「お話にもならない!何度も¨警告¨したはずだ!それを今頃になって¨卓袱台返し¨だと?僕は降りる!原田、後は誰かを勝手に据えてくれ!」そう言って、僕はミーティングの席を立った。「Yが怒るのも当然だ!¨総合案内兼駐車場係¨の計画は、俺や丸山先生とY達が激論の末に組み上げたモノだ!白紙撤回などあるものか!原田!伊東!俺も降りるぞ!」佐久先生と丸山先生も席を立った。「まっ待って下さい!¨白紙撤回しろ¨とは言っていません!5人、いや1人でもいいから、伊東に協力をして欲しいのです!」原田は、僕達の剣幕に慌てて引き留めに来る。「問答無用!僕は降りる!¨白紙撤回¨させられるなら責任は持てないし、義理も無い!総本部の誰かに任せな!」原田の手を振りほどくと、僕は生徒会室を出た。「Y、待ってくれ!誤解だ!¨白紙撤回¨しろとは言って無い!」原田が追い縋って来るが、構わずに廊下を進む。「Y、待ってくれ!話を聞け!」原田は、強引に僕の腕を掴むと壁に追い込んだ。「警備員が足りないんだ!5~10分でもいいから、手を貸してくれないか?頼む!」原田は珍しく頭を下げた。「会長、僕は事前に10回以上は確認を入れた!その度に伊東は¨問題無い!¨と答えた。与えられた戦力で切り抜けられないなら、人員配置や計画その物を見直してから、¨何人がこの時間帯に足りない¨と言わせろ!闇雲に¨手が足りない¨と喚かれても、こっちも困るんだよ!ウチだってギリギリで切り抜ける算段をやってるんだ!」「分かってる!分かっているよ!とにかく、人を貸してくれないか?」原田は、どうしても¨人員を回せ¨と譲らない。「決裂だな!1人たりとも戦力を割く余裕は無い!どうしても¨出せ!¨と言うなら降りるしか無い!悪いが他を当たってくれ!」僕は原田の手を振りほどくと、本部へ戻った。「佳奈に指揮を任せるか?早いに越した事は無い」僕は¨責任者¨の椅子を明け渡す覚悟を決めた。
そもそもの発端は、昨日の¨クローズ作業¨に散々手こずった事から始まった。警備担当の伊東が全く人を出さなかったのが原因で、作業は遅れに遅れた。最後は僕も校内巡視をやって、完全閉鎖が完了したのが18:00だったのだ。予定から1時間の遅延で、各方面からの非難や苦情は総本部に集中した。驚いた原田が伊東を問い詰めると¨人員が足りない¨と言って泣き付いたのだ!そして、今朝の関係部署ミーティングで¨警備員の増員¨を原田が言い出したのだ。¨責任者¨席の回りを片付けていると「Y、ちょっといいか?」と佐久先生がやって来た。「¨親父¨が決断した!Y、お前達は¨校長の指揮下¨に入れるそうだ。従って、生徒会は最早関係無い!本日は¨来賓¨も見えられる。打ち合わせを開会前にしたいそうだが、やってくれるな?」「そう言う事なら、喜んでやらせてもらいます!」「うむ、原田には俺から言って置く。お前達は、校長から指揮権を委任された組織だ!厳しいだろうが全力で立ち向かえ!」「イエス、サー!」僕は敬礼をして答えた。「参謀長、済まぬが手を貸してはくれぬか?」長官が恐る恐る言いに来た。「山岡、Y達はたった今から¨校長の指揮下¨で行動する!生徒会とは関係無い¨独立した組織¨になった!泣き落としなんぞには乗らんぞ!」佐久先生が睨みを効かせる。「伊東を助けてくれぬか?後生だ!」長官は何とか譲歩をさせようと粘る。「伊東が来るならまだしも、お前に泣き付いた性根が気に食わん!これは¨親父¨が決めたのだ!文句があるなら、¨親父¨に直談判して来い!!」佐久先生の雷が落ちた。僕達と佐久先生と丸山先生は、ギリギリまで話し合いをして、計画を練り上げたのだ。原田の¨一言¨で吹き飛ばされたら、先生達も面目を失うし¨炎天下¨で活動するメンバーの体力を奪う危険は避けなくてはならない。特に今日は、公開時間も長く来賓の来校もある。出だしから¨フル回転¨をさせる予定なのだ。助けてはやりたいが、戦力を割けない明確な理由がある以上、¨責任者¨としては非情な答えを出さなくてはならなかった。「長官、無理なモノは無理ですよ。我々は、校長の下に組み込まれたのです。原田や伊東が何を言っても校長が承認しなくては動けません。諦めて下さい!」僕は深々と礼をして断った。「山岡、¨親父¨を説得して来い!そして、伊東自らが交渉に来る様に言え!大体、配置や計画に穴があるからこうなるんだ!Yの様に緻密な策を裏の裏まで巡らせてあるのか?後生云々の前に、見直してから来い!」佐久先生は¨沸騰¨して湯気を立てた!¨人間装甲車¨が突進すれば、長官はひとたまりも無い。なす術無く引き下がるしか無かった。「おっと、¨委嘱状¨を渡すのを忘れていた。¨親父¨がさっき書いたヤツだ。¨金字牌¨とセットで持っていろ!これでも、あれこれと言って来るだろうが、この2通さえあれば天下無敵だ。俺も力は貸してやるし、生徒会を介入させない様に手を打つ!後は、打ち合わせ通りにやればいい。お前の思う通りにしろ!」¨委嘱状¨を受け取ると、佐久先生は僕の肩を叩いて、言い聞かせる様に言った。「はい、存分にやらせてもらいますよ!」「頼んだぞ!」佐久先生は、西校舎に向かった。入れ替わる様に、さちや西岡や山本、脇坂、上田が現れる。「おはようございます!参謀長、どうされました?」西岡達が怪訝そうに顔を覗き込む。「全員に伝える事がある!我々は、新たな1歩を踏み出す!速やかにメンバーを召集してくれ!」「新たな1歩ってなに?」さちが小首を傾げる。「まさか¨昨日の件¨が絡んでるんですか?」上田が手で口元を覆う。「原田とは¨決別¨した。我々は、自力だけで事を進める必要性に立ち向かう!」僕は前だけを向いて言った。
メンバーが揃うと、僕は今朝のミーティングであった事を¨ありのまま¨に伝えた。「原田は、¨人員を割け!¨と言うばかりで具体的な事は、何1つ示さないままだった。故に、僕は席を蹴り原田を振りほどいて¨人員は割けない!¨と言って来た。そして、佐久先生の計らいで僕達は¨校長の指揮下¨に入った。佐久先生も丸山先生も原田を見限った。生徒会は最早関係無い!¨総合案内兼駐車場係¨は、独立した組織となったのだ!もし、¨立場上で問題がある¨と言う者は、遠慮無く抜けて構わないし、意見のある者は正々堂々と言ってくれ!」僕は一同を見渡した。誰も微動だにしない。「Y!異議など言う者など居ないし、昨日の事を勘案すれば、俺達が仕切った方が事はスムーズに運ぶ!みんな!やってやろうぜ!」坂野が声を挙げると「おー!」と歓声が上がった。「参謀長、あたし達は何処までもお供します!」遠藤も続いた。「Y、あたし達も付いてくよ!」さち達も頷いた。宮崎がラジカセの再生ボタンを押した。「ズンズン、チャ!ズンズン、チャ!」¨WE WILL ROCK YOU ¨が流れ出した。「みんな!原田の意のままになんかならんぞ!俺達は誇りを賭けてやり抜いてみせるぜ!」「Yes!」「俺達は仲間だ!誰も逃げ出したりしねぇぞ!」「Yes!」「じゃあ、今日も宜しく!」「Yes!」宮崎と坂野が気合いを入れて、合唱が続く。全員が原田に¨NO!¨を突き付けたのだ。曲が終わっても、みんなノリノリで肩を組んで叫び続けた。「ふふふふ、良い雰囲気じゃの!」校長が笑顔で歩いて来た。「全員整列!気をつけ!」僕が慌てて言うと「かしこまらんでも宜しい。Y君、¨来賓¨の出迎えの打ち合わせに来た。来校は、午前9時半。昨年同様の配置で構わん。練習に入れるかな?」「はい!上田、遠藤、メンバーを配置に!」「みんな、行くわよ!」上田の号令一下、女子のメンバーが並んで配置に付いた。山本と脇坂、さちと僕も続く。練習が始まると、校長から細かな修正指示が出され、繰り返して体に叩き込まれる。立ち位置や礼の角度などの所作は、1年生を中心に繰り返しての練習が行われた。その最中に「参謀長、会長から内線です」と西岡が飛んで来た。「叩き切れ!ついでに、ジャックを抜け!今は、校長先生直々のご指導の最中だ。ヤツに用は無い!」とキッパリ言うが「火急の知らせだと言ってますが?聞いて置きますか?」と言う。「聞くだけはな。答えは¨NO¨だがな。用件が済んだらジャックを抜け!」と改めて言い渡す。そうこうしている内に練習が終わった。「良いだろう。上出来だ!Y君、この調子で頼むよ!」と校長は、にこやかに言った。「承知しました。みんな!頼んだぞ!」「はい!」参加する女の子達が合唱した。上田達は、1年生に繰り返し所作を教えて居る。この分なら問題は出ないだろう。「生徒会長が何を言って来ても¨従う¨必要性は無い!君達は、私が預かった。職員同様、私の権限で動いてもらう。最も、ここはY君の¨牙城¨だ!君の判断で適宜かつ臨機応変に対応策を取って構わない。煩くなったら、信雄を送り込むから安心して居なさい!」と言うと校長は満足そうに一旦引き上げて行った。「西岡、会長は何を言って居た?」「はい、¨午前と午後の初めに4人足りないから、人を貸してくれないか?¨と言ってました」「捨て置け!総本部には、¨涼しげにしてる閣僚¨がごまんと居る!ヤツらを動員すれば事は足りるし、何も問題は出ない!内線のジャックは抜いたか?」「はい、抜いてあります」「ならば、そろそろ動き出すか?山本、本日の第1陣を召集してくれ!脇坂、チャンネル17にセットして、コールを開始しろ!」「了解です!」2人の声が重なる。「佳奈、今日の指揮は君が執れ!補佐は僕が引き受ける。“責任者”の席へ!」「えー!あたしが?!無理ですよ!」佳奈は尻込みをするが、「今から慣れて置かないと、来年が大変だぞ!僕が居る内に経験を積んで置け!」と有無を言わさずに指揮を任せる。「参謀長、第1陣の集結が完了しました!」「無線機の確認OKです!」山本と脇坂から、報告が来る。「よし、佳奈!出動を命じろ!」「今野先輩、出動願います!」「おう、行ってくるぜ!Y、原田に気を付けろよ!」「ああ、そっちは任せろ!適当にあしらって置くさ。指揮権も上田に譲ってあるしな」僕は薄ら笑いを浮かべた。「ともかくも、原田は簡単には引き下がる事はしないヤツだ。¨人を貸せ!¨と連呼して来るぜ!」今野は心配して言う。「最後は、佐久先生に抑えてもらうさ。¨背負い投げ¨を食らうのが落ちだろうよ!」「だといいが、ヤツの思考は¨単細胞生物¨みたいなモノさ。思い込んだら¨うん¨と言うまで引き下がる事は無い。お経の様に繰り返し襲って来る!それを忘れるな!」今野は、そう言ってから炎天下へ向かった。いよいよ、2日目が始動し始めたのだ。
今野達を送り出した直後、僕は石川を呼んだ。「佐久先生に¨原田がまだ人を貸せ!¨とゴリ押しをして来ていると伝えて来い!ヤツを止めなくては、我々の任務に支障が出かねない!¨原田を黙らせて下さい¨と談判して来るんだ!」と命じた。「はい、お引き受けしますが、こんな大事なお役目が僕で大丈夫ですか?」石川がやや不安そうに言う。「とにかく行って来い!来年は否応なしに動かなきゃならん立場だぞ!僕が居る内に¨練習¨だと思って行くんだ!」僕は、石川の背中を叩くと佐久先生の元へ使いに出した。その直後、憔悴しきった伊東と千秋が、長官に連れられて保健室へ入った。「Y、行ったか?」石川が佐久先生を連れて戻って来た。「ええ、¨予定通り¨ですよ。これで原田は、自ら陣頭指揮をせざるを得ない状況になりました。¨本丸¨は、がら空きでしょう!」と僕が言うと「¨親父¨との談判は不調に終わった!益田や小池達が不平を言いながら、原田と共に配置に向かった。総本部には誰も居ないし、ヤツとの¨密約¨もこれで終わり。万事¨予定通り¨だな!」と佐久先生も満足そうに言う。「あのー、どう言う事なんです?」上田と石川が怪訝そうな声を挙げる。「まさか原田も、ここまでは“読み”が回らんだろう!自ら蟻地獄に落ちるとは思っても居ないはずだ!これで秋の“大統領選挙”を有利に戦える!己が作った“規則”で首を絞めるとは考えてもいないだろうよ!伊東と千秋も“隔離”出来たし、後は僕等で切り盛りすればいい!ですよね?!長官!」「うむ、これほど上手く事が進むとは思っていなかったが、益田と小池達を離反させられる理由は作れたな。3年生の票が割れれば、2年生が有利になる!原田の“亡霊”が当選する確率は下がった。“太祖の世”に復するための第1歩だな!」長官が重々しく言う。「上田、石川、原田が4月に改正した生徒会会則を思い出してみろ!」僕が2人に問いかけた。4月に原田が行った改正で、僕達3年生も秋の“大統領選挙”への投票権を得ていた。そして、1年生からも立候補を認める事になったのだ。これは、“原田後”に向けた布石に他ならなかったが、数の論理で行けば接戦かつ僅差で1年生候補が勝つ可能性が出ていたのだった。会則の改正に対しては、教職員からも批判が上がったのだが、原田は強引に押し切って改正に漕ぎ付けてしまったのだった。それから2ヶ月半、僕等と先生達は水面下でずっと対策を考えて来たのだ。その結論が“向陽祭”での“卓袱台返し作戦”だったのだ!「そんな深慮遠謀が隠れていたのですか?」石川が驚愕しながら言う。「驚く事じゃない!“悪しき事”は残せない。お前達に後の世を託すには、原田体制を徹底して破壊しなくてはならん!これは、その第1歩さ!」「しかし、長官も参謀長もお立場が悪くはなりませんか?」上田が心配して言う。「“向陽祭”は原田体制の集大成だ!これが終われば、我々は“進路”と言う難問にかからなくてはならない。事実上、原田体制はこれで終止符を打つ事になる。“大統領選挙”はオマケみたいなものさ。役目を終えた原田に遠慮など無用!お前達も僕等も、食うか食われるか?の戦いを残すだけだから、原田だって本腰を入れている暇はないし、片手間でやれる事じゃない。だが、“多数派工作”だけはやっとかないと、いざと言う時に身動きが取れない。原田からどれだけ手足をもぎ取れるか?それだけはハッキリさせなくてはならん!僕等にしても“最後の戦い”なのさ!立場云々は心配無用。要は、原田を不自由にすればいいんだよ!」「参謀長、“来賓”がそろそろお見えになる時間です!」脇坂が時計を見ながら言う。「よし、準備にかかれ!山本、脇坂、上田、石川、本橋、今日はお前たちが存分に腕を振るえ!援護はしてやるが、僕はもう直ぐ“ヤボ用”を引き受ける事になるだろう。とても片手間でやれるとは思えない。指揮は任せるぞ!」僕は椅子から立ち上がるとそう告げた。「本気ですか?!あたしが総指揮を?」加奈が不安そうに言う。「繰り返しになるが、来年は僕等は居ないんだ!今の内に経験を積んで置け。まだ、補佐はしてやれる。未来を背負うには、経験することでしか覚えられない事もあるんだ!」僕は加奈の背を押した。山本、脇坂、石川、本橋にも緊張が走った。「来年になって、オタオタしている様じゃYの陰すら踏めんぞ!気合を入れろ!」佐久先生が男達に向けて睨みを利かせる。校長先生も教頭を伴って姿を見せた。「さあ、お出迎えだ!みんな分かっているな?練習の通りにやればいい!」配置に向かいながら、僕は1人1人に声をかけた。黒の公用車は予定通りに昇降口に滑り込んだ。
昨年同様に“来賓”のお出迎えを済ませると、僕とさちは椅子を後ろに下げてゆったりとした。加奈を中心に事は順調に進んでいる。“不測の事態”が起こらない限り口出しは必要なさそうだ。「ねえ、Y、“ヤボ用”って何なのよ?」さちが聞いてくる。「もう直ぐ分かるさ。そろそろギブアップする頃合いだからな」「そうじゃな。ぼちぼち2人揃って来るだろう。ワシは伊東と千秋の様子を見て来るか。参謀長、準備が整ったら“講座”を開講しよう!」長官が立ち上がって保健室へ向かう。「万事、予定通りですね。あたしは4期生への教育を開始します。しばらくは手が離せませんので宜しくお願いします!」西岡も舞台裏で動き出した。「Y!内線を復活させていいか?“親父”に了承を取り付けなくてはならん!」佐久先生が焦り出した。「分かりました。脇坂、内線を繋ぎ直せ!」「了解です!」脇坂がジャックを繋ぎ直すと、直ぐにけたたましく内線が鳴った。「参謀長、会長からです。どうしますか?」山本が誰何して来る。「問答無用!叩き切れ!」山本は受話器を手で押さえていないから、僕の声は原田に筒抜けになったはずだ。山本が受話器を戻すと内線は沈黙した。その隙に、佐久先生が校長との交渉に入った。「いいんですか?会長を無視しても?」石川と本橋が心配そうに聞いてくる。「ここは、生徒会の手を離れた。会長の指示に従う理由は無い!どうせ、“人を貸せ”としか言わん。いい加減にヤツの言い分は聞き飽きたしな。佐久先生が護衛で居る以上は、原田も迂闊には手は出せんよ!」僕は一笑に付して彼らの不安を打ち消した。色々と話していると、益田と小池の2人が押し掛けて来た。「Y!原田に警備係を押し付けられた!俺達は係の指揮を執った経験が無い。どうすればいい?」「計画書を押し付けられても分からないのよ!教えてくれないかな?」2人は困惑しきっていた。「まずは、計画書とやらを見せてくれ。伊東が立案したヤツと別物らしいな?」小池から書面を受け取ると僕はやおら目を通す。「これは!コンサートの警備でもやるつもりか?原田のヤツ、とうとう狂ったか?」僕は腰を抜かしそうになった。とにかく、やたらと人を各所に貼り付ける人海戦術だったからだ。「益田氏、こんなに人はいらないよ!半分でいいはずだ!それに、のべつまくなしにベタベタと配置があるが、これも絞り込みをしていい。本当に必要なのは、この3分の1で事足りるぜ!全力投球してもらうのは、クローズ作業の時間帯でいいはず。原田は何故こんなに人を配置しようとしてるんだ?これじゃあ、指揮官が困るだけだぜ!」僕は、呆れ返って2人に計画書を返した。「やっぱりか!Y!お前さんならどうする?」益田が縋る様に前のめりになる。「お2人の手に余るなら、警備係もやってもいいぜ!ただし、あくまでも代行するだけならな。原田に命じられたのは、益田氏と小池さんだ。表向きは責任者として振る舞ってくれるならどうだ?」僕は2人を交互に見た。「看板だけならいいわよ!」小池は前向きだった。「俺も異存は無い。だが、それだけじゃ無いだろう?」益田は不敵な笑みを浮かべていた。「お見通しか。冷蔵庫とボトルを持ち出してくれるなら、喜んで引き受けるがどうだ?」僕は取引を持ち掛ける。「総本部には、腐る程のボトルがある!俺の権限で持ち出して来れる数と冷蔵庫1台でいいなら乗るぞ!」益田は豪快に言う。「取引成立だな。悪いが、看板だけは背負ってくれ!実務は僕が引き受ける。定期的に連絡は入れるから、原田に聞かれたら適当に答えてあしらってくれ。それと、至急要員をここへ寄越して欲しい。体制を立て直して置かなきゃならない!」僕は益田と小池に握手をして同意した。「わりぃが、頼むぜ!無論、原田にはナイショだけどな!人とブツは直ぐに手配する。無線機のチャンネルは11にしてくれ。一応、聞いてなきゃマズイだろう?」「ああ、そうしてくれ。視聴覚室を根城にするといい。あそこなら退屈にはならないしな!何かあれば直ぐに動いてる振りも出来るし」「いたれり、つくせりね。Y、アンタやっぱり只者じゃないわね!原田よりアンタの方がキレる気がするわ!」小池がそう言うと益田も頷いた。「後は宜しく!」2人は足早に西校舎へ歩き出した。「これで、原田の地盤が軟弱になるな。2期生の票が割れれば、4期生が当選する確率が必然的に無くなる。大統領選挙に向けて優位性を保てるな。こうなる事は原田も読んではいまい!」いつの間にか長官が来ていた。「それだけじゃありませんよ!長官、益田達は原田から一定の距離を置くはず。“蜜月”関係は崩れたと見ていいんじゃありませんか?」「うむ、これで原田陣営は四分五裂に陥るだろう。そろそろ“時限装置”を起動する時が来たようだ!」「やっと“靖国神社”の出番ですな!女を疑心暗鬼に陥れれば、相手は総崩れも同然。戦わずして勝てますよ!」僕等は秋の戦いを優位に進められる感触を掴んだ。「Y、“ヤボ用”とはこの事なの?」さちが小首を傾げている。「ああ、警備係も含めて一般公開の全権を掌握する事で、原田の影響力を弱めるのが目的さ!例え何か起こっても、原田には何の権限も無い。僕と長官と伊東で切り盛りするのさ!長官と伊東は陰に徹してもらうけどね。本橋、もう直ぐ警備係の要員が集まって来る。このファイルに基づいてチェックに入れ!」僕は“X計画”と書かれたファイルを彼に手渡した。「いつの間にこんな計画を?」中身を見ていた本橋は心底驚いた様だったが「作戦は30~40手先を見越して立てるもの。そして“身内”にも気づかれずに用意するのは基本中の基本だ。コピーはいずれ全部出してやるから、今は目の前に集中しろ!」とたしなめた。「Y、“親父”が同意したぞ!警備係も“親父”指揮下に入れるそうだ!」佐久先生が長い電話を終えるとそう告げてくれた。「これで策は講じた!増援のメドも立った!後は、お前の腕次第だ!」佐久先生はバシバシと僕の肩を叩いた。「了解です。よーし、盛大に引っ掛けてやるか!本橋、要員は集まったか?」「はい!現在、配置に着いている者を除く全員が出頭しました!」「警備係の諸君!今から私が実質的な指示を出す!まずは、無線機のチャンネルを11にセットしてくれ!」それから僕は警備範囲の縮小とシフトの変更、“クローズ作業”の手順について説明を行った。「詰所は、ここと視聴覚室とする。巡回の時間とチェック場所、手順については当初の予定通りとする。不測の事態やトラブルの際には、私を呼んでくれ。必要な指示はここから出す。“総合案内兼駐車場係”と警備係は、校長直轄の組織に改編された。生徒会長の指示に従う必要は無い!もし、会長が何か言って来ても、言う事を聞くな!迷ったら私の判断を待て!何か質問は?」「講堂でのステージ発表の時間帯はどうするんです?」4期生の子が問うた。「その時間帯は避けてシフトを組んであるはずだ。もし、重複していたら直近の者と個別に交渉して入れ替わっても構わん!物事は臨機応変に考えろ!穴さえ空けなければ問題は無い。ただし、“クローズ作業”の時間帯は総力を挙げて対処しなくてはならない。午後3時以降は詰所で待機してくれ!他には?」「空き時間が増えましたが、その間は自由行動ですか?」また、4期生の子が問う。「そうだ!クラスの手伝いや早目の食事に充てて構わん。都合の悪い者の代わりを務めてもいい。そうすれば、まとまった時間が取れるだろう?もし、何もする事が無いなら私の元で待機していてもいい。細かな用事は山の様にある!来年、自分が困らない様に学ぶつもりなら、私はいつでも指示を出す!」心なしか警備係の要員の表情が明るくなった様に見えた。その時、西校舎の方から「おーい!」と声がかかった。益田氏が“物品”を持って来たらしい。「では、まずは放送室前の物品をここへ運んでくれ!交代要員は早めに出て、現在配置に着いている者をここへ寄越せ!では、作業開始!」警備係の要員達は、直ぐに動き出した。台車に載せられた冷蔵庫とボトルの詰まった段ボール箱を7個司令部に搬入した。「参謀長、益田大臣からです」3期生の男子からメモが差し出された。“済まんがこれで勘弁してくれ。後を頼む”と書かれていた。「勘弁どころか、大助かりだ。こっちの予算じゃあ必要数ギリギリしか揃えられなかったんだから、天地程の差があるぜ!」「本当、この差は何なのよ?」さちが呆れて言う。「脇坂、冷蔵庫をもう1台使うには、アンペアが足りない。電源を探してドラムコードで取るしか無いな。東校舎から電源を探し当てろ!」「了解です!無線のウォッチを代わって下さい!」僕は脇坂に代わって無線機に付いた。「今野より、本部」「こちら本部、どうぞ」「Y!何やってるんだ?お前は補佐役だろう?脇坂はどうした?」「ちょいと用事があってな。代理をやってる。それよりどうした?」「Y、どうしても昇降口に直付けしたい車があるんだよ!車いすのお年寄りが居るんだ。例外を認めてもいいか?」「それはいいが、校内はどうするつもりだ?エレベーターは無いぞ!」「階段は担いで上がると言ってる。そのために人も付いてる。“例外処置A”を発動させてくれ!」「了解した!運転席前に“金の星”を置くのを忘れるな!車はなるべく東側に詰めて駐車させろ!引継ぎ事項として、後続隊に伝達をして置けよ!」「OK、じゃあ、1台だけそちらに回すぞ!」「了解だ。加奈、車いすの来場者が来る。“例外処置A”の手順に沿って準備にかかれ!」「はい!みんな、スロープを用意して!補助に着くのは予備隊の男子4名!急いで!」上田はファイルをめくって“例外処置A”の手順で指示を出した。脇坂が電源を確保して冷蔵庫も起動した様だ。僕は脇坂と交代して警備係の方に集中する。その時だった。「やっぱりここに居るのね!Y、アンタは陣頭指揮をしないと気が済まない性格だものね。でも、Yが居ると不思議と安心するのよね!」明るくトーンの高い声には聞き覚えがあった。顔を上げると真正面に彼女はいた。「Y、元気そうじゃん!」「愛子先輩、来てくれたんですか?!」斎藤愛子先輩。半年ぶりの再会だった。
そもそもの発端は、昨日の¨クローズ作業¨に散々手こずった事から始まった。警備担当の伊東が全く人を出さなかったのが原因で、作業は遅れに遅れた。最後は僕も校内巡視をやって、完全閉鎖が完了したのが18:00だったのだ。予定から1時間の遅延で、各方面からの非難や苦情は総本部に集中した。驚いた原田が伊東を問い詰めると¨人員が足りない¨と言って泣き付いたのだ!そして、今朝の関係部署ミーティングで¨警備員の増員¨を原田が言い出したのだ。¨責任者¨席の回りを片付けていると「Y、ちょっといいか?」と佐久先生がやって来た。「¨親父¨が決断した!Y、お前達は¨校長の指揮下¨に入れるそうだ。従って、生徒会は最早関係無い!本日は¨来賓¨も見えられる。打ち合わせを開会前にしたいそうだが、やってくれるな?」「そう言う事なら、喜んでやらせてもらいます!」「うむ、原田には俺から言って置く。お前達は、校長から指揮権を委任された組織だ!厳しいだろうが全力で立ち向かえ!」「イエス、サー!」僕は敬礼をして答えた。「参謀長、済まぬが手を貸してはくれぬか?」長官が恐る恐る言いに来た。「山岡、Y達はたった今から¨校長の指揮下¨で行動する!生徒会とは関係無い¨独立した組織¨になった!泣き落としなんぞには乗らんぞ!」佐久先生が睨みを効かせる。「伊東を助けてくれぬか?後生だ!」長官は何とか譲歩をさせようと粘る。「伊東が来るならまだしも、お前に泣き付いた性根が気に食わん!これは¨親父¨が決めたのだ!文句があるなら、¨親父¨に直談判して来い!!」佐久先生の雷が落ちた。僕達と佐久先生と丸山先生は、ギリギリまで話し合いをして、計画を練り上げたのだ。原田の¨一言¨で吹き飛ばされたら、先生達も面目を失うし¨炎天下¨で活動するメンバーの体力を奪う危険は避けなくてはならない。特に今日は、公開時間も長く来賓の来校もある。出だしから¨フル回転¨をさせる予定なのだ。助けてはやりたいが、戦力を割けない明確な理由がある以上、¨責任者¨としては非情な答えを出さなくてはならなかった。「長官、無理なモノは無理ですよ。我々は、校長の下に組み込まれたのです。原田や伊東が何を言っても校長が承認しなくては動けません。諦めて下さい!」僕は深々と礼をして断った。「山岡、¨親父¨を説得して来い!そして、伊東自らが交渉に来る様に言え!大体、配置や計画に穴があるからこうなるんだ!Yの様に緻密な策を裏の裏まで巡らせてあるのか?後生云々の前に、見直してから来い!」佐久先生は¨沸騰¨して湯気を立てた!¨人間装甲車¨が突進すれば、長官はひとたまりも無い。なす術無く引き下がるしか無かった。「おっと、¨委嘱状¨を渡すのを忘れていた。¨親父¨がさっき書いたヤツだ。¨金字牌¨とセットで持っていろ!これでも、あれこれと言って来るだろうが、この2通さえあれば天下無敵だ。俺も力は貸してやるし、生徒会を介入させない様に手を打つ!後は、打ち合わせ通りにやればいい。お前の思う通りにしろ!」¨委嘱状¨を受け取ると、佐久先生は僕の肩を叩いて、言い聞かせる様に言った。「はい、存分にやらせてもらいますよ!」「頼んだぞ!」佐久先生は、西校舎に向かった。入れ替わる様に、さちや西岡や山本、脇坂、上田が現れる。「おはようございます!参謀長、どうされました?」西岡達が怪訝そうに顔を覗き込む。「全員に伝える事がある!我々は、新たな1歩を踏み出す!速やかにメンバーを召集してくれ!」「新たな1歩ってなに?」さちが小首を傾げる。「まさか¨昨日の件¨が絡んでるんですか?」上田が手で口元を覆う。「原田とは¨決別¨した。我々は、自力だけで事を進める必要性に立ち向かう!」僕は前だけを向いて言った。
メンバーが揃うと、僕は今朝のミーティングであった事を¨ありのまま¨に伝えた。「原田は、¨人員を割け!¨と言うばかりで具体的な事は、何1つ示さないままだった。故に、僕は席を蹴り原田を振りほどいて¨人員は割けない!¨と言って来た。そして、佐久先生の計らいで僕達は¨校長の指揮下¨に入った。佐久先生も丸山先生も原田を見限った。生徒会は最早関係無い!¨総合案内兼駐車場係¨は、独立した組織となったのだ!もし、¨立場上で問題がある¨と言う者は、遠慮無く抜けて構わないし、意見のある者は正々堂々と言ってくれ!」僕は一同を見渡した。誰も微動だにしない。「Y!異議など言う者など居ないし、昨日の事を勘案すれば、俺達が仕切った方が事はスムーズに運ぶ!みんな!やってやろうぜ!」坂野が声を挙げると「おー!」と歓声が上がった。「参謀長、あたし達は何処までもお供します!」遠藤も続いた。「Y、あたし達も付いてくよ!」さち達も頷いた。宮崎がラジカセの再生ボタンを押した。「ズンズン、チャ!ズンズン、チャ!」¨WE WILL ROCK YOU ¨が流れ出した。「みんな!原田の意のままになんかならんぞ!俺達は誇りを賭けてやり抜いてみせるぜ!」「Yes!」「俺達は仲間だ!誰も逃げ出したりしねぇぞ!」「Yes!」「じゃあ、今日も宜しく!」「Yes!」宮崎と坂野が気合いを入れて、合唱が続く。全員が原田に¨NO!¨を突き付けたのだ。曲が終わっても、みんなノリノリで肩を組んで叫び続けた。「ふふふふ、良い雰囲気じゃの!」校長が笑顔で歩いて来た。「全員整列!気をつけ!」僕が慌てて言うと「かしこまらんでも宜しい。Y君、¨来賓¨の出迎えの打ち合わせに来た。来校は、午前9時半。昨年同様の配置で構わん。練習に入れるかな?」「はい!上田、遠藤、メンバーを配置に!」「みんな、行くわよ!」上田の号令一下、女子のメンバーが並んで配置に付いた。山本と脇坂、さちと僕も続く。練習が始まると、校長から細かな修正指示が出され、繰り返して体に叩き込まれる。立ち位置や礼の角度などの所作は、1年生を中心に繰り返しての練習が行われた。その最中に「参謀長、会長から内線です」と西岡が飛んで来た。「叩き切れ!ついでに、ジャックを抜け!今は、校長先生直々のご指導の最中だ。ヤツに用は無い!」とキッパリ言うが「火急の知らせだと言ってますが?聞いて置きますか?」と言う。「聞くだけはな。答えは¨NO¨だがな。用件が済んだらジャックを抜け!」と改めて言い渡す。そうこうしている内に練習が終わった。「良いだろう。上出来だ!Y君、この調子で頼むよ!」と校長は、にこやかに言った。「承知しました。みんな!頼んだぞ!」「はい!」参加する女の子達が合唱した。上田達は、1年生に繰り返し所作を教えて居る。この分なら問題は出ないだろう。「生徒会長が何を言って来ても¨従う¨必要性は無い!君達は、私が預かった。職員同様、私の権限で動いてもらう。最も、ここはY君の¨牙城¨だ!君の判断で適宜かつ臨機応変に対応策を取って構わない。煩くなったら、信雄を送り込むから安心して居なさい!」と言うと校長は満足そうに一旦引き上げて行った。「西岡、会長は何を言って居た?」「はい、¨午前と午後の初めに4人足りないから、人を貸してくれないか?¨と言ってました」「捨て置け!総本部には、¨涼しげにしてる閣僚¨がごまんと居る!ヤツらを動員すれば事は足りるし、何も問題は出ない!内線のジャックは抜いたか?」「はい、抜いてあります」「ならば、そろそろ動き出すか?山本、本日の第1陣を召集してくれ!脇坂、チャンネル17にセットして、コールを開始しろ!」「了解です!」2人の声が重なる。「佳奈、今日の指揮は君が執れ!補佐は僕が引き受ける。“責任者”の席へ!」「えー!あたしが?!無理ですよ!」佳奈は尻込みをするが、「今から慣れて置かないと、来年が大変だぞ!僕が居る内に経験を積んで置け!」と有無を言わさずに指揮を任せる。「参謀長、第1陣の集結が完了しました!」「無線機の確認OKです!」山本と脇坂から、報告が来る。「よし、佳奈!出動を命じろ!」「今野先輩、出動願います!」「おう、行ってくるぜ!Y、原田に気を付けろよ!」「ああ、そっちは任せろ!適当にあしらって置くさ。指揮権も上田に譲ってあるしな」僕は薄ら笑いを浮かべた。「ともかくも、原田は簡単には引き下がる事はしないヤツだ。¨人を貸せ!¨と連呼して来るぜ!」今野は心配して言う。「最後は、佐久先生に抑えてもらうさ。¨背負い投げ¨を食らうのが落ちだろうよ!」「だといいが、ヤツの思考は¨単細胞生物¨みたいなモノさ。思い込んだら¨うん¨と言うまで引き下がる事は無い。お経の様に繰り返し襲って来る!それを忘れるな!」今野は、そう言ってから炎天下へ向かった。いよいよ、2日目が始動し始めたのだ。
今野達を送り出した直後、僕は石川を呼んだ。「佐久先生に¨原田がまだ人を貸せ!¨とゴリ押しをして来ていると伝えて来い!ヤツを止めなくては、我々の任務に支障が出かねない!¨原田を黙らせて下さい¨と談判して来るんだ!」と命じた。「はい、お引き受けしますが、こんな大事なお役目が僕で大丈夫ですか?」石川がやや不安そうに言う。「とにかく行って来い!来年は否応なしに動かなきゃならん立場だぞ!僕が居る内に¨練習¨だと思って行くんだ!」僕は、石川の背中を叩くと佐久先生の元へ使いに出した。その直後、憔悴しきった伊東と千秋が、長官に連れられて保健室へ入った。「Y、行ったか?」石川が佐久先生を連れて戻って来た。「ええ、¨予定通り¨ですよ。これで原田は、自ら陣頭指揮をせざるを得ない状況になりました。¨本丸¨は、がら空きでしょう!」と僕が言うと「¨親父¨との談判は不調に終わった!益田や小池達が不平を言いながら、原田と共に配置に向かった。総本部には誰も居ないし、ヤツとの¨密約¨もこれで終わり。万事¨予定通り¨だな!」と佐久先生も満足そうに言う。「あのー、どう言う事なんです?」上田と石川が怪訝そうな声を挙げる。「まさか原田も、ここまでは“読み”が回らんだろう!自ら蟻地獄に落ちるとは思っても居ないはずだ!これで秋の“大統領選挙”を有利に戦える!己が作った“規則”で首を絞めるとは考えてもいないだろうよ!伊東と千秋も“隔離”出来たし、後は僕等で切り盛りすればいい!ですよね?!長官!」「うむ、これほど上手く事が進むとは思っていなかったが、益田と小池達を離反させられる理由は作れたな。3年生の票が割れれば、2年生が有利になる!原田の“亡霊”が当選する確率は下がった。“太祖の世”に復するための第1歩だな!」長官が重々しく言う。「上田、石川、原田が4月に改正した生徒会会則を思い出してみろ!」僕が2人に問いかけた。4月に原田が行った改正で、僕達3年生も秋の“大統領選挙”への投票権を得ていた。そして、1年生からも立候補を認める事になったのだ。これは、“原田後”に向けた布石に他ならなかったが、数の論理で行けば接戦かつ僅差で1年生候補が勝つ可能性が出ていたのだった。会則の改正に対しては、教職員からも批判が上がったのだが、原田は強引に押し切って改正に漕ぎ付けてしまったのだった。それから2ヶ月半、僕等と先生達は水面下でずっと対策を考えて来たのだ。その結論が“向陽祭”での“卓袱台返し作戦”だったのだ!「そんな深慮遠謀が隠れていたのですか?」石川が驚愕しながら言う。「驚く事じゃない!“悪しき事”は残せない。お前達に後の世を託すには、原田体制を徹底して破壊しなくてはならん!これは、その第1歩さ!」「しかし、長官も参謀長もお立場が悪くはなりませんか?」上田が心配して言う。「“向陽祭”は原田体制の集大成だ!これが終われば、我々は“進路”と言う難問にかからなくてはならない。事実上、原田体制はこれで終止符を打つ事になる。“大統領選挙”はオマケみたいなものさ。役目を終えた原田に遠慮など無用!お前達も僕等も、食うか食われるか?の戦いを残すだけだから、原田だって本腰を入れている暇はないし、片手間でやれる事じゃない。だが、“多数派工作”だけはやっとかないと、いざと言う時に身動きが取れない。原田からどれだけ手足をもぎ取れるか?それだけはハッキリさせなくてはならん!僕等にしても“最後の戦い”なのさ!立場云々は心配無用。要は、原田を不自由にすればいいんだよ!」「参謀長、“来賓”がそろそろお見えになる時間です!」脇坂が時計を見ながら言う。「よし、準備にかかれ!山本、脇坂、上田、石川、本橋、今日はお前たちが存分に腕を振るえ!援護はしてやるが、僕はもう直ぐ“ヤボ用”を引き受ける事になるだろう。とても片手間でやれるとは思えない。指揮は任せるぞ!」僕は椅子から立ち上がるとそう告げた。「本気ですか?!あたしが総指揮を?」加奈が不安そうに言う。「繰り返しになるが、来年は僕等は居ないんだ!今の内に経験を積んで置け。まだ、補佐はしてやれる。未来を背負うには、経験することでしか覚えられない事もあるんだ!」僕は加奈の背を押した。山本、脇坂、石川、本橋にも緊張が走った。「来年になって、オタオタしている様じゃYの陰すら踏めんぞ!気合を入れろ!」佐久先生が男達に向けて睨みを利かせる。校長先生も教頭を伴って姿を見せた。「さあ、お出迎えだ!みんな分かっているな?練習の通りにやればいい!」配置に向かいながら、僕は1人1人に声をかけた。黒の公用車は予定通りに昇降口に滑り込んだ。
昨年同様に“来賓”のお出迎えを済ませると、僕とさちは椅子を後ろに下げてゆったりとした。加奈を中心に事は順調に進んでいる。“不測の事態”が起こらない限り口出しは必要なさそうだ。「ねえ、Y、“ヤボ用”って何なのよ?」さちが聞いてくる。「もう直ぐ分かるさ。そろそろギブアップする頃合いだからな」「そうじゃな。ぼちぼち2人揃って来るだろう。ワシは伊東と千秋の様子を見て来るか。参謀長、準備が整ったら“講座”を開講しよう!」長官が立ち上がって保健室へ向かう。「万事、予定通りですね。あたしは4期生への教育を開始します。しばらくは手が離せませんので宜しくお願いします!」西岡も舞台裏で動き出した。「Y!内線を復活させていいか?“親父”に了承を取り付けなくてはならん!」佐久先生が焦り出した。「分かりました。脇坂、内線を繋ぎ直せ!」「了解です!」脇坂がジャックを繋ぎ直すと、直ぐにけたたましく内線が鳴った。「参謀長、会長からです。どうしますか?」山本が誰何して来る。「問答無用!叩き切れ!」山本は受話器を手で押さえていないから、僕の声は原田に筒抜けになったはずだ。山本が受話器を戻すと内線は沈黙した。その隙に、佐久先生が校長との交渉に入った。「いいんですか?会長を無視しても?」石川と本橋が心配そうに聞いてくる。「ここは、生徒会の手を離れた。会長の指示に従う理由は無い!どうせ、“人を貸せ”としか言わん。いい加減にヤツの言い分は聞き飽きたしな。佐久先生が護衛で居る以上は、原田も迂闊には手は出せんよ!」僕は一笑に付して彼らの不安を打ち消した。色々と話していると、益田と小池の2人が押し掛けて来た。「Y!原田に警備係を押し付けられた!俺達は係の指揮を執った経験が無い。どうすればいい?」「計画書を押し付けられても分からないのよ!教えてくれないかな?」2人は困惑しきっていた。「まずは、計画書とやらを見せてくれ。伊東が立案したヤツと別物らしいな?」小池から書面を受け取ると僕はやおら目を通す。「これは!コンサートの警備でもやるつもりか?原田のヤツ、とうとう狂ったか?」僕は腰を抜かしそうになった。とにかく、やたらと人を各所に貼り付ける人海戦術だったからだ。「益田氏、こんなに人はいらないよ!半分でいいはずだ!それに、のべつまくなしにベタベタと配置があるが、これも絞り込みをしていい。本当に必要なのは、この3分の1で事足りるぜ!全力投球してもらうのは、クローズ作業の時間帯でいいはず。原田は何故こんなに人を配置しようとしてるんだ?これじゃあ、指揮官が困るだけだぜ!」僕は、呆れ返って2人に計画書を返した。「やっぱりか!Y!お前さんならどうする?」益田が縋る様に前のめりになる。「お2人の手に余るなら、警備係もやってもいいぜ!ただし、あくまでも代行するだけならな。原田に命じられたのは、益田氏と小池さんだ。表向きは責任者として振る舞ってくれるならどうだ?」僕は2人を交互に見た。「看板だけならいいわよ!」小池は前向きだった。「俺も異存は無い。だが、それだけじゃ無いだろう?」益田は不敵な笑みを浮かべていた。「お見通しか。冷蔵庫とボトルを持ち出してくれるなら、喜んで引き受けるがどうだ?」僕は取引を持ち掛ける。「総本部には、腐る程のボトルがある!俺の権限で持ち出して来れる数と冷蔵庫1台でいいなら乗るぞ!」益田は豪快に言う。「取引成立だな。悪いが、看板だけは背負ってくれ!実務は僕が引き受ける。定期的に連絡は入れるから、原田に聞かれたら適当に答えてあしらってくれ。それと、至急要員をここへ寄越して欲しい。体制を立て直して置かなきゃならない!」僕は益田と小池に握手をして同意した。「わりぃが、頼むぜ!無論、原田にはナイショだけどな!人とブツは直ぐに手配する。無線機のチャンネルは11にしてくれ。一応、聞いてなきゃマズイだろう?」「ああ、そうしてくれ。視聴覚室を根城にするといい。あそこなら退屈にはならないしな!何かあれば直ぐに動いてる振りも出来るし」「いたれり、つくせりね。Y、アンタやっぱり只者じゃないわね!原田よりアンタの方がキレる気がするわ!」小池がそう言うと益田も頷いた。「後は宜しく!」2人は足早に西校舎へ歩き出した。「これで、原田の地盤が軟弱になるな。2期生の票が割れれば、4期生が当選する確率が必然的に無くなる。大統領選挙に向けて優位性を保てるな。こうなる事は原田も読んではいまい!」いつの間にか長官が来ていた。「それだけじゃありませんよ!長官、益田達は原田から一定の距離を置くはず。“蜜月”関係は崩れたと見ていいんじゃありませんか?」「うむ、これで原田陣営は四分五裂に陥るだろう。そろそろ“時限装置”を起動する時が来たようだ!」「やっと“靖国神社”の出番ですな!女を疑心暗鬼に陥れれば、相手は総崩れも同然。戦わずして勝てますよ!」僕等は秋の戦いを優位に進められる感触を掴んだ。「Y、“ヤボ用”とはこの事なの?」さちが小首を傾げている。「ああ、警備係も含めて一般公開の全権を掌握する事で、原田の影響力を弱めるのが目的さ!例え何か起こっても、原田には何の権限も無い。僕と長官と伊東で切り盛りするのさ!長官と伊東は陰に徹してもらうけどね。本橋、もう直ぐ警備係の要員が集まって来る。このファイルに基づいてチェックに入れ!」僕は“X計画”と書かれたファイルを彼に手渡した。「いつの間にこんな計画を?」中身を見ていた本橋は心底驚いた様だったが「作戦は30~40手先を見越して立てるもの。そして“身内”にも気づかれずに用意するのは基本中の基本だ。コピーはいずれ全部出してやるから、今は目の前に集中しろ!」とたしなめた。「Y、“親父”が同意したぞ!警備係も“親父”指揮下に入れるそうだ!」佐久先生が長い電話を終えるとそう告げてくれた。「これで策は講じた!増援のメドも立った!後は、お前の腕次第だ!」佐久先生はバシバシと僕の肩を叩いた。「了解です。よーし、盛大に引っ掛けてやるか!本橋、要員は集まったか?」「はい!現在、配置に着いている者を除く全員が出頭しました!」「警備係の諸君!今から私が実質的な指示を出す!まずは、無線機のチャンネルを11にセットしてくれ!」それから僕は警備範囲の縮小とシフトの変更、“クローズ作業”の手順について説明を行った。「詰所は、ここと視聴覚室とする。巡回の時間とチェック場所、手順については当初の予定通りとする。不測の事態やトラブルの際には、私を呼んでくれ。必要な指示はここから出す。“総合案内兼駐車場係”と警備係は、校長直轄の組織に改編された。生徒会長の指示に従う必要は無い!もし、会長が何か言って来ても、言う事を聞くな!迷ったら私の判断を待て!何か質問は?」「講堂でのステージ発表の時間帯はどうするんです?」4期生の子が問うた。「その時間帯は避けてシフトを組んであるはずだ。もし、重複していたら直近の者と個別に交渉して入れ替わっても構わん!物事は臨機応変に考えろ!穴さえ空けなければ問題は無い。ただし、“クローズ作業”の時間帯は総力を挙げて対処しなくてはならない。午後3時以降は詰所で待機してくれ!他には?」「空き時間が増えましたが、その間は自由行動ですか?」また、4期生の子が問う。「そうだ!クラスの手伝いや早目の食事に充てて構わん。都合の悪い者の代わりを務めてもいい。そうすれば、まとまった時間が取れるだろう?もし、何もする事が無いなら私の元で待機していてもいい。細かな用事は山の様にある!来年、自分が困らない様に学ぶつもりなら、私はいつでも指示を出す!」心なしか警備係の要員の表情が明るくなった様に見えた。その時、西校舎の方から「おーい!」と声がかかった。益田氏が“物品”を持って来たらしい。「では、まずは放送室前の物品をここへ運んでくれ!交代要員は早めに出て、現在配置に着いている者をここへ寄越せ!では、作業開始!」警備係の要員達は、直ぐに動き出した。台車に載せられた冷蔵庫とボトルの詰まった段ボール箱を7個司令部に搬入した。「参謀長、益田大臣からです」3期生の男子からメモが差し出された。“済まんがこれで勘弁してくれ。後を頼む”と書かれていた。「勘弁どころか、大助かりだ。こっちの予算じゃあ必要数ギリギリしか揃えられなかったんだから、天地程の差があるぜ!」「本当、この差は何なのよ?」さちが呆れて言う。「脇坂、冷蔵庫をもう1台使うには、アンペアが足りない。電源を探してドラムコードで取るしか無いな。東校舎から電源を探し当てろ!」「了解です!無線のウォッチを代わって下さい!」僕は脇坂に代わって無線機に付いた。「今野より、本部」「こちら本部、どうぞ」「Y!何やってるんだ?お前は補佐役だろう?脇坂はどうした?」「ちょいと用事があってな。代理をやってる。それよりどうした?」「Y、どうしても昇降口に直付けしたい車があるんだよ!車いすのお年寄りが居るんだ。例外を認めてもいいか?」「それはいいが、校内はどうするつもりだ?エレベーターは無いぞ!」「階段は担いで上がると言ってる。そのために人も付いてる。“例外処置A”を発動させてくれ!」「了解した!運転席前に“金の星”を置くのを忘れるな!車はなるべく東側に詰めて駐車させろ!引継ぎ事項として、後続隊に伝達をして置けよ!」「OK、じゃあ、1台だけそちらに回すぞ!」「了解だ。加奈、車いすの来場者が来る。“例外処置A”の手順に沿って準備にかかれ!」「はい!みんな、スロープを用意して!補助に着くのは予備隊の男子4名!急いで!」上田はファイルをめくって“例外処置A”の手順で指示を出した。脇坂が電源を確保して冷蔵庫も起動した様だ。僕は脇坂と交代して警備係の方に集中する。その時だった。「やっぱりここに居るのね!Y、アンタは陣頭指揮をしないと気が済まない性格だものね。でも、Yが居ると不思議と安心するのよね!」明るくトーンの高い声には聞き覚えがあった。顔を上げると真正面に彼女はいた。「Y、元気そうじゃん!」「愛子先輩、来てくれたんですか?!」斎藤愛子先輩。半年ぶりの再会だった。