OCTAVEBURG 外伝

ピアニスト羽石道代の書きたいことあれこれ。演奏会の予定は本編http://octaveburg.seesaa.net へ

女の愛と生涯・私の妄想トレーニング

2019-06-02 | 日記

もちろんこれはシューマン作曲の連作歌曲「女の愛と生涯」のこと。先日、栃木県出身で同じ藝大の同窓生というご縁の小高史子さんのリサイタルで演奏いたしました。お世話になった皆様、聴いてくださった方々ありがとうございました。

2018年3月に憧れの「冬の旅」の後、実は「女の愛と生涯」を何度も聴く(弾いてはいない)機会があった。その大先輩の歌手の方が丁寧に取り組まれる姿は、まさにその曲の中に描かれる「女」の姿と重なり、ときめく少女から子どもを産んだ母のたおやかさ、優しさに包まれていた。それを聴きながら、正直なところ
「うーん、私はやらないかもな...やっぱり「冬の旅」の八方塞がり感の中で、唯一の光は斜め下の視線の先の枯れた花、のような男の世界に落ち着いていくのかもな...」とぼんやり思ったりしていた。

が、世の中には「ご縁」というものがあるもので、その1年後には弾かせていただく機会に恵まれたわけです。

ではまずシューマンについて。

知っている人は、いや気がついている人もほぼいないと思われるが、私は高校時代にシューマンにどっっぷり浸っていた。
第一に自称・文学少女の私としてシューマン自身が文学と結びついている感じとか、自分の中でダヴィッド同盟を作ってフロレスタンとオイゼビウスという違う人格を「飼ってる」ような、(中2的な)いや、ロマン的な感覚が嬉しかった。さらには藝高に受かった直後の宿題が「アベッグ変奏曲」だったことも思い出深い。決め手は、その後の「ノヴェレッテ」のレッスンで私の知識の浅さと甘い勉強方法は先生に叩きのめされたために、図書館に通いつめて調べまくるという趣味を改めて炸裂させることとなった。きっかけをありがとう、という感謝もあります。そしてディースカウの「詩人の恋」と「リーダークライス」のCDを1日1回は聴くという日々を経て、大学時代もシューマンにはことあるたびに随分助けてもらいました。(その後はソロはすっかり縁遠く...。)

そして現在。女と愛の生涯が目の前にやってきた。きたものは覚悟を決めるしかないので、そうだ、今がいいタイミングに違いないと自分を説得し、この機会に恋のトキメキとかも思い出してみようじゃないかと、自分の 女の部分...、...訂正、「自分が思い描く」女、娘、母の面を存分に妄想することにした。

それでいきなりこの前奏ですよ、レベル高。譜読みでもなかなか怖くて音が出せない....

さ、妄想、妄想。(*ここから先は若干昭和の少女漫画風な演出が増えます。勝手に書いているだけですのでご了承ください。)

ときめいて娘の気持ちを妄想して弾いてみると分からなくもない、このリズム。休符が、少女の呼吸の浅さのようで、ドキドキで胸がいっぱいになっちゃって泣くしかなくなっちゃうみたいな。好きな人を目の前にして言葉が出なくなっちゃうのね、お部屋で1人で泣いていたい、なんて、もう、ただの乙女じゃないの!(令和の時代にもまだ存在すると思いたい。)
とか。
あの人すっごく素敵だから私を選ばないで素敵な人と一緒になるんだわ、なって欲しいの、幸せになって!それは私じゃなくていいの(でも私であって欲しい...いけない、そんな望みを持ってはいけないわ)、だってあなたの幸せが私の(いや、そんな...嘘じゃないけど...)...
という( ) つまり心の声多めの揺れる気持ち。最初のピアノの8分音符の連打が勝負でした。

その後告白されて怒って喜びの涙を流すとか、これはもう昭和の少女漫画になりきらないと理解できない。テンション高いぜ!あ、違う、高くってよ!

指輪から結婚式、いいですよね。例え歌詞がわからなくても結婚式の鐘をピアノが鳴らしまくっているので「私結婚しました!」が聞こえてきますよね。妹たちよ、寂しいけど私、いくわね!父さん母さん大事にしてねという、つまり「瀬戸の花嫁」(すみません)。

さてその後は経験談と妄想力が試されましたのでありとあらゆる手段を使っております。

そして、世の中の皆さん本当にごめんなさい、私、犬が好きなもので。動物のお母さんが子育てを一生懸命やる姿、大好きで胸打たれちゃうんです。というわけで、人と一緒にするなと言われても...犬が出てきちゃうのを許してください!
ディズニーの「わんわん物語」アメリカンコッカーのお嬢様犬レディ。(実家で飼っていたので(ハナちゃん)とっても愛着があります。)
ストーリーの前半。レディは飼い主の夫婦のアイドルだったのに2人にお子さんが生まれたために急に相手にされなくなってしまって意味がわかりません。その理由を確かめてやるわ!とこっそり子供部屋に入ります。優しくラ・ラ・ルーを歌いながら寝かしつけをしている揺りかごのところに行って赤ちゃんと対面。そこで一気に母性が目覚めるレデイ。細かい話をするとご主人の手がスッと伸びてきてレディはちょっと(ぶたれる?!)とビクッとしますが優しく撫ぜてもらって安心します。そして「赤ちゃんってなんて可愛いの!私が守ってあげる!」飼い主と3人(2人と1匹)が揺りかごを囲むシルエットが最高の優しく心温まるシーンです。
という、レディの「なんて赤ちゃんって可愛いの!」を妄想していたことは、内緒にしておいてもらえませんか。

そして終曲、ちょっと展開が早くて、え、もうご主人とお別れですか...と、やっぱり女性が長生きしちゃうのよね...が心をさらに複雑にさせます。
「あなたが私の世界の全てだったの」
そしてやってくる後奏。実際の私はこれに怯えに怯えていましたが、歌詞の最後のこの一言がその時々に違う印象を与えてくれます。パアア...と少女時代に完全に戻って弾きたくなる時と、思っても戻れない年月に半ば諦め思いを馳せる現在の自分のままで弾くスタイルとリハーサルのたびに違う気持ちになるのはおもしろかったです。
それとともに女性なら思うでしょ、若さと老い問題。では最後の妄想スタート。

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そっと重ねた右手に結婚指輪に触れた。ああこの金の指輪も随分傷がついてしまったわね、そして私の手。すっかりしわが刻み込まれて娘の頃の滑らかさなんて失われてしまった、それをずっとこの指輪は知ってるんだわ...あなたが私の手を取りこの指輪をはめてもらった日、幸せだったわ、それより初めて会った時、大好きだった、ずっとあなたの事ばかり考えていた、こんな日がくるなんて思わなかったし、時の流れは残酷といえばそうだけれども、そしてあなたがいない世界は考えられないけれど、それでもまた時は流れていってしまうのよ...今までと同じように。
(演出としては 「 、」でつながっていくのが結構ポイント。)
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以上、渾身の妄想でした。(何度も言いますけど私の勝手な妄想ですので苦情は受け付けませんので悪しからず)
この主人公を黒柴・すず様にしたらすっごいしっくりきて気持ちが決まったことはここだけの話にしてもらえませんか。(殿も設定上何回も妄想で葬って申し訳ありませんでした。)

長くなりましたが、私の女の愛と生涯の妄想トレーニングでした。女の愛と生涯、女たちは これは結局はロベルトの理想よねえ、いやいやしっくりくるわ、とかいろいろ意見もあると思いますがそれでこそ人生。人に考えさせてくれる曲はやっぱり名曲なのです。触れられてよかったなと、感謝しています。
そして打ち上げでは魅力的な「女」たちとあれこれ実生活の話していた結果、愛と生涯にはまだまだ加えたい事項が増え、これはもう曲数増やしましょう!ってなったことも、内緒でお願いします。

*写真は妄想の主人公、お姫様抱っこされ中の すず様です。