limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 20

2019年05月02日 15時49分53秒 | 日記
「Y、助けて!あたしはYにだけ甘えて居たいの!他は嫌なの!」中島ちゃんは、僕の胸元に背中から潜り込んで震えていた。僕がそっと肩にてを置くと、180度振り向いて抱き付いて来る。2人共しばらく黙していたが「あっ、Yの心音が聞こえる。この音をずっと前から聞きたかったの。Yー、凄く優しい音だね。あたしはやっぱり離れられないよ。このY胸があたしの¨家¨だもの!」と言って顔を埋めた。「優しいかどうかは別だけど、僕の心拍数は人より遅いらしい。主治医以外の医者が聞くと大抵驚くけどさ」と言うと「それでも、あたしに取っては大事な場所に変わりは無いの。石川には¨考えさせて¨って言ってあるし、¨例の事¨はまだ何も告げて無いよ。Y、やっぱり無理なのかな?」「いや、無理とかじゃなくて¨石川本人がクリアしなきゃならない課題¨だからな。時期尚早ってところじゃないか?」「うん、そうだね。それまでは、Yのところが一番安全だからさ、甘えさせてよ!」彼女は背中に回した腕に力を込めた。「まだ、石川との¨付き合い¨には出せないな。僕の側に居ていい。離れるな。時間をかけて様子を見よう!傷だらけにはさせられない!」「うん、Yー、左手」と言うと180度振り向くき背中を向けて僕の手を胸元に押し当てる。「触っていいのは、この手だけ。あたしのぺチャパイはYのモノだよ」中島ちゃんはやっと落ち着きを取り戻しした。「さちに廊下の端まで飛ばされるな!¨不純異性交遊¨だって怒られそうだ!」と言うと「¨不純¨じゃないもの。あたしの意思でやってるんだから、さちと堀ちゃんにはあたしから言うよ!」と彼女は返して来た。「どっちにしても、¨例の事¨はみんなの意見と相談して対処しなきゃならない。石川本人だけで治めるのは無理だ!ここは1つ¨引っ掛け¨でもやるか!」僕は目算を立て始めた。「¨引っ掛け¨って何を企んでるのよ?」中島ちゃんが振り向いてもう一度抱き付いて聞く。「台本と役者と小道具がいるが、キッチリと¨落とし前¨を付けてやらんといかん。確か4人連名で来てたよな?」「うん、ご丁寧にカミソリも4枚入ってた。一体何をするつもりなのよ?」「¨手出しをしてはいけない相手に噛みついた¨事を教えてやるのさ。まずは、外堀を埋めてからだ!」僕の闘争心に火が付いた。「まあ、任せて。4人まとめて地獄へ落としてやる!」中島ちゃんを優しく抱きしめながら、僕は反転攻勢の決意を固めた。

3日後の放課後、僕はまず山本と脇坂を呼び出した。「悪いが、至急この4人の事を洗って欲しい。出身校、性格、クラスでの評判、背後関係、あらゆる視点から洗いざらい全部だ!」「分かりました。この4人なら悪評だらけですが?」「僕等にしても鼻つまみ者でしかありませんが?」2人は口を揃えて言う。「正確な情報が必要だ。我々が鉄槌を下しても問題にならないか?裏の裏まで調べあげろ!」僕は厳命を課して2人に調査を依頼した。「参謀長、原田からの伝言だ。¨存分にやってくれ!後始末は引き受ける¨だとさ。原田にしても早めに潰して置きたい相手らしい。随分と羽振りがいいらしくて、原田も¨排除¨に手こずってる。¨丁度いいから好きな様にしてくれ!¨と頼まれたぐらいだよ」伊東が珍しく笑っている。「そうか、これで後顧の憂いは無くなったな。竹ちゃん、筋書きは?」「どこまでやるんだ?ただの¨呼び出し¨じゃあねぇだろう?泣かせるに留めるか?もう少し踏み込むか?」「裏ではかなり¨悪どいマネ¨をやってるらしいから、¨チビる寸前¨まで追い込んで見よう。手加減は無用だよ!原案はどこまで仕上がってる?」「赤坂と有賀が清書して台本を作ってくれてる。半分は仕上がってるぜ!後はどう転ばせるか?思案中ってとこさ!」「参謀長!出だしのパートなんだけど、あたし達は何処まで追及すればいいの?」千秋が聞いて来る。「なるべく手厳しく始めてくれ。最初からビビらせなくては意味が無い。泣かせても構わん!」「OK、あたし達が¨斬り込み隊¨だから、手加減なんてしないわよ!」千秋のグループが練習に励み出す。「参謀長、当日のメイクだけど¨目力¨を強調する感じで行くわ!こんな感じでどう?」千里がモデル役のメイクを見せる。「さすがだね!これで行きましょう!メイクにかかる時間は?」「10分もあれば。3人同時にかかるから手間は取らせないわ!制服のスタイルも考えてあるわ」千里が自信を覗かせる。「あたし達に¨噛みついた¨借りは3倍にして返してやるわよ!」千里のセリフに千秋達も頷く。「参謀長、西岡達の報告だ!聞いてくれ!」長官が呼んでいる。「背後関係は何が出ました?」「大きなバックは付いてないみたい。1期生も2期生にも兄姉関係者は確認されなかったわ。4人に中学時代の接点も特に無し。¨カネ¨でまとまってるだけみたい。だから、予め離反させられれば簡単に崩れるわ。4人の内、2人は事前に楔を打っておけば¨餌に釣られて寝返る¨可能性が高いわ。¨配当金¨の額に不満を抱いているし、いわゆる¨足抜け¨の機会を伺っている気配が見える。残りの2人を糾弾すれば¨空中分解¨へ追い込めそうよ!」「¨カネ¨の管理はどうなってます?」僕は突っ込んで聞いた。「帳簿の様になモノは無いらしいの。でも、ヘッドの子の手帳には¨集金額¨と¨配当金¨の額の記載があったわ。コピーはこれよ」西岡は数枚のコピー用紙を差し出した。「これを手に入れた経緯は、聞かない方がいいな。スパイ大作戦だろう?」「ご明察!ちょっと借り受けただけ。気付かれない様に戻してあるから、ご心配無く。使い道は¨豪遊¨らしいの。派手に使い込んでるわよ!現場の写真はこれ。滝君から預かって置いたわ。ちなみに、彼は今日も張り込み中。引き続き4人を追ってるわ」「これで¨通報¨に際しての証拠は揃ったな。参謀長、¨本番¨の後に¨通報¨をしてくれ!根こそぎ斬り倒してしまおう!」「はい、そちらは話の持って行き方だけですね。西岡、楔を打ち込むタイミングと水面下での¨折衝¨の手筈は任せる。餌は¨退学か謹慎かの2択¨で落として見てくれ。2人を釣り上げられれば¨本番¨の展開が楽になる」「了解!目星は付いてるから、向こうから食い付いて来るはずよ!じゃあ、早速釣り上げにかかるわ」と言うと彼女達は動き出した。教室の隅では、久保田と今井が¨殺陣¨の稽古を付けているし、その他にも¨セット¨の図面を手に机の配置やドア閉鎖の手順を確認中の連中が居る。「まさか全員が¨乗る¨とは思わなかった。僕等の内々で済ませるつもりが¨これ¨だからなー。悪乗りしなきゃいいが?」僕は改めて教室を見渡してぼやく。「まあ、ある種の¨必然性¨はあるさ。例え、個人に送り付けられたモノでも、¨俺達全員¨に牙を剥いたんだ。¨相応の報い¨は受けてもらう!全員がそう認識したから、誰かに言われなくても自主性を持って動く。今まで長官や参謀長が陰でどれだけ¨血を流して来たか¨を知ってるからこそだよ。ほれ、台本の中間まで仕上がった。一応、眼を通してくれ!」赤坂が肩に手を置いて言う。あれから3日、色々な出来事があった。中島ちゃんと部屋を出てから¨大根坂¨を帰る道すがらに、僕は¨反転攻勢をかける¨意思を示した。「カミソリを4枚もご丁寧に送り付けられて、引き下がるつもりは無い!中島ちゃんの恐怖をそっくり倍返しにしてやる!」「でも、Yどうするのよ?生半可な手は通用しないよ!」さちが諌め様とする。「相手が悪すぎます!参謀長と言えども¨無傷¨では済みませんよ。どんな手があるんです?」石川も懸念を示した。「例え、傷だらけになろうとも、今回は我が手でネジ切ってくれる!¨噛みついた相手¨が如何に恐ろしいか?を思い知らせてやるんだ!」僕は湯気を立てていた。「参謀長、今回の件だがK査問委員会へかけちゃどうだ?俺としても腸が煮えくり返えってるんだよ!こんな、なめた真似しやがって!俺だって“タダで済ませる”つもりはねぇ!」竹ちゃんも湯気を立てていた。「そうよ!これはあたし達全員に突き付けられた問題よ!査問委員会で検討すべきだわ!」道子も湯気を立てている。「だが、これは僕等のグループでの問題だよ!クラスを巻き込む訳にはいかんだろう?」と僕が言うと「徹底的に叩くなら人手は多い方がいいし、荒事抜きでは無理だ!たまにはクラスのみんなを頼ったらどうだい?」と竹ちゃんが諭すように言う。「うーん、確かにそうだが、みんな乗ってくれるかな?」「乗る、乗らないは別にして、見解だけでも聞いて見たらどうだ?」竹ちゃんの言葉には妙な説得力があった。「分かった、査問委員会に上程して見るか?竹ちゃん明日、開催してくれるよな?」「了解だ!こんなふざけた真似しやがって、みんなも考える事は同じだと思うぜ!」こうして事は翌日の査問委員会にかけられた。結果は意外にも“全員一致”で反転攻勢に同意したのだった。「問答無用!最低でも倍返しにすべし!」と長官が言うと「今回は俺達の出番だ!総力を挙げてかからなくてはクラスの面目が丸潰れだ!」「ガキのくせにふざけた真似は許さん!」と伊東と久保田が燃え上がり「これは中島さんだけでなく、クラスの女子全員に突き付けられたと同じ事。見てなさい!切り刻んでやるわ!」と千秋も臨戦態勢を口にした。「手痛いしっぺ返しをお見舞いしてあげるわよ!衣装と小道具なら何でも揃えて見せる!」と千里も炎上した。「参謀長、本件は我々のクラスの威信を賭けた闘いにする!全員に協力を仰ごう!」と長官がキッパリと言い切った。そして、放課後に臨時のクラス会が開催され、竹ちゃんと長官から本件が説明されると、またまた“全員一致”で反転攻勢にかかることが決まった。「塗られたドロを拭いてやれるのは僕達しか居ない!みんな、出来る事でいいから協力してくれ!」と赤坂が珍しく言うと「“殺陣”は俺達が指導するし、実際にやってやる!今までの恩返しだ!参謀長、荒事は俺と久保田に任せろ!」と今井も乗った。「やっと恩を返すことが出来る!何でも調査するから言いつけて!」と西岡が言うと彼女に賛同する者達が手を挙げた。「クラス全員でやろうよ!4人の女達に眼にもの見せてやろうじゃない!」と有賀も乗った。こうなると全員が雪崩を打って賛同した。「筋書きは俺が描く。それを台本にするは、赤坂と有賀。“殺陣”は今井と久保田で担当してくれ。西岡は早速4人の“背後関係”を調査。千秋は“斬り込み隊”の指揮を、笠原は衣装とメイクと小道具を担当してくれ。総監督は長官に任せて、参謀長は全体のコンサルトと情報関係の指揮を執ってくれ。いいか!根元からぶった切る!俺達の力を示す格好の舞台だ!みんな、頼んだぜ!」竹ちゃんが宣言すると全員から拍手が沸き起こった。こうして、各パート毎に準備が進められて2日あまり、おおよその目安が立ち始めていた。「よーし、台本はOKだよ。明後日に“通し練習”に持ち込めそうかな?」「心配するな!俺達の底力を見せてやる!伊達に昨年、1年通して戦って来た訳じゃないんだ!尻に殻を付けた雛鳥に何が出来る?獅子白兎でやれば4人全員“停学”へ真っ逆さまだよ。じゃあ、コピーを回して置く。読み合わせにかからせよう!」赤坂は微笑みながらコピーを取りに行った。「こりゃ本気で叩き潰すつもりだな。誰も手を抜かずに。“チビる寸前”でとめられりゃいいが・・・」居残りもいとわずクラス全員が燃えていた。

その日の帰り道、竹ちゃんが「参謀長、最後の筋書きだが“成り行き任せ”にするぜ!どの道展開は追及の仕方で変わる。落としどころは“その場の演目次第”でどうだ?」と聞いて来た。「そうだな、転び方は無数にあるから、流れに任せて突っ走るか?」と僕は同意した。「あたし達は何もすることは無いの?」堀ちゃんが言うが「参謀長のバックで見てりゃあいい。ただ、笑ってるなよ!因縁付ける様に睨んでりゃいいんだ!中島は千秋の指示に従って動けばいい!」「うん、でもこんな大事になるなんて・・・」中島ちゃんは戸惑い気味だった。「小雀共を黙らせて、使途不明金を使い込んだ報いは受けてもらう!これは、3期生のためでもある。性根の腐ったヤツらは今の内に叩き潰さなくてはならない。今やらなきゃ被害は拡大するだけだよ。学校側にしても、そろそろ“目障り”に感じてるはずだから、丁度いい機会だと思うがね!」僕は中島ちゃんの肩をポンと叩いて言った。「そうよ!健全な学生生活を送らせるためにも、悪は叩いて置かなくちゃ!Yそうだよね?」道子が同意を求める。「ああ、形はどうあれ悪は許さない!自らの“豪遊”のために“集金”する様なヤツらは、学生足る本分を見失った“寄生虫”だ。石川達を救う意味もあるから、今次作戦は僕等の名誉と3期生を救済する重要な舞台でもある。事の大小は最早関係ないんだ。しかも、全員が“自らの意思で乗った”んだ。たまには、みんなの力も借りてやるのも悪くない」僕は不敵な笑みを浮かべた。「お仕置きの舞台としては、最高のキャストが揃った訳だから、今更止めるのは無粋だわ」さちが中島ちゃんの肩を抱く。「石川、お前達がやりやすい様に仕向けてやる!クラスをまとめるのはお前達の力量次第。確固たる基盤を作れ!」僕は石川に厳命した。「はい!先輩方のご努力は無駄にしません!」石川も気持ちを引き締めていた。「それと、4人の始末だが、我々に腹案がある。学校側の処分が決まったら知らせるが、クラス内で孤立させる真似だけはするな!反省して戻った者達は暖かく迎えてやれ!」と釘を刺すのも忘れなかった。石川は黙して頷いた。「策は講じた。演目も決まった。後は落とすだけでいい。竹ちゃん、歴史に残る舞台にしようぜ!」「ああ、記録にも、記憶にも残る舞台にしてやる!」僕等はガッチリと握手を交わした。

翌日の朝、山本と脇坂が報告に来た。「出身校、性格、クラスでの評判、背後関係、あらゆる視点から洗いざらい全部を調べましたが、背後関係は特段問題となる要素は出ませんでした。出身校はバラバラですし、中学時代に接点もありません!」「トップの女は外面だけはいいんですが、自己中心的で驕慢な性格です。我が世の春を謳歌すべく、他の3人をこき使って“集金”に励んでます。この2人は中学時代それなりにワルでしたが、今は“足抜け”を本気で画策してますね。性格的にはワルの仮面を被ってますが、内心は小心者です。4人に共通しているは“極めて評判が悪い”って事です!」「各担任も眉を潜めてますが証拠が揃わないので、手を下すのをためらってます。我々としても尻尾を掴みたいところではありますが、巧妙に隠蔽してますから手の打ち様がありません!」2人共悔しそうに報告を上げた。「ご苦労だったな。こちらで叩いても“苦情”が来る心配は無さそうだな。向こうは何も知らんのだろう?」僕が尋ねると「4人共何も知り得ていません。ご安心を!」と答えが返って来た。「よし、後は“決行日”の在否確認だけだ。追って連絡するが、それまでは監視を怠るな!悟られぬ様に網を張れ!」「了解です!」2人が引き上げると「Y-、ちょっといい?」と中島ちゃんが廊下に僕を連れ出した。僕の胸元に背中から潜り込むと「あたし、石川に返事をしたの。“1年待って”って。そしたらアイツ“先輩の心が落ち着くまで待ちます!”って言ったのよ。これで良かったんだよね?」「中島ちゃんが納得したなら、それでいいじゃん!石川もやるべき事は沢山ある。全てをクリアしたアイツがどれだけ成長したかを見定めてから、考えればいい」と僕は返した。「Y、ここにもう少し居させてよね。あたしの“家”はYの胸元なんだから」と言うと180度向きを変え首に腕を回して、背伸びしつつ頬に唇を押し当てる。「こら!さちに廊下の端まで飛ばされるじゃないか!」と言うと「その時はちゃんと手当てしてあげる!あたしはここで甘えたいだけ。他は嫌なの」と真顔で言った。「分かりました。さちや堀ちゃんや雪枝と仲良くしてくれよ。4人共ここが“家”らしいからさ」と言って僕は中島ちゃん唇に指で×印を作る。「勿論、今まで通りにするからさ。たまには、あたしの自由にさせてよ!」と彼女は屈託なく笑う。やっと中島ちゃんの顔に笑顔が戻った。「Y-、さちに廊下の端まで飛ばされるよー!」と言って雪枝が出て来る。手には新品のチェーンを持って。「割と太めのロングなヤツを見つけたの。試着して見てよ!」雪枝も背伸びをしてネックレスを外しにかかる。長さは充分に行けそうだった。「新品のチェーンが届いたところで、また鈴を増やすぞ!」さちが新たなペンダントを持ってやって来た。「大人しくしておればよい。“廊下の端”ではなく壁を突き破って外へ放り出すぞ!」さちの眼が吊り上がっている。どうやら“見られた”らしい。さちが付けたのはビンクの小さな石だった。「これで4つか。バランスが悪いから2つに分けよう!雪枝、ダブルでチェーン付けてやってよ」「うん、どうもそうした方がバランスはいいね?」「配色を考えると、さちが持って来たピンクのヤツと、このグリーンの石をセットにしない?」中島ちゃんが提案をしつつ、全体のバランスを考えだす。「ちょっと待った!これも加えてよ!」新たなペンダントを持って堀ちゃんが飛んでくる。「また、おっぱじめやがったな!」「ええ、でも主導権を争ってる訳じゃないから、まだいいけど」竹ちゃんと道子がドアの陰から見つつ言う。「あの4人の前じゃ“鬼人の参謀長”も形無しだよな」「Yをおもちゃにしてる余裕があるのは、いいんじゃない?」2人は苦笑しながら僕等を見つめていた。

昼休み、西岡から新たな情報がもたらされた。「長官、参謀長、2人の“吊り上げ”に成功したわよ!舞台での裏切りに同意したわ!」「そうなると、証拠の手帳の押収にも手を貸すと言う事だな。よし!これで根こそぎ叩き切れる!」長官が安堵する一方で「西岡、裏切った2人の“救済策”は考えてあるよな?」と僕は念を押して見た。「勿論、考えてあるわ。あたし達の下部組織の一員に加える予定だし、サポーターも決めてある。処分明けに孤立しない様に手は尽くしてある」と返して来た。「3期生にも“処分明けには暖かく迎えろ”とは言ってあるが、バックアップを宜しく頼むよ。残る2人の処分は重くなるだろうから、結果を見てから考えるが、いずれにしても我々の傘下に収めてしまおう。そうしなくては“3年間は後ろ暗い生活”を送るハメになる。使える駒を拾ってやらねば人の道に外れる」「そうね、あたし達もそうやって救われた。それがどれだけありがたい事か身に染みて知っているからこそ最善を尽くす。参謀長、鬼の顔より仏の顔の方が似合うわよ」西岡がからかって来る。かつては敵対していたとは思えないやり取りだ。だが、今は自然と言葉が出て違和感も無い。「鬼か仏かは別にして、“通報”の仕方と処分の付け方をこれから考えなきゃならない。さすがに“執行猶予”は無理だが、短期の“謹慎”と長期の“停学”に落ち着かせる方法をどう捻り出すか?」「いずれにしても“初犯”だ。持って行き様はあるだろう?当人たちが真摯に反省する意思を示せば、軽くするのは容易だろう。舞台で“反省文”でも書かせるか?」長官は言う。「それでは弱い。“上申書”を提出させるのが最善では?“行いを認めて学校側の意思決定に従う”と書かせるんです。その上で手を回す。“翻意しない”と表明させなくては校長も折れないでしょうよ」「うむ、校長とやり合っただけに、向こうの考えも想像が付くらしいな。ならば、“上申書”も作ってしまおう!署名だけ入れられる様に文面を考えればいい!」「しかし、誰が作業します?もう手一杯ですよ?」実際、僕の手には負えないくらいのスケジュールが組まれていた。この後も予定は入っている。「あたしが考えて見るわ!同じ立場に身を置いた経験からして、どうすれば効果的かは想像が付くから」と西岡が申し出た。「余り時間は無い。一発勝負で書き上げてくれ!文面は任せる!」僕は彼女に一任を決めた。「明日までに仕上げてくれ!推敲はワシか参謀長が見る。直ぐに始めてくれ!」「了解!さあ、文章を練るわよ!」西岡が一団を連れて出て行くと、有賀がやって来た。「台本が仕上がったわ!各パートの読み合わせが始まってるの。2人共来てくれない?」「よし、参謀長行くか?」「ええ、大車輪でやりましょう!」僕等は教室へ向かった。

そして、舞台の幕が上がる日が来た。僕は朝一番に石川、山本、脇坂を呼んだ。「いよいよ本番の幕が上がる!君達の使命は4人の下校を阻止して“連行部隊”の到着を待つ事と各クラスの正副委員長を集める事だ。石川、直ぐに各クラスへ手を回せ!山本と脇坂は万が一に備えて人手を集めて待機するんだ!問題が発生したら力づくで抑え込め!4人が揃ってこそ意味がある。こっちの舞台に出演させるまで足止めしろ!」「了解!」3人が合唱する。「今日を持って潮目が変わる。お前達にとってもやりやすい形へ持って行く。だが、このチャンスをモノに出来るか?はお前達次第だ。心してかかれ!」「はい!」3人は勇んで東校舎へ戻って行った。朝のホームルームが終わると、今度は竹ちゃんの出番だった。「いよいよ上演する日が来た!俺達の意地と名誉を賭けた一大プロジェクトだ。みんな!頼りにしてるぜ!」「おう!」掛け声が勇ましい。「放課後、最初にメイクに入るのは西岡達“連行部隊”からだ。次が千秋達。笠原、手際よく頼む。今井達は竹刀の入手を忘れるな!だが、脅し以外には使うなよ。真理子さん達は証拠品の最終チェックを。赤坂と有賀は進行の確認を。長官と参謀長は全体の統括を。伊東はもう1度原田に確認を取ってくれ。1つでもオチの無い様に準備を進めてくれ。開演は午後3時35分!盛大におっぱじめるぜ!」「おう!」クラス全員が雄叫びを上げた。5時間目が終わると動きが慌ただしくなった。笠原達が西岡達に“ベースメイク”を始め。舞台係が図面を手に教室内の机と椅子の移動手順を確認しだす。小道具も集められ教室の片隅にさりげなく置かれた。千秋達“斬り込み部隊”は着替えに急いだ。「いよいよだな。各パート毎異常は無いな!」長官が確認を入れ始める。僕も個別に進捗状況の把握に努めた。「参謀長!」山本と脇坂が飛んで来た。「予定通り。異常ありません!」「よし!絶対に逃がすな!集合を申し渡した者には速やかに出頭する様に伝えろ!」「分かりました」2人は脱兎の如く戻って行く。「長官、向こうは予定通りです!」「こちらも予定通りだ。抜かりは無い!後は落とすだけじゃ!」「Y、いよいよだね」中島ちゃんが言う。「ああ、万事予定通りだ。みんなもしゃれ込んでくれよ!」僕は4人を順に見渡した。さちをリーダーにしてレディ達もメイクに余念がない。「参謀長、上手くタイミングを計ってくれ!台本はあるが、アドリブ勝負になる。押すか?引くか?合図はその都度送ってくれ!」竹ちゃんが言いに来る。「了解だ!主役が到着したら直ぐに始めよう。久保田達にもアドリブで動いていいと言って置け。結末は成り行き次第だ!」「おうよ!総合プロデュースは任せた!」6時間目を告げるチャイムが流れ出す。この授業が終われば開演である。クラス初の総合芸術祭まであと少し。心地よい緊張感と共に授業は始まった。“舞台は整った。上手く落ちるがいい”東校舎にいる当該者4名は、まだ何も知らなかった。