。
1:ユウキに同行する。
2:他の犬士(道節、小文吾、信乃)との合流。特に信乃を優先。
※単行本6巻終了時からの参戦です。
前の話
次の話
そしてその根本に、一つの人影があった。
「はあ、殺し合いねえ……。ばかばかしいったらないわ」
犬坂毛野は、自慢のつややかな長髪を弄りながら溜め息混じりに呟いた。
「道節や小文吾だけならまだしも、信乃ちゃんがいるんじゃねえ……。信乃ちゃんを殺してまで生き延びるなんて、あり得ないわ」
名簿に記された仲間たちの名前を眺めながら、毛野は今一度呟く。
余裕がありそうなその口調とは裏腹に、毛野の美貌は苦悩に歪んでいた。
毛野には、どうしても納得のできないことがあったのだ。
(八犬士のうち、四人までもを無抵抗で連れ去ることができるなんて……。あの子、生半可な妖怪じゃない……。
妖鬼王・玉梓の腹心……いや、まさか同等の存在?)
毛野の気がかりは、自分たちをここへ連れてきたあの少年のこと。
この殺し合いを止めるには、少年を打倒するほか無い。
だが少年は、自分たち八犬士の半数を容易に拉致できるほどの力を持っているのだ。
戦力が半減した今、自分たちだけでそれほどまでに強力な存在を倒すことができるのだろうか。
客観的に考えれば、勝率は非常に低い。それを即座に理解してしまったがゆえに、毛野の顔には次々と汗が浮かんでいく。
(ああもう、私らしくないわね……。やる前から弱気になってどうするのよ!
悩む前にまず行動! 早いところ信乃ちゃんと、ついでに小文吾と道節を見つけないと!)
弱気になりつつあった自分に喝を入れ、毛野は荷物を背負って颯爽と歩き出す。
だがその歩みは、三歩と進まぬうちに止まってしまった。
「え……? ちょっと、あれって……」
「それ」を目撃して、毛野は驚愕に目を見開く。それも無理のない反応だ。
毛野が見たのは、はるか上空から落下してくる誰かだったのだから。
(まさか、この状況に絶望して身投げ? 冗談じゃないわ。私の前で死なれてたまるもんですか!)
眉間にしわを寄せつつ、毛野は落下地点を予測してそこへ向かって走る。
だがここで、予想だにしない事態が起きた。落ちてきた人影が、空中で忽然と消失したのである。
「え?」
事態が飲み込めず、呆然とする毛野。そこへ、二度目の衝撃が襲いかかる。
消失したその人影が、やはり忽然と眼前に現れたのだ。
「な……!」
「はー、やっぱりあの高さからの連続テレポートは疲れるわね……。他の方法を考えた方がよかったかしら?」
混乱する毛野の前で、その人物は気だるげに独り言を漏らす。
「って、人いるじゃない! ごめんなさい、驚かれました? 私、私立CLAMP学園高等部3年A組、亜細亜堂ユウキと申します」
「……はあ。私は犬坂毛野。職業は……そうね、旅芸人ってところかしら」
こちらの存在に気づくや否や、よどみない口調で自己紹介を述べるユウキと名乗った若者。
それに対し、毛野も若干動揺を引きずりつつ自己紹介を返す。
「しかしあなた……。ずいぶん平気そうじゃない。いちおう、ここは殺し合いの場なのよ?
もう少し他人を警戒した方がいいんじゃないかしら」
「もちろん、殺し合いの場だと言うことは理解していますよ? それに対する恐怖心も少なからずあります。
けど、これでもそれなりに修羅場慣れはしてますから。毛野さん……でしたっけ?
あなたからは殺気を感じられません。だったら気を許しても大丈夫でしょう?」
「なるほどね……。なかなか肝が据わってるじゃない。それに冷静だわ」
「お褒めにあずかり光栄ですわ」
感嘆の声を漏らす毛野に対し、ユウキは笑顔で軽く会釈してみせる。
「私に敵意がないのはわかってもらえてるみたいだけど……。そっちも敵意はないみたいね。
それなら、聞かせてもらえるかしら? さっきあなたは、空中で突然消えて地上にまた現れた。
あれは何? まさかあなた、妖術使いか何か?」
「妖術とはまた古風な……。ああ、ひょっとして格好もそれっぽいし、毛野さんって実際に古風な人なのかな?
まあ、それはどうでもいいんです。知りたいというのなら解説してあげましょう」
大げさな身振りをみせると、ユウキは毛野の質問への回答を答え始めた。
すなわち、自分が持つ力の説明である。
「私はテレポーター……すなわち、瞬間移動能力の持ち主なんです。
正確に言えば、私の能力は特定の場所の空気と自分の肉体を入れ替える能力なので『空間転移』という表現の方が的確なんですが。
ただある程度の制約もあって、30㎝以上の高さから落下しないと発動できません。
それから転移先をしっかりと脳内に思い描く必要があるので、目視できているか普段行き慣れている場所でなければ転移は不可能です」
「ん? ちょっと待って? あなたは道節みたいに……って言ってもわからないか。
とにかく、自分が知ってる場所ならどこにでも瞬間移動できるわけよね?
そしたら、簡単に自分がもともといたところに帰れるんじゃないの?」
「そう思いますよね!」
毛野の口から放たれた素朴な疑問に、ユウキは待ってましたとばかりに声を張り上げる。
「もちろん私も、真っ先にそれを試しましたよ! でも、全然駄目だったんです!
学校に帰ろうとしてるのに、転移したのはすぐ目の前! どうやら何かの仕掛けで、私のテレポートじゃこの島から出られなくなってるみたいなんです!
だから仕方なく、この木のてっぺんから連続テレポートで落下エネルギーを消費しつつ降りてきたところを毛野さんに会った、と」
「なるほどねえ……」
ユウキの勢いに若干気圧されつつも、毛野はその話を理解し納得の表情を浮かべる。
「さすがにあの坊やも、そう簡単には帰してくれないってことね……」
「ですね。それに私が帰れたとしても、仲間たちを置き去りにしていくわけにはいきませんし」
「仲間……。ユウキちゃんの仲間も、このふざけた話に巻き込まれてるわけ?」
「ええ、同好会の仲間が四人全員……。『も』ってことは、毛野さんの方も?」
「そのとおりよ。旅の仲間が三人、ね」
「知り合い同士を集めて殺し合えだなんて……。本当に悪趣味だわ! 絶対許せない!」
「まったくだわ」
毛野に負けず劣らずの美しい髪を振り乱して憤慨するユウキに、毛野も思わず同意の言葉を口にしていた。
「あなたもそう思いますよね、毛野さん! こんな殺し合い、私たちでぶち壊してやりましょうよ!」
「たしかに、それができるなら協力してあげたいけど……。何か当てでもあるの?」
「それは……」
毛野の的確かつ冷静な指摘に、それまで熱を帯びていたユウキの態度が一気に冷え込む。
「と、とにかくまずはこの島を徹底的に調査しましょう! 何か殺し合いを止めるための手がかりが見つかるかも!
いえ、きっと見つかります!」
「要するに行き当たりばったりってわけね……」
たまらず苦笑を浮かべる毛野。
「けどまあ、その心意気は買うわ。あなた一人じゃ危なっかしいし……。
しばらく一緒にいさせてもらうわよ、ユウキちゃん」
「本当ですか!?」
同行を受諾され、ユウキの頬がたまらず緩む。
「それじゃあこれからよろしくお願いしますね、毛野お姉様」
「あらやだ、お姉様だなんて」
「それなら……お兄様にしておきますか?」
「!!」
ユウキがさも当然のように放った一言。それは、毛野の美貌を凍り付かせるには十分な破壊力を持っていた。
「ゆ、ユウキちゃん……。まさかあなた、私が男だって……」
「ええ、気づいてましたよ? だって……」
小悪魔の笑みを浮かべながら、ユウキは言う。
「私も同類ですもの♪」
【一日目 深夜 F-3 世界樹の下】
【亜細亜堂ユウキ@CLAMP学園怪奇現象研究会事件ファイル】
【状態】疲労(中)
【装備】なし
【道具】支給品一式、不明支給品1~3
【思考】
基本:この島からの脱出。
1:島を調べて、殺し合いを止める手がかりを捜す。
2:研究会の仲間(高雪、光司、美冬、りおん)との合流。
※本編終了後からの参戦です。
※テレポート能力は制限により、島の外部へ移動することはできません。
【犬坂毛野@里見☆八犬伝】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】支給品一式、不明支給品1~3
【思考】
基本:殺し合いの中断。
1:ユウキに同行する。
2:他の犬士(道節、小文吾、信乃)との合流。特に信乃を優先。
※単行本6巻終了時からの参戦です。
前の話
次の話
毛野さん好きなので、密かに登場を待ってましたが……このオチはw
自分が漫画に疎いのも一因でしたが、このまま順当に組むのかな、などと思っていたので驚きました。
レアで面白そうなこのコンビ、ロワを通してどんな関係を築いていくか楽しみです。