日本橋人形町あたりーその壱

何をいまさら人形町、などとは思いますが、以前隅田川に
架かる永代橋、清洲橋などを取り上げたことがあり、その
時ついでに人形町あたりも「橋」とは別に取り上げてみた
いなあ、とは考えてはいたのでした。

ところが生来の無精のせいか、すっかり人形町のことなど
忘れてしまい、ただただ日々が過ぎ去ってしまったのです。

そうだ、この際重い腰を上げて書き出してしまおう、そう
すりゃ嫌でも書かねばなるまい、そうだ、そうだ。兎に角
書き出そう、と、まずは無理矢理一歩を踏み出すことに。

さて、ところで、人形町の何を書くか　？　

さあ、その辺は通りがかるついでに書く対象を決めるくらい
で、その都度思い付いてのお楽しみ、という程度としておき
ます。

かつて姉も浜町に住んでいたし、今も従兄弟が甘酒横丁に
住んでいる。ジイサンにはなったが同級生もまだいるはずだ。
馴染みの町だからネタはいくらでもある。急ぐ理由もない。

突然だが女優の花柳小菊さんをご存知だろうか？
戦前は日活、その後新東宝、戦後はもっぱら東映で活躍された
女優さんである。片岡知恵蔵や市川右太衛門とも良く映画に出
ていた。このあたりの花柳小菊さんを良く映画で見ていました。
当時は時代劇全盛で姉御肌や鉄火肌の役柄には欠くことのでき
ない女優さんでした。

何故この花柳小菊さんの名前を出すかというと、このひとの
住んでいた家を修復して日本料理屋さんになっているところが
人形町にある。

今回はここから人形町を垣間見てみよう。

人形町に出るには地下鉄だと日比谷線が良い。半蔵門線や
都営地下鉄もあるが、日比谷線の人形町だと、その名も知れた
甘酒横丁の角に出られる。甘酒横丁のことは次回に書くつもり
なので今回はパス。

日比谷線で北千住から日比谷方向に行く電車に乗るのなら
一番先頭の車両に乗る。人形町で降りて目の前の階段を上がり
改札を出て左の階段を上がる。そうすると甘酒横丁に出る。

この甘酒横丁の交差点を人形町三丁目の方に向かって歩く。

この一方通行の道が人形町通りで、この交差点のすぐそばに
親子丼で有名な鶏料理の玉ひでがある。昼はいつも行列して
並んでいるからすぐ分かる。
日本で初めて親子丼を考案したとされている名店だ。

この辺りは名店が多いからここでいちいち説明していると
長くなってしまう。いずれあとの機会で触れます。

この人形町通りをしばらく行くと左に大観音寺がある。この
脇を左に入ると、本当に小さな横丁がある。これが芸者新道、
あるいは小菊路地と呼ばれる、知る人ぞ知る粋筋の路地なのだ。
この路地に先述した花柳小菊さんが住んでいたからそれで小菊
路地と言う。何とも粋なネーミングではないか。

路地の右側に魚料理のよし梅がある。よし梅別館もあるが
店売りで角先にあり連続している。魚料理でもねぎま鍋が
特に有名である。

この路地は、入り込んだ時から京都あたりの裏路地を連想
させ、何やら艶やかさを思わせて昔の雰囲気を感じさせます。

ひっそりと営業している名店はこういうところに人目を忍ぶ
かのごとく柔らかく存在しているのですね。



右手によし梅を見て、次の道を横切って行くとまた似た様な
路地が続きます。この路地の奥が料理屋のきく家、そして
よし梅芳町店と並んでいます。ここは夕方になり暗くなり始めた
頃の雰囲気が何とも言えません。きく家さんは、どうでしょう、
一見さんでは無理かも知れませんが。大衆向きではありませんね。
接待なんかに良く利用されているようですが。

この芳町店が花柳小菊さんの家を改修して造られたものです。
よし梅自体も芸者さんの置屋を基にしてあります。この路地を
芸者新道、あるいは小菊路地と呼ばれる由来はそこにあります。

姪の友人に芳町で芸者さんをしているという娘がいる。だから
時折お座敷がかかるのかも知れない。こうした路地や横丁で
クルマ屋さんから降りる芸者さんの姿を一度見てみたいものだ。

人形町界隈では、暖かな異次元の趣を持つ、数少ない昔日の
香りを残している空間で、お気に入り路地のひとつです。