noriba-ba's garden

モロッコ旅日記9~アイト・ベン・ハッドゥで感じたモロッコの底力~

 

春のガーデンはひとまず小休止して 

久し振りにモロッコ旅日記を再開するとしよう。

 

今回は7日目の朝から。

前日の夕方に到着したワルザザートは

周囲にナツメヤシのオアシスが広がるカスバ街道最大の街。

前夜泊まったクラブハナンというホテルの中庭には

いつ誰が泳ぐのか…プールがあった。

朝、出発前に門の前からホテルの全景を写す。

 この日の目的地は世界遺産のアイト・ベン・ハッドゥ。

その途中に立ち寄ったのはシネマミュージアム。

いわゆる映画博物館だ。

ここワルザザートはモロッコの映画撮影の拠点都市で

CLAスタジオやアトラス・コーポレーションスタジオなど

現在5か所の映画スタジオがあるという。

郊外に出るとすぐの砂漠の中に建ち並ぶ巨大な映画スタジオ。

「アラビアのロレンス」「ナイルの宝石」「インディージョーンズ」

「クレオパトラ」といった数々の有名なハリウッド映画が

モロッコ各地のロケやこのスタジオのセットで撮影されたという。

今もここで映画撮影はされているようだが

広い敷地内には映画ファンの観光客のためのホテルもあり

まるで映画のテーマパークのようだ。(笑)

またここでモロッコの新たな一面を知る。

いったいどれだけの顔を持っているのだろう…。

さらにしばらく行くと、バスの窓から美しい村が見えてきた。

土褐色の家並みのところどころにブルーと赤茶色の

スモーキートーンの淡い色彩の家が点在し

今まで見たカスバ街道のどの村よりも生気を感じる。

カラフルなフェズの街とは好対照のくすんだ色合いの村。

私はこっちのほうが性に合ってる…。

そんなことを思いながら、車窓を眺めていると

突然目の前に現れた世界遺産アイト・ベン・ハッドゥ。

土作りの壁や砦が立ち並ぶ赤褐色の要塞都市だ。

ここからの眺めは実に壮観なのだが…

何とも異様な景色と雰囲気に圧倒され、心がざわつく。

しかしそこは世界遺産の観光地。

村の中に一歩足を踏み入れると、いつものように土産物屋が立ち並び

モロッコ土産の数々を並べて観光客を待っていた。

その様子にホッとしたのか、先ほどのざわざわ感もどこへやら…。

今にも崩れそうな足場の悪い岩山を登っていくと

先ほど渡ってきた橋とその下を流れる川が眼下に広がる。

気がつくとこの下にも土産物屋が…。(笑)

アイト・ベン・ハッドゥの中にある一般家庭の

ムサさんのお宅を見せていただく。

無造作に組んだ自然木の梁の上に藁をふいた天井。

土とわらを練り込んだ素朴な土壁。

そこに所狭しと飾られたモロッコの織物。

かつてここに住むベルベル人が使っていたかまど。

ここで煮炊きをしていたのだろう。

外に出ると崩れかけた土レンガの壁や木で

複雑に仕切られた資材置き場や家畜小屋があり

その中で一頭のロバが物思いにふけっていた。(笑)

建物と建物の間に迷路のように張り巡らされたこの細い道を

かつては大勢の人々が行き交っていたという。

時代の変化と風化により今は廃墟と化したこの大きな建物は

その昔、ここの城主が住んでいた屋敷跡だ。

その痛々しい姿を見ながらさらに上へと登って行くと 

ようやくアイト・ベン・ハッドゥの頂上に辿り着いた。

砦の上には美しい空が広がっていた。

さすが城塞都市と言われるだけあって

頂上の砦には敵を見張ったり撃退したりするための

大きな穴や岩石など様々な仕掛けが施されていた。

ひときわ興味深かったのはこの穴で

ここに人が落ちると数十メートル下の地面まで落下するという。

何と、罪人を懲らしめるための処刑穴だった。

さしずめ、落とし穴の刑といったところだろうか…。(笑)

アイト・ベン・ハッドゥの頂上からは

雪に覆われたアトラス山脈の素晴らしい景色が見えた。

かつてここで暮らしていた人々も

これと同じ景色を見ていたかも知れない。

いや、この大自然は当時と変わっていないはずなので

おそらく同じ景色を見ていたに違いない。

彼らはどんな気持ちでこの景色を眺めていたのだろう。

今の私とどこがどう違うのだろう。

そんなことをアレコレ想像していると

まるでタイムスリップしたような不思議な錯覚に陥る。

もしかして、ここでは

10世紀以上も時間が止まっているのかも知れない。


目まぐるしく変化するこの時代にあって

変わらないことは罪であり

変わらないと時代に取り残されてしまう…。

そんな強迫観念に囚われて

だから変わらなきゃ!とばかりに

時間に追われながら日々忙しく過ごしている

現代人、そして私たち日本人。

 

果たしてそれは本当なのだろうか。

変わらないと生き延びることができないのか。

変わることでしか人は幸せになれないのか…と

自分自身に問いかけてみる。

しかし、容易に答えは見つからない。

 

この何世紀も変わらない大自然を目の前にすると

こんなことでアレコレ悩んでいる人間が

何とちっぽけな存在かと思えてくる。

 

変わりたいものは変わればいい。

変わりたくないものは変わらなきゃいい。

誰が何と言おうと自分を貫けばいい。

そういうことさ。

アトラスの山々からそんな声が聞こえてきた。

いやいや、そう言っているように感じた。(笑)

  

アイト・ベン・ハッドゥの頂上で

10世紀以上経ても変わらない大自然の景色をもつ

このモロッコという国の

計り知れない底力を見たような気がした。

 

 続きはまた。 


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