OCTAVEBURG 外伝

ピアニスト羽石道代の書きたいことあれこれ。演奏会の予定は本編http://octaveburg.seesaa.net へ

冬の旅 旅前夜

2018-03-02 | 日記


暖かくなるのを待っていたはずなのに今年はちょっと暖かくなってきてソワソワする。
だって3月9日にシューベルトの「冬の旅」を控えているから...。寒いのも嫌なはずなんですが...なんとなく。(どうやら寒の戻りもあるようですね、それはそれで...)

いやいや覚悟の上決めたことなのです。3月って暖かいかも...でも色々な都合でこう決めたのです。暖かくても「冬の旅」、3月だけど「冬」の旅。
ブツブツ...

そうです、それより大切なのは曲の本質です。実際の気温ではない。

とはいえ、今年の1月の東京の大雪の日は(大変な思いをされた方も多かったと思います)私にはいいイメージが降ってきた機会でもありました。
皆さんはどうなんでしょうか、私は作品に対してイメージを固めるために調べたり妄想も繰り返しますが、まるでマンガのようにふとした体験から「...これだ!」みたいのを掴む日を待っていたりするので、若干行き詰まっていた段階だったこともあり、まさに天の思し召しかと。(大げさに言うと。)

私が利用する電車は残念ながら止まってしまったので、別のルートでせめて同じ区内に入ろうと決め、バスが発着する駅まで向かうもそんなに現実は甘くなく。もう何の列かわからないトグロを巻く長蛇の列に並ぶことが無意味に思えたので、1時間で歩けることもわかったし道も知らないわけではなかったし歩いて帰ることに決めました。重装備で万全の対策も取っていたこともあり不安もなかったので。

せっかくなので歩きながら考えた。
雪独特の静かな感じ。世界で今私しかいないかもという孤独感。せっせと歩いている自分の寒さと、家の明かり暖かさの差。歩き始めは元気。歩くのをやめるには寒すぎるからまた一歩、また一歩と足を出すことで何とか生きられる感じ。誰も歩いていない道を選ぶ心境。この辺りは共感できた。

私と彼が違う点。
私は帰る家があり、待っている人(すず様。犬だけど)がいる。彼は帰るのではない、最初は半ば逃げるように出て行くし、行くところがないわけではなく「どこか」を探しながらひたすら歩く。

つまり、帰れば「暖かさ」が保証されていることの素晴らしさ、誰か待っていてくれる「信頼」されている安心。それが「君にはあるけど僕にはない」を1つ1つ確認しているような「冬の旅」。何か自分は違うのかもと自分を見つめている主人公は、ここが居場所かと信じられる状況も何度かはあったが、やっぱりいられなくなってしまう運命にある「冬の旅」。

分かる。
いや、そこまで分かってないかも...でも、分かるよ。でも本人には分かってるとは言ってあげられないな...。きっと違うって言うから。という、そっとしておいてあげたい距離感を感じる。

このように気持ちをまとめながら、この感覚なんだっけ...とずっと考えていたのですが、私のもう1つ好きなもの、太宰治の「人間失格」との付き合い方だと気がつきました。
1年に1回読んで自分を戒めるのですが、読むたびに

分かる。
いや、そこまで分かってはいけない...でも分かるよ、ダメだな、あんた、その弱さ、その振る舞い。...でも分かるよ...。というこちらは踏み込んではいけないという距離感。

この主人公たちにある種の「男らしさ」を感じていて、それを遠くで(ここポイント)感じてあげることが、私に足りないものを補ってくれる気がするのです。

しかし今回は主人公側に立つことになりましたので、そんな距離を置いていてはいけません。リートのピアノはそんなものではない、ということも痛切に感じています。やることがたくさん...すごいんですよ、シューベルト。この音の少なさで表現しちゃうのね、と感動しています。天才ですねえ。
主人公を取り巻く「何か」になるために日々考えています。24曲分、自分が何に変身していけるのか、主人公をどう彩っていけるのか、私の初めての「冬の旅」が始まります。

ちなみに写真は雪の日のすず様。やっと帰ってきた足でそのまま散歩に行きました。シリアスな雪の世界から一転、犬と歩けば楽しい雪でした。どうやらすず様も誰も歩いていない道をわざわざ選んで行くのがお好きでした。
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羽石道代プラスシリーズ第10回vol.1 羽石道代プラス池田直樹「冬の旅」
ゲスト:池田直樹 (バス・バリトン)
2018年3月9日(金)19時開演 18時30分開場
JTアートホール アフィニス
全席自由:一般 3500円 学生 2500円
*当日券あります。18時から販売します。